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第六十話
その一言を境に陸の様子に変化が出た。
陽菜の顔にぽたぽたと熱い雫がかかる。

「なん……で……俺……俺……」

陸は泣きながら陽菜の肩に顔を寄せる。
それは高校生というより小さな男の子の様な泣き方だった。
陽菜は何も言わない。
陸の頭の中は半分パニック状態だった。
(知られてしまった……)
陽菜だけには知られてほしくなかった黒歴史。
自分が弱い、小さい存在であること。
もう数々の戦いのせいで心身ボロボロになってしまったこと。
そして……自分が得体の知れない『何か』になりかけていること。
ストレスというものはどんどん陸の心を蝕んできた。
死ぬことさえも許されない地獄にある陸の心がなんとか狂わずに済んだ理由。
それは和佐や姫たちのおかげだった。
今は陽菜も居る。
彼らが自分を必要としているのならば死ぬわけにはいかない。
しかし、そんなプライドに心が比例してくれるはずがない。
たぶん死ぬ前に自分は自分でなくなる。
それが、怖かった。
人と一緒に居ることで痛みを忘れ『平気』だと自己暗示してきたがもう保ちそうにない。
なぜなら平気なはずはないからだ。

「う……っ……ぅうっ……っ」

嗚咽と涙が後から後から流れ落ちる。
今まで自分でなんとかしてきた、思い出したくない記憶、感触が蘇る。
その時、初めて陸は事実を口に出してしまった。

「嫌……だ……」

「……?」

「俺は……俺は……思い出したくないのに……っ」

忘れたいのに焼き付いたようにこびりついている記憶を憎む。
そんな時、陽菜が言った。

「今は……思い出さなくていいよ。だから……」

陽菜は支えていた手に力が籠る。

「一緒に、強くなろう」

微笑む陽菜は陸にとって光の様だった。

「うん……っ」

受け入れてくれている、そんな開放感を陸は味わう。
(ありがとう……陽菜……)
陽菜の暖かさが心地よく伝わってくる。
陸の意識はどんどん薄れていった。


(寝ちゃった……?)
陽菜は心地良さそうに眠る陸を見てみる。
泣きつかれたのか、座り込んで陸は寝ていた。
(本当、ちっちゃい男の子みたい……)
陽菜を抱き枕にするような状態で寝ている陸を無駄だとわかっていて声をかける。

「り、陸くんー……ここ玄関だよー……」

案の定起きない陸に陽菜はため息をついてまじまじと見る。
(わぁー……こうやってみるとまつげ長い、肌白い……)
寝ている陸は女の子みたいな奇麗な顔立ちをしていた。
かっこいいと言うよりは可愛いの方が近いのでは、と思ってしまう。
(起きない……よね……?)
さっきまでずっと陸のペースにのせられてきた陽菜は年下と言えどお返しくらいはしたかった。
ドキドキと激しく鼓動が高鳴る。
そして……陸の頬に触れるかか触れないかくらいの軽いキスをする。
それからついにいろいろなことがありすぎたせいか、それとも自分に抱きついて爆睡している陸から睡魔が伝わったのか眠ってしまった。
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