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第六章 風邪……?
第二百八十五話
 午後八時三十分。
 世界を轟かす高校生ドクター鏡翼は甘利家の玄関の前に立っていた。
 数十分前陽菜から携帯で呼び出されたのである。
 用件は家で聞く事になっていた。
(……まさか、な)
 ドキドキと高鳴る鼓動。
 陽菜と二人きりで話す事なんて鏡には二択しかない。
 一つは陸の事。
 陽菜の彼氏である陸の事を一番淡紅で知っているのは付き合いが長い自分である。
 しかし、あの陸が陽菜に隠し事なんてしているとは考えにくい。
 二つ目は……そう、あれだ。
 男女が一つの屋根の中で話し、寄り添い、絡み合い……そして……
(アホか、俺は)
 鏡翼は陸や中沢と違って馬鹿ではない。
 常に冷静に考えられるタイプなのだ。
 彼は自覚していた。
 自分は生まれつきの不幸体質だと。
 ドキドキからドクンドクンに変わっていく心臓を確認し、大げさに深呼吸して鏡はインターホンを押した。

 ピンポーン

 聞き慣れたはずの音のはずなのになぜだかいつもより大きく聞こえた。
 つい数秒前までの甘い妄想と正反対の冷たい感覚が背中を過る。
 そうだ、大抵こういう時の勘は間違っていない。
 鏡は死神なのでレッド等の予知能力は持っていないのだが、野生の勘的なものがそう叫んでいた。

 カチャ……

「か、鏡さん……?」

「あれ?」

 出て来たのは白いワンピースを着たいつも通りの陽菜だった。
 別に顔が半分崩れたりも腕が捥げていたりもしない普通の陽菜だ。
(馬鹿……なんで甘利ん家に行くだけなのにこんなに警戒してんだよ……)
 警戒心むき出しの自分を恥ずかしく思い、警戒を解いていつもの笑顔に戻った。

「や、なんでもないんだ陽菜さん」

「? そうなんだ? お菓子とか用意してるから上がって」

「ああ」

 鏡は陽菜に促されて靴を脱いだ。
 そのタイミングを見て陽菜がさっとスリッパを出す。
 まるでメイドさんみたいだった。
(それにしてもこの子やっぱかわいいな。甘利にはもったいない)
 もう恋愛感情は持っていないもののそう思ってしまうほどの魅力が彼女にはあった。
 自然と鏡の頬がでれっとだらしなく緩む。

「陽菜さん……っ!?」

 鏡はだらしない顔のまま固まった。
(!? なんだこれ!?)
 足にいきなり人一人分の重みが加わったのだ。

「な……なんだよ……?!」

 ガタガタと震えながら自分の足下を見ると、さっきまで無かった黒いマントが落ちていて、そこから出た異様に細い腕で自分の両足を掴んでいた。
 しかも一歩も足を動かせないくらいの馬鹿力で。

「鏡さん……?」

 目の前できょとんとしている陽菜は不思議そうにしていた。
 彼女にはこの黒いのが見えないらしい。
(ってことはやっぱり……)
 幽霊と言う言葉が頭に浮かび一気に青ざめて行く鏡。
(う、嘘だ……)
 そう思おうとしたが、足を握るその腕が絡みついてきたあたりで鏡の理性は失われた。

「嘘だぁああああああああああああああっ」

 そう叫んでポケットに入っていたボロボロのお札を黒いマントに投げつけた。
 昔朱里が自分のあまりに酷い不幸さに同情して貰ったものだ。
 しかし霊は怯むどころか膝のあたりまで絡み付いてくる。

「ぜ、全然効かねーじゃねーか卯月ぃ!!」

 バランスを崩してその場に倒れる鏡。
 もう終わりだ。
 鏡は最後の悪あがきとして涙目で陽菜の足に抱きついた。

「陽菜さん!! 俺の足んとこに幽霊いるんだけど見えないのか!?」

 必死で叫ぶ。
 しかし返って来たのは女神の助けではなかった。

「……ぷ」

「……へ?」

 思わず間抜けな声が口から溢れた。
 陽菜が肩を震わせて笑っていたからだ。

「ぷぷぷっ」

「きゃはははははははっ」

 今度は幽霊も揃って笑っていた。
 鏡は呆然としたまま足下を見る。
(お化けじゃないのか?)
 その視線を理解した霊はマントの下から可愛らしい顔をちょこんと出した。
 黄色い髪の毛を揺らして無邪気に彼は笑う。
 それは鏡の良く知っている顔だった。

「陸……!?」

「だいせーかい!」

 マントに包まれた陸はがばっと鏡に抱きついた。
(……!?)
 鏡の脳内が完璧にフリーズする。
 目の前に居たのはまぎれも無い自分が育ててきた幼少期の陸だったのだ。

「ぇええええええええええええええええええええっ!?」

 鏡の勘は決して外れたりはしない。
次回もドッキリです(笑
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