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第十一話
(これなら私でも作れるかも……)


陽菜の姿は南口の目の前にある書店にあった。
二階建ての全面ガラス張りに手入れがちゃんと行き届いてる明るい店内。
よくテレビのCMなどで宣伝してるだけあって人気の書店である。
つまり、約束の時間まで時を潰すのにとても適した場所である。
陽菜はその中の料理本コーナーに居た。

もともと陽菜は料理が好きで、得意でもあった。
毎日三食、母親と自分の分を作っている。
実を言うと母親が自分の作った料理を食べているところは見たことがないのだけれど。
しかし、陽菜はそんな母親のことが嫌いではなかった。
たぶん、自分のまだ覚えていないときやさしくしてくれたのだと思う。
そんなあたたかさは今でもわずかに覚えているような気がした。
ああなったのも、とてもつらい思いをしたせいだと思う。
だから、嫌いになれなかった。

陽菜はケーキの本を手に取る。
タイトルが[簡単、初心者でも作れるおいしいケーキ]なだけあって陽菜でも作れそうなのばかり載っていた。

(お母さん……)

気づくと陽菜はその本を持ってレジに向かっていた。
財布の中身、六百円。
本の価格、五百円。
よって所持金、五十円。
買ったときには遅かった。
しかも今日はよりによって母親が帰ってこない木曜日。
(ごはん……どうしよう……)
陽菜は返品する有機もなく南口へ向かった。

時計の針は午後五時四十五分を刻んだ。



(後ろになんかついて来ている)

陸は気づいていた。
たしか自分が学園を出たあたりからだ。
二人、居る。
気配は消している様なのでさすがに波動は感じられない。
つまり、誰なのかまったく分からない。
(適当にまいとくか)
派手に雷劇をぶちまけることも考えたが、ここは淡紅地区外。
いつものように冗談でごまかせはしない。
第一それで死人が出たりしたら、いろいろ面倒な事になる。
よってとる行動は、逃亡。

「ストーカーは感謝しないけど?」

陸は電柱のあたりを睨む。
彼らは陸の隠せざる能力を知っているのかギリギリ気配探知のフィールド外にいた。
十中八九知り合いである。
陸は諦めてあまり使いたくない悪魔の基本技を使った。
色が、輪郭が、気配が、全てが見えなくなった。

「空間移動《テレポート》!!」

瞬く間に陸は逃亡した。
そしてその瞬間をとらえた電柱に身を潜めていた二人は叫んだ。

「逃げられたぁあああああああっ」

こうして、姫と和佐のはじめての尾行は跡形も無く失敗した。
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