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第七十六話
ガチガチと歯が勝手に音をならす。
見つかったら終わりだ。
警察に捕まる可能性もあるし、なにより男たちに痛めつけられるのが一番怖い。

「この周辺に居るはずだ、隅々までよく探せ!!」

逃げられないという最悪の状況にもう生きている気さえも失われかけていた。
そこにあるのは、恐怖、絶望。
ドックンドックンと嫌な音を立てる心臓。
あまりの恐怖に冷や汗が吹き出る。
明るいはずの昼間なのに陽菜にはとてつもなく重い暗い闇に見えた。
(陸くん……助けて……)
もう陽菜には祈る手段しかなかった。
(まだ謝ってないのに……ごめんねって言いたいのに……)
ぽろぽろと涙が溢れてくる。
それにこのままでは約束を破ってしまう事になる。
『一緒に強くなろう』という約束が。

「居た!!」

心臓が跳ね上がり陽菜は後ずさりする。
長身の男がすぐ目の前に立っていた。
無駄だと思いながらも陽菜はポケットから震える手でスタンガンを出す。
男はそんな陽菜を見て嫌な笑みを浮かべると陽菜の頭を思いっきり殴った。

「ガキのくせに手間焼かせやがって」

ズキズキを痛む頭を手で押さえる形でうずくまる陽菜。
こういう痛みには慣れていたはずなのに。
やはり母親と男では比べ物にならないくらい力の差があった。
ほとんど無意識に頭を上げると他の男たちも目の前に居た。

「おい、どけ。俺にもやらせろ」

殴った男に命令する。
そしてその男は陽菜の腕をつかむと身動きできないように力を入れる。
(痛い……っ)
声には出せないので心の中で絶叫する。

「俺が押さえとくからお前らでこいつにお仕置きしろ」

ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる男を思いっきり睨みつける。
男の一人が陽菜の許していない体の部分を触る。
ぞくぞくっと寒気がした。
(嫌……嫌……っ)
悔しくて、悔しくて涙が溢れ出す。
その感覚は陸の時と違う気持ちの悪い感覚だった。

「くくく……泣いてる泣いてる、今度は脱がせるか」

とんでもないことを言われて陽菜はビクッと痙攣する。
そこには闇のように暗くて怖い雰囲気があった。

「やだ……っ」

我慢しきれなくなって嗚咽まじりで反抗する。
が、それは男たちを更に喜ばせただけで儚く終わった。
男の怖さを連想させる手が腰のスカートのチャックに来る。
陽菜はとうとう今まで我慢していたこと全てがめちゃくちゃに放出された。

ガスッ

最後の力を振り絞って男の顔面を蹴った。
驚いてつかんでいた男は手を離す。
その隙に倒れた男のポケットから落ちた短剣を広い力一杯首に突き刺す。

にちゃっ

なんとも言えない嫌な感触がして生暖かい液体が飛び散り顔にかかる。
それでも陽菜は何回も刺す。
そんなことをしているうちに我に帰った男二人が襲いかかって来た。

「この、くそガキがぁあああ!!」

陽菜を首から押し倒す形に男は馬乗りになる。
そしてキリキリと陽菜の首をつぶれるくらいの力で絞め始める。

「ぁ……ぐ……」

吐きそうになるのを必死に堪える。
ここで吐いたら喉に詰まって窒息死してしまう。
(だれか……助けて……)
陽菜はほとんど枯れている声で叫ぶ。

「誰かぁ……っ、助け……」

絞められている手に更に力が込められる。
めちゃくちゃになった頭に一人の少年が浮かぶ。
(陸くん、ごめんね……っ)
諦めて目を閉じかけたとき目の前がこの世のものとは思えない美しい紅蓮で埋め尽くされた。

「――――っ!?」
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