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第三十九話
「あ、帰ってきたみたい」

陽菜はうれしそうに玄関の方に駆け寄ろうとして、思い出したように和佐の方に振り返る。

「あ、ありがとうございましたっ」

そう言い残すと今度こそ玄関の方に行った。
取り残された和佐はくっと笑い、声を零す。

「僕もあなたみたいな人で安心しました」

和佐にとって陸は人に順位をつけてしまうとすれば姫と同じくらい大切な人だった。
かつて人間不信に追いつめられた自分に一番やさしくしてくれて家族のような存在だった。
それは昔も今も変わらない。
親友であり、師匠であり、また兄でもある、すごく大切な人。
決して傷ついてほしくない人。
そんな彼の好きな人に和佐は不覚ながら少し嫉妬していたのだ。
でも和佐の思ってた数倍はいい人だったので安心した。

「おかえりなさい」

玄関の方で陽菜の声がした。
和佐もつられて玄関に行く。

「ん、ただいま。いちごプリン買って来た」

ごそごそと靴を脱ぎ、陸は買って来たいちごプリンを皿にのせる。
和佐が陽菜にこそっりと、言う。

「ほら、さっきの陸に聞いてみて下さい」

陽菜はこくんと頷く。
『さっきの』とは和佐が答える事のできなかったあの難題。

「陸くん、一つ聞いてみたいことがあるの……」

「な、なんだ? 改まって」

少し陸は動揺する。
そんな彼を気にせず陽菜は聞く。

「妖精さんってどんな人たちなの?」

そんな難題に対しての陸の返事はとてつもなく失礼な三文字だった。

「キモい」

ぶっと隣で和佐が吹く。
陽菜も少しつられて笑う。
そして陸はさらに付け足す。

「え!? 別に俺まちがったこと言ってないよな、和佐!? だってあいつら猿みたいに顔真っ赤だし喋る時眉間にシワ寄せまくって怖いし唾飛ばして汚いし、なんか理科実験室のぞうきんみたいな濃い体臭してやがるし、俺ああいうやつ一番嫌いなタイプかも」

いかにも『キモー』的なうんざりした目で陸は言う。
和佐は震える肩で頑張って言う。

「そ、それ本人たちに言ったら……ぷくく……悪魔と妖精の民族争いにな、なりそうですね」

よほどツボったらしい。
「や、もしなったとしても俺らあんな全身タイツばっか来てるヤツらに負けないから」

『全身タイツ』というワードに陽菜の想像はついに砕け散ってしまった。
そんな彼女も自分の想像とのギャップに思わず吹いてしまう。

「ぜ、全身タイツ!?」

「そうだ。しかも全員お揃いの、マグロっぽい色の趣味悪いの。団結力高めてんのかしらねぇけどあれは無い。うわぁ、思い出しただけで気持ち悪っ」

陸は首元をかきむしる。
そんなに気色悪いのか、と陽菜は爆笑していた。
自分でもこんなに笑ったのは何年ぶりか、と思う。
横を見ると和佐が笑いすぎて立ち上がれなくなっていた。

「り、陸っ、確か君生物図鑑持ってませんでしたっけ?」

陽菜に実物の写真を見せてあげたい、と言う風に和佐は聞く。
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