第三話
なんでこの人は……私をどこへ連れて行くつもりなんだろう。
どうして、見ず知らずの、私なんかを助けてくれたのだろう。
わからない。
わかるのはそこにあるあたたかさ。
ようやくベンチについた。
実際には二、三分しかたっていないはずなのに陽菜にとっては一時間くらいに思えた。
陸は陽菜をベンチに座らせるとバックからペットボトルを出した。
「一応、冷やしといた方がいいよな」
陸はそう言いながらペットボトルの中身……水をハンカチでぬらし、けがをしたところに当てる。
「ちょっと染みるけど……って!?」
陽菜が泣いていた。
「うあ!? ごめん、俺何かした!? 痛かった!?」
さっきまでの殺気や発言が嘘のように焦り戸惑う陸。
その姿はどう見ての普通の高校生……いや、見方によれば中学生にも見えるかのしれない男の子のものだった。
フリフリと陽菜は首を振り、
「どうして……どうして、こんな、私なんかに、優しくしてくれるの?」
泣きながらどぎれとぎれに陽菜は言った。
「いや、なんというか、俺超寝起き悪くてさ、気持ちよく寝てたときに防犯ブザーで起こされて、かなり苛ついてて……そんで行ってみたら駅前でよく見かける女の子がなんかけがしてて……それで」
(というかほとんど無意識だっただけなんだけど)
陸は自分の発言に突っ込んで、陽菜の顔を覗き込む。
涙で顔がくしゃくしゃになっていた。
「あ、俺、飲み物買ってくるから!! そこでちゃんと待ってろよ!! 逃げたら極刑」
そう言い残して陸は自販機に向かった。
覚えててくれた。
ただそれだけのことなのに。
なによりもうれしくて。
どうして、どうして涙がこんなに……。
悲しくないのに。
うれしかったのに。
「ありがとう」って言い忘れちゃった。
戻って来たらちゃんと言わなきゃ。
先ほど女の子を泣かしてしまった陸は今自販機の前に居る。
(しくった、あの子の好みの飲み物聞いてねぇ!!)
女の子の好きな飲み物……。
想像がつかない。
陸の通っている淡紅学園は全体的に女子が少ない。
とくに高等部は五分の一もいないだろう。
実際陸のクラスには女子は二人しかいない。
(桃でいいや、っていうか桃嫌いな女子はいないよな?)
陸は勝手な想像をしながら結局桃のジュースを買った。
(結構、かわいい子だったな)
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