第六十九話
陽菜は自分でも気づいていないが、いろんなことがありすぎて疲れていた。
陸たちのこと、淡紅のこと、男たちのこと……いくら楽しいこととはいえ、一遍にこれだけのことがあって疲れない人間は居ない。
その疲れを唯一癒してくれる存在……ぬいぐるみに話すことで耐えることができた。
これをくれた女の子の言葉を思い出す。
『なにかあったらこれに話しかけてね、ちゃんと受け止めてあげるから』
今でも憧れの幼い女の子……。
その子の記憶は今でもはっきり覚えている。
ある雨の日……まだ幼かった自分を助けてくれた子。
陸となんとなく似てたかもしれない。
体格に合わない強気に笑うとかわいい女の子。
陽菜は今日その子と同じ空間に居たことを知らない。
「痛た……本気で蹴ることないじゃないですか……」
先ほど姫にマジで殺られかけた和佐が口を開く。
「和佐くんが悪いんだもんっ……あんな……あんなことするからっ」
真っ赤になって言い返す姫。
事の始まりは夕食。
食事中も無言だった姫を和佐は元気づけようとして(本人はそう思っている)……
見事にハイキックを腹にくらった。
と言っても悪いのは完璧に和佐の方だった。
シャワーを浴びている時、わざと姫に石けんを取りに来てもらってそのまま裸で抱きしめ、しかもスカートをはいている姫の生足に男のシンボルをこすりつけるという変態行為をしてしまったのだから蹴られるのもしょうがない。
一歩間違ったらマジで殺されていたかもしれない。
「あ、もしかしてこれも一つの愛情表現!? 好きだからこそ虐めたくなるっていいますもんね……ごふっ」
スリッパが顔面にヒットした。
「ひ……姫はそんなサディスティックな要素は含まれてないもんっ!! 十夜くんじゃあるまいし……」
鼻血を垂らして言う和佐。
「な……なかなかの攻撃でしたよ、今の。一瞬、花畑牧場見えました」
「いや、そこでなぜに花畑牧場!? そういえば和佐くん甘党だったね」
この前死ぬほど並んで買った花畑牧場の生キャラメルがまだ忘れられないらしい。
姫はため息をつく。
(和佐くんがいつもこんなんだからあんな夢見ちゃったんだもん……別に、姫がしたいとかそういうわけじゃ……ないもん……)
「まぁ良かったです。姫が元気になってくれました」
「ぇ?」
「だってさっきから元気なかったじゃないですか」
どうやら元気づけてくれたらしい和佐に少し驚く。
そして言う。
「今度東京バナナ買って来てあげる」
これは姫なりの感謝の印。
和佐はぷっと吹く。
「別に東京バナナじゃくていいですよ、僕にはもっと欲しいもの、ありますから」
「…………? なに、それ?」
無垢な彼女の返事に答える様に和佐は姫を引き寄せる。
「…………んん……っ」
噛み付く様に和佐は口を啄む。
そして温かい彼女の舌を自分の物と絡ませる。
そして、離す。
彼女の熱い吐息が顔にかかる。
「お礼は貰いました、僕にはこれで十分です」
姫はその場にぺたんと座り込んだまましばらく立つ事ができなかった。
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