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第三十二話
それから二十分、全力疾走だった。
そんなこんなで二人はふらふらになってしまったというわけだ。
そして姫はやっと和佐が居ない事に気づく。

「あれ? 和佐くんは?」

姫は和佐の存在を完璧忘れていた。
遅い。
遅すぎる。
カメよりも遅い。
たぶん本人がいたら上記のことを思うだろうことを十夜は考えてみる。

「そういえば、僕も三分くらい前に気づきましたー。家、帰ったんじゃないですか?」

姫と和佐の住んでいるマンションは陸たちのマンションの隣にある。
例の洋風のマンションだ。
よって、そのままあきれて家に帰った可能性が高い。

「そう……だよね。うん」

珍しく自信なさそうに言う姫。
一緒に着いて来てくれなかった事に少し悲しむ。
そんな彼女を十夜は、結構かわいいとこあるんですね、と勝手な感情を抱く。
そしてさっきの表情を誤摩化すように姫は元気よく言う。

「のど乾いたね、アイス食べよ」

そして十夜も気づかなかったふりをする。
(本心は寂しいくせに……)


――淡紅学園校長室で。

「やぁ、今日は早かったね♪」

満面の笑みを浮かべるどう見てもヨーロッパ系の若々しい男性が一人の少年に声をかける。
正確には声をかけないと本当に今すぐにでも噛み付いて来そうなくらい苛立っている。
そして、それが逆効果になっていることを男性は気づかない。

「っだぁあっ!! なにが『早かったね♪』だっ!! ♪いらねーだろ!! っつーか一発殴らせろ!!」

そう、この怒鳴った少年が陸である。
かなりの陸の怒鳴りにビビることもなく反対にさらに笑みを深めるこの男性は淡紅学園総理事長・リシャール。

「そんなに怒らなくても陸ちゃんにはやさしくしてあげるって」

まったくかみ合ってない会話である。
リシャールはそう言うと怒ってる陸にそっと近づき耳元で話しかける。
気色悪過ぎだ。
あえて言うならばどっかのボーイズラブとかいう漫画のシーンみたいな感じだ。

「あんまり暴れるとちゅーしちゃうぞ」

げしゃぁっ
とっさに陸はリシャールの顔面に蹴りを入れた。
蹴られたリシャールの大柄な体が見事に吹っ飛ぶ。
「キショいんだよてめーは!! この変態!!」
少しよろけながらもリシャールは立ち直した。
「酷いじゃないか。そりゃあ照れたりするところも君のかわいい所なんだけど」
(うぜぇ!! マジうぜぇ!! っていうかぜんぜん懲りてねぇし!!)
もはや突っ込む気力もなくなった陸は死んだ様な視線をリシャールに送る。

「あっああっ!! ごめんよ。謝るから僕をそんなかわいそうな生き物を見る目で見ないでおくれっ!!」
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