第十五話
「どうして?」
陽菜は驚いた。
とてもそんな感じの人には見えない。
「まぁ、いろいろあってさ。結局最終的に捨てられた。捨てられる様な事した俺が悪いんだけど」
陸は笑って話すが、その中にとても辛い何かがあったことは陽菜でも気づいた。
だから、それ以上陽菜は追求しない。
「お魚……私も買おうかな」
突然話題を変えた陽菜の心情に気づいたのか、陸は陽菜の頭を撫で、
「お前、本当いいやつだよな。お母さん何の魚が好きなんだ?」
聞いた。
「鰻。でも私鰻苦手なの」
「へー、鰻ダメなんだ」
意外そうに呟く。
「じゃ、鮪は? 俺結構コレ好きかも」
得意そうな陸に、
「鮪……私も好き。普段食べられないからそれにする」
陽菜は決心した。
「普段食べられない?」
「お母さん、鮪嫌いなの。でも明後日の朝までは帰ってこないから大丈夫」
明日は祝日、学校はないはずだ。
陸も単位は入れてないはず。
だから陸は言う。
「明日、一人なのか?」
「? うん」
陽菜はこれから聞かれることを薄々感じていたが今までそんなこととは無縁で期待する方が間違っていると思った。
だが、実際その予想は当たっていた。
「明日、うちに来るか?」
「ぇ……?」
陽菜はあまりの展開に驚いた。
頭の中が真っ白になる。
「いや、えっと、嫌なら断ってもいいんだぞ?」
陸が自信なさげに言った時、陽菜はやっと状況が理解できた。
うれしさがこれ以上にないくらいこみ上げてくる。
「うん、行く!!」
陽菜は生まれて初めて自分のうれしさをはっきり感じた。
「明日の朝七時、駅前南口で待ってろ。迎えに行くから。あ、朝食出すから食べなくても大丈夫だからな」
陽菜はそう言い残した陸と別れ、家に帰る。
(男の子の家……行くの初めて)
少し緊張した。
男の子と言うか、陽菜はまだ友達の家すら行ったことがないのだ。
そしてなにより……陸の家は淡紅の街にある。
今までどんな人間も行くことのできなかった地に自分が行く。
(どんなところなんだろう)
怖くはなかった。
むしろ行きたかった。
たぶんそこは人間たちによってこんなに汚くされた街よりずっと美しいものだと思っていたからだ。
とりあえず陽菜は持って行く荷物、服を準備することにした。
普段おでかけなどに使うかわいいバッグを出した。
父方の祖母から買ってもらったものだ。
陽菜はハンカチ、ティッシュ、あとお財布を入れる。
準備をしているだけなのになんだかわくわくしてくる。
(こんな気持ち……初めてかも……)
次に洋服。
陽菜はクローゼットに掛けてあったお気に入りの洋服を引っ張り出す。
ふわふわした白い春ニットのトップスとひらひらした落ち着いた桜色のミニスカート。
まだ寒いのでその上にキャラメル色のジャケットを着ることにした。
準備が終わったその夜。
陽菜は気に入ってるテディベアに話しかける。
このテディベアは陽菜にとってとても大切な宝物だった。
かつて、一人の女の子にもらったテディベア。
「明日、初めて陸くんのお家にいくの」
もちろんテディベアは喋らない。
しかし、陽菜はそれでも話しかける。
「私をこの汚れた世界から連れ出してくれる様な気がするの」
そして、微笑む。
「暖かくて光の様な男の子なんだよ」
いつの間にか陽菜は眠っていた。
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