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第四話
 ようやく陸が陽菜のもとへ帰ってきたのはあれから10分後。
 たかが飲み物を買うことだけにこんなに時間を費やしたのは陸も初めてだ。
 そのころにはさすがに陽菜も泣きやんでいた。
 まだ目が少し赤いけれど。

「桃、嫌いじゃないよな?」

 陸はさっそく一番自信のないところを聞いてみる。
 ここで「桃……嫌いなの……」とでも言われてしまったらショックのあまり死ねるかもしれないと本気で思った。
 この情けない生物が自分だということを本当に否定したい。

「うん、好き」

 小さく微笑んで言う陽菜の言葉に陸はようやく自分の選択が間違っていなかったことに安堵した。
 陸は陽菜をまじまじとみた。
 やっと顔しっかりとみれる余裕ができたからだ。
 大きくて丸い目、セミロングくらいの黒髪、陶器みたいな白い肌。
(セーラー服着てるし中学生かな。となると……この子俺より年下なのか。っていうか俺名前聞いてねぇじゃん)
 先ほど聞き忘れたというミスをもう一度犯さないように陸は聞く。

「名前、聞いてなかったよな? 俺は甘利陸。お前は?」

 陽菜は飲んでいたジュースを膝に置き、

「鈴風陽菜」

 少し頬を朱に染め言った。
 やっと聞き取ることのできたその声は鈴の音色のような心地の良いものだった。
 どうやらジュースの中身は空らしい。

「陽菜か、よろしくな、陽菜。ちなみに俺のことは陸でいい。今まで俺のことを名字で呼んだやつは……うん? 居たかもしんないけどとりあえず名前で!!」

 そういって陸はニカッと笑った。

「うん、よろしくね、陸くん」


 この出会いはまた、陽菜にとって新たな出会いを生む。
 陸にとって新たな感情を与えられる。


 ポケットの中に、ハンカチがある。
 先ほど傷を癒すために陸が使ったハンカチだ。
 返し忘れた、と気づいたときはもう遅かった。
 陽菜はさっきまでのやりとりを思い出していた。


 ――自己紹介をした後。

「あの……ありがとう……」

 今にも消えてしまいそうな声で陽菜は言った。
「ん、どーいたしましてっ」
 対して陸は聞いていたのか聞いていなかったのか曖昧な返事をした。
 それからさも今思い出したという顔をして、
「君、いくつ? その制服、柏葉中のだよな?」
 などと言う。
 そんな気さくな少年に、
「あ、はい。十三歳、中一です」
 陽菜はどうしても緊張してしまう。
 陽菜にとってこんなふうに知り合ったばかりの人と会話をするなんてことは初めてだったからだ。
 しかもよりによって相手は年上、それも異性。
 陽菜の心はピークに達していた。
「中一!? 中三じゃなくてか!? 若っ!!」
 こちらはまったく緊張の欠片もなく、
「あ、あと俺に敬語使わなくていいぞ」
 などと言ってくる。
 なので陽菜の方もだんだん慣れてきた。
「あ、うん、わかった。えっと……陸くんは、いくつ?」
 なるべく好印象を与えようとがんばったが陽菜にはここまでが限界だった。

「十五。高二だ」

「?」
 疑問がわいた。
 十五歳といったら普通中三か高一のはずだ。
「あ、言い忘れてた。俺飛び級してるから」
 今更気づいたのか陸は付け足した。
(あれ? 日本って飛び級とか認められてたっけ?)
 陽菜は少し疑問を持ったが、とりあえずそういうものなのだろうと流す。
「その制服……あまり見たことないかも……」
 この無駄に気さくな少年のことを少し話しやすい相手として認めた陽菜は聞いてみた。

「ああ、そっか。この辺じゃ見たことないよな。淡紅のだ」

 陸はあっさりと言った。
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