第二十話
翌朝七時。
駅の南口に一人の女の子が居た。
陽菜である。
昨日さんざん迷ったあげく、自分のベストを尽くした格好で陸を待っている。
普段はしない薄化粧にもチャレンジし、お気に入りの香水もしてみた。
(私、変だよね。今までこういうのあんまり興味なかったのに)
緊張がどんどん高まっていくのが自分でもわかる。
それと同時にかすかな不安もよぎる。
(ついに、淡紅の地に踏み込んじゃうんだ……)
今まで人間の誰もが踏み込めなかった地。
一時マスメディアなどで取り上げられ、有名になったが、結局誰も行けなかったので伝説になってしまった地。
自分なんかがそんな地に踏み込んでしまっていいんだろうか?
そんなことを考えているうちに声がかかる。
「おーい、陽菜ーっ」
(来た!!)
「陸くん、おはよう」
今まで、いいたくても恥ずかしくて言えなかった挨拶を言えた。
陽菜はひそかな満足感に浸った。
「ん、おはよ」
こちらはそんな様子を全く気にしてないようである。
気づいてないのか気づいているのかはわからない。
陸は微笑み、陽菜の手を取る。
「じゃ、行こうか」
そして、絡ませる。
陽菜は少し照れ、言う。
「うん」
二人は歩き出した。
陸はいつもの制服にカーデガンを羽織っただけという甘利財閥の一人息子とはとても思えない服装である。
もちろん陽菜はそんなこと気にする余裕などないのだが。
重症なのは陽菜の心臓である。
手を握られるくらいならまだしも、強く絡ませられるとなるとは予想もしていなかった。
陸の体温が陽菜に伝わる。
陽菜は自分の心臓の鼓動が陸にまで聞こえてるんじゃないだろうかと不安になってしまう。
それと……たぶん真っ赤になっているだろう顔。
本当なら今すぐにでも鏡で見てみたい所だがさすがにできない。
(どうしよう……見られたら、恥ずかしい)
「あのさ」
「ひゃっ!?」
いきなり声をかけられたことに驚く陽菜。
心臓が停止する寸前の状態に潤んでくる瞳、熱くなる顔、変な声を上げてしまった恥ずかしさ、全てが陽菜に襲いかかってくる。
(ど、どうしよう!!)
人類の危機的状況に立たされてしまった陽菜を陸はなんとか助け出す。
「ど、どうした? 頭でも痛いか?」
「ち、ち、ちがうの。えっと、その、なんというか、緊張しちゃってて」
言いたい事が全部バラバラになって陽菜の口からこぼれだす。
そんな陽菜に陸は、
「ぷ……くくく……」
笑っていた。
それも爆笑レベルに。
「!? 私、変……だった?」
陽菜は少しショックを受けた。
(どうしよう。変な子って思われちゃったかも……)
「いや、本当陽菜っておもしろいヤツだなーと。あ、別に悪い意味じゃないから」
陽菜は少し安心して、問いかける。
「じゃあ……どういう意味……だったの?」
とにかく悪くないと言う事がわかったので、別のプラスの意味だと陽菜は解釈した。
が、やはり自信がないのではっきり聞くしか無かった。
「いや、その、そいうとこ、いいんじゃないかなって」
「……ぇ?」
全く予想外の事を言われたので少し戸惑う陽菜。
「だから、俺はお前のそういうとこ……なんていうか……かわいいなって思っただけで……」
陸は赤くなって言う。
陽菜はキョトンとして陸の顔を覗き込んでいたが、言われた内容が頭で整理されたのか、真っ赤になってうつむく。
絡み合わせた手に力が入る。
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