第十話
一夜が明けた。
陽菜はいつも通り学校き下校する。
ただし、向かう場所は家ではない。
駅の南口。
陽菜は手の中にあるメモをもう一度見た。
『午後六時くらいから南口に居るから』
腕時計の示す時間は五時。
南口にはあと三分くらいで着きそうだ。
(ちょっと、早かったかな)
もう少しで陸に会える。
(ハンカチ、返さなきゃ)
バックの中には昨日返し忘れたハンカチ。
昨晩、手洗いし、アイロンをかけかわいい袋に入れてある。
(今度は昨日よりたくさん話したいな)
――キーンコンカンコン
理事長の趣味丸出しの古くさいチャイムが授業の終わりを示す。
ここは淡紅学園高等部二年C組。
別名、姫様陸ちゃんクラス。
陸は鞄に荷物をまとめ帰る支度をした。
と、不意に後ろの方で話しかけられた。
「ねぇねぇ陸ー、今日放課後空いてる? 和佐くんとケーキ屋行く予定なんだけど、陸も来ない?」
振り向くまでもなくアニメのキャラクターようなかわいい声の主はもちろん姫。
いつもなら一緒に行くが今日は行く訳には行かなかった。
今日、陸(独り身歴数十年)にはれっきとした予定があるのだ。
「悪い。今日ちょっと寄るとこがあるんだ。また、今度な」
言い終えると陸は逃げるように教室から出て行った。
「……陸」
姫は陸の去った廊下の方をじっと見つめて表情を歪めた。
時計の示す時間は午後五時半。
陸が去った後、教室内の空気は一気に重くなった。
室内に居る誰もがそれを感じ、口を開かない。
空気を重くした張本人、姫が口を開く。
「むー、陸ちゃんのくせに姫のお誘い断った……」
恨めしそうに姫は声を低くする。
「陸ちゃん、昨日からなんか変。昨日だって帰るの遅かったし、なにがあったのかさえ教えてくれない……」
姫はそういいながら長身の男子生徒に視線で助けを求める。
「そういえば、授業中に話しかけても反応うすかったです」
無駄に色気のある声(通称エロボイス)の男子生徒の答えが返ってくる。
この少年は月見里和佐(十七歳バージョン)。
彼は自分の意志で五歳になれる特殊能力を保持している。
「だよね、とにかくなんか変だよ……」
姫はまゆを潜める。
「もしや、今頃かわいい女の子と一緒に居たりして」
陸と仲のいい髪がぴょんとはねている男子生徒の一人が言う。
瞬間、重くなってた空気が一気に凍った。
(まさか、ね)
誰もがそう思った。
今まで恋愛とは未知の存在だと言っていた陸がそんなことはない、と。
だが、もしそうだとしたら。
(確かめなくちゃ)
姫としてはこのなんだかモヤモヤする気持ちを晴らしたかった。
「和佐くん」
和佐はすべてを察したように、
「了解です」
言うと同時に五歳児の姿になる。
こうして姫と和佐は陸を尾行することになった。
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