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アストライア
作:蓮千里



杏と白夜


――10年前――

「子供の部なんてつまんねーし、かったりぃよなぁ」

「強ければ年齢なんて関係ないのにねー」

杏とその親友、白夜の生まれおちた天秤村で大きな大会が開かれた。

村自体は小さいのだが、武器や装備はどれもが一品で有名な村。

格闘技なども盛んだったため、子供から大人まで誰もが思い思いに己を磨いていた。

杏と白夜も例外なく遊んでいる。

遊ぶといっても、一般的な子供のように鬼ごっこやら縄跳び、かけっこなどと生ぬるい遊びではない。

杏が4歳、白夜が6歳の時は体術、6歳と8歳の時に格闘技、そして8歳と10歳の時に剣術を2人は共に学んだ。

学んだ、といってもこの2人に大人がついたことはない。

杏も白夜も、早々に両親を亡くしていたため、村長の家で3度の飯と寝床を使っていた。

杏の母親は数々の名刀を、白夜の父親は天秤村きっての強者で名を知らぬ者はいなかった。

そして、杏の父親と白夜の母親は――2人して行方知れずになっている。

杏と白夜に様々な知識を村長夫婦や村人達は教えたが、実戦に関しては教えていない。

自然と2人で研究し、腕のよさそうな者達の動きを観察しあい、それを元に互いに技を編み出していた。

そうして2人ならではの技を身につけ、実践し、弱点などを指摘し合う……そんな日課が遊びとなっていた。

だから、この2人の遊びに参加する子供はひとりも出たことがない。

いくら武器や格闘技が盛んでも、杏と白夜に混じって遊ぶことほど自殺行為は無いからだ。

それほどまで2人の実力は飛びぬけていた。

第一、 真剣を使った剣術は最低12,3歳からしかできない。

それまでは木刀などで剣術の基礎を磨くのだ。

それが天秤村の基準且つ決まり。

だが2人が8歳と10歳の若さで真剣の所持を認められた時、村人達の認識が、“特別な存在”から“天上人”になったのはいうまでもない。



俊敏さと柔軟さ、素直さが売りの杏。

対して全てにおいてオールマイティーな白夜。

杏が勝つことは少なかったが、白夜の指摘や技術を素直に認め、自分のモノにしていくのが楽しくて仕方が無かった。

例えそれが、一種の生死をかけた遊びであろうとも。

2人は毎日のように相手に切りかかり、殴りつけ防御する。

服がズタボロになろうが泥まみれになろうが関係ない。

こういうことが2人の遊びであり、笑顔が尽きること無い時間だった。

そしてそのことを村人達の誰もが知っていたから、今の2人の会話に苦笑するしかないのだ。



『これより、武具大会・大人の部の受付を開始します。

尚、武器を所持する方は同意書を持ってエントリーしてください。繰り返します―――』



子供の部が終わった1時間後に響いたアナウンスで、猛者達が腰を浮かしエントリーをしに足を向ける。

杏や白夜の周りにいた大人達も、大半がいなくなっていた。

天気のよい昼下がりの闘技場近くの休憩所に残ったのは杏達と数名の見物人のみ。

ぶーたれた白夜が愛刀の手入れをしながら「大人の部が受け付け始めたか」と呟けば、

「ブキノショジってなに?」とのんびり訊ねる杏。思わず愛刀を落とすような脱力感を覚えながらも、白夜は杏にわかりやすく教えてやる。特大の青筋を浮かべながら。

「・・・・・・一般的武器を使えるってことだ」

「アタシの朝陽あさひと白夜の夕陽ゆうひも使えるってこと?ずっるーい!」

たった今、2人の村で開催されている『武具大会』の子供の部で白夜と杏は優勝と準優勝を決めていた。

最年少の杏が準優勝で白夜が優勝なのはいわなくともわかることだ。

しかし、この2人が参加したせいで、優勝候補といわれていた強者つわもの達がものの数秒で姿を消して言ったのは言うまでもない。

ちなみにこの武具大会は殺さなければ、武器の所持は自由。

ただ、それは大人の部しか関係ない。

大人と見られるようになるのは18歳を超えてからで、今の2人には当分先の話だった。

所詮、武具大会の子供の部というのはオマケに過ぎない。と2人は確かに思っている。

そして、『武具大会』ではなく『体術大会』だとも。

体術が嫌いではない。

だが、2人にとって退屈な試合ばかりが続いたのは事実。

100人あまりで始まったトーナメントで手応えがある対戦相手も1人もいなかったのだから、

2人共、相当なストレスが溜まっていたらしい。

決勝戦での2人の対決がそれを証明していた。2人は開始の合図が始まると同時に、今までとは違う……桁違いの力を出して試合を進めていることは素人の見物人達にもはっきりとわかる。

出し切れないでいた力が、ようやく出し切れる・・・・・・そんな思いも見物人には伝わっていた。

本気で殺しあうような殺気もヒシヒシ伝わってきたのだが、2人の表情を見てしまうと何も言えなくなってしまう。

2人は戦いの中、始終笑いあっていたのだ。

不気味な笑みではない。心底楽しんでいる、本当に無邪気な顔で互いに技を繰り出していた。

殺し合いを楽しんでいるのではなく、純粋に武道を楽しんでいる、そんな光景が繰り広げられ、

試合に決着がついたのはおよそ1時間後。

杏の右拳が白夜の顔面向けて放たれ、まさにあと数センチで入るという時、

白夜の右足が杏の左脇腹にヒット。勿論杏の右拳が誰もいない空間を切ったのは言うまでも無く、

完全にバランスを崩されたところを、白夜の右拳が下から杏の顎に入り―――杏は数分間目を覚まさなかった。

大会のルールとして闘技場(100m×100)の場外で身体の一部でもついたら負け。

そして場外でなく、闘技場内で3分間気絶してしまうと負け。

杏は後者に当てはまってしまったのだ。

「あーそれにしても悔しいーぃ!あんな負け方するなんてっ!」

思い出したくないことは、不意に思い出すものだ。

杏が一言、そらに向かって吼えれば、

「確かに」

容赦なく肯定する白夜がいる。

「オトメの心を傷つけるなんて!」

「・・・・・・お前、どこでそんな言葉覚えてくんだ?つか漢字で言え、漢字で」

「しらないもん」

「威張るな。1334敗のくせに」

「酷っ!1340敗なのに!」

「・・・・・・そっちに怒りがいくのか」

杏の百面相や言動は幼さを強調させる意外になにもない。

その上、頬をいっぱいいっぱい膨らませ、そっぽを向けば尚更だ。

そんな杏に言葉を返すのは白夜といえば、年齢の割りには恐いほど落ち着いている。

杏の言葉にツッコミや相づちが打てるのは彼だけであろう。

「そういや、白夜。さっきの試合で8割は手ぇ抜いてたっしょ!」

「人のこと言えんのかよ」

噛付かんばかりの表情で杏が咎めれば、深いため息をつき、挑発気味に返す白夜。

どうやら見物人達を圧倒させた試合は、わずか2割の力のぶつかり合いだったようだ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

両者の目から火花が散る。

というか、まるで終わる気配が無い。どうやら第三者が入らなければ終わりそうもない。

だが、誰がこんな危険な空気の中に入れるというのだろうか。

誰もがそう思っていたときだった。

「杏、白夜。そこまでにしなさい」

「ここにいるのはあなた達だけではないということを忘れたのかや?」

「「村長?」」

天秤村の村長とその妻が、ひょっこりと2人の間に割って入ったのだった。

杏は驚き、白夜は不思議そうに村長夫妻を映し出す。

「何故、100%の力を出さなかったのだ?」

静かに村長が問うと

「「あんな狭いとこで戦えば、死人がでるから」」

打てば響く。まさにぴったり当てはまるように杏と白夜は村長に返す。

さも当たり前だとでもいうように。

2人にとって戦いとは遊びと同じ感覚。だから互いにガードも反撃も出来る。

だが、それが100%発揮できるのは広い場所限定。

常に使用する場所、天秤泉のある森のように広いフィールドでの戦いが彼らを伸ばす。

しかし狭いと戦えないわけじゃない。

ただ、その場合は力を極力セーブしないと事故を起こしかねない。

だから2人は試合が終わってもスッキリした表情ではないのだ。

はあ・・・・・とため息をついた村長は、「お前達、遊んできなさい」と脱力したように顎で促した。その先にあるのは2人の遊び場。

同時に2人は何事もなかったように目を輝かせ、村長の言葉に賛成するや否や、風を切り裂くように2人は走り出した。

彼らの“遊ぶ”という感覚は一般人からかけ離れていることなど村人達は勿論、

今日来た見物人達も承知していた。

が、やはり笑い顔と一つ一つの仕草を見てしまうと、まだ子供なのだと再確認させられる。

それは村長夫婦もかわらない。

村長の一言があるまで火花を散らしていた2人だが、遊べるとなると怒りは収まるものなのだろう。

「見た目はそこらの子供と変わりないのに・・・・・・」

村長の妻が、孫をみるような瞳でいうと

「ああ、そうじゃな。だが、運命さだめがある」

その夫である村長が重々しい口調で答えると悲しげな瞳で頷く村長の妻。

2人は知っていた。いや、これは誰もがわかっていることだが、多くの者達はそれを忘れているのだ。

本能がかき消してしまうから、忘れてしまう。

中には自分の意思で目をそむけるものもいると思うが・・・・・・大半は本能だろう。





“人は運命さだめが生まれながらについている。”





“その運命さだめからは、いかなることをしても逃げられない。”




“一度逃げても、運命さだめはつきまとうのだ、生きている限り。果てしなく。”




夫婦は思う。『飛びぬけた才能も、天秤村に生れ落ちたのも運命さだめだと』。

村長は言う。

「アストライアを手にした者としての運命さだめ」だと。

「それは、運命さだめというより証ですね」

天秤村の村長夫婦は、先程まで目の前にいた2人の姿を思い出す。

その目には、本当に普通の子供の姿が映っている。

長い漆黒の髪をポニーテールにし、赤い布で結び、白いシャツに同色のキュロットスカート。

そして茶色い革ベルトを腰に巻き、背中には赤い鞘に収まった愛刀・朝陽を背負っている杏。

対して白夜は杏より頭ひとつ分背が高く、男にしては長めの亜麻色の髪をなびかせている。

額には常に赤い布が巻かれていて、前髪を押し上げるのが白夜のスタイル。

そのため、杏と同じ黒く曇りの無い瞳がよく見えた。

服装は杏と変わらない。キュロットスカートが長ズボンに変わっただけだ。

愛刀・夕陽は黒い鞘に収められ、彼の腰に刺さっていた。

天秤村でこんな格好をした子供は沢山いる。いや、どの村や町を覗いても珍しくもなんともない。

ただ、杏の持つ朝陽と白夜の持つ夕陽は、2刀で1組の刀として作られた名刀。

2刀とも柄の部分に天秤座をかたどった絵柄が掘られている。

天秤村という名前だから掘られているわけではない。

何を意味しているのかきちんと知っている者も非常に稀だ。

だからこそ、刀は村の象徴として代々村長達が受け継いできた。

絵柄の意味と刀を守るのが村長の役目でもあるのだったが、刀の使用許可をもらった杏と白夜が

迷うことなく手に取ったのが朝陽と夕陽。

村長夫婦は勿論躊躇したのだが、使い手のは譲らない色をしたまま、鞘から取り出され、

ヒュンッと二重の音を奏でた。

たった一振りで村長は感じ取った。刀も2人を主として認めた、と。

杏と白夜が朝陽と夕陽を交えるたびに、それぞれの刀も成長いているように見えた。

最も2人にとっては遊びなのだが。

「ほら、天秤泉てんびんせんにいくぞ」

「わーってるって!」

白夜の声に負けじと大きく応える杏が走り出す。そんな光景を村人達は毎日目にしていた。

そして同時に関心してしまう。

『よくも恐くないな』、と。

天秤泉とは村の外れにある小さないわくつきの泉がある場所のことで、彼らの遊び場。

いわくとは、泉には冷静且つ公平な判断を下す女神アストライアが眠っていて、

一度でも泉に近づく者は誰であろうと何時も監視され、アストライアの逆鱗に触れれば容赦ない審判が下されるというものだった。

単なる昔の言い伝えかもしれないが、村人達は好んで天秤泉に行こうとはしない。

そのため泉の周辺はまるで手入れがされていなかったが、2人にとっては好都合だった。

ただっ広い平地だけで遊ぶのはうんざりするのだ。

自身を極めるためには、どんな場所であろうと対処できなければいけないのだから。


10年前のお話、その1です。
まだまだ過去の話はありますが、一度ここで区切ります。
では、又お会いできることを祈りつつ・・・・・・


                    蓮千里











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