第三話:嘘
「もしもし?」
受話器を手にとった僕は、静かなリビングの隅っこでそっと電話にでた。
「あっ!彰君?病院の梶山だけど…。」
(梶山?…あぁ…病院の先生か。)
僕は病院の診察室から飛び出して家に帰ったため、先生が心配して家に電話をかけてきたのだ。
「あっ…彰です。さっきは急に飛び出して…すいませんでした。」
そう言った途端、僕は思いだしてしまった。
自分は癌だということを…
「先生?」
「どうした?大丈夫かい?」
「なんで…僕なんですかね。」
僕がそう言うと、先生は電話の向こう側で黙りこんでしまった。
僕だって話しているのがやっとの状態だった。
自分が癌だなんて、考えたくもない…
「彰君?」
「はい。」
「詳しいことを話さないといけないから、明日かあさって、落ち着いたらご両親と一緒に病院にきてください。…落ち着いたらでいいからね?」
梶山先生には初めて会ったときから好印象を持っていた。
50歳ぐらいのオジサンだったけど、とても優しく診断してくれて、何より患者のことを思っているのが、僕にもすぐにわかった。
けど、今となっては、僕が癌だと知っていたからこんなに優しかったのかとさえ思う…
「わかりました。じゃあ両親にも伝えておきます。」
僕はそう言うと電話を切り、一息ついてからリビングの椅子に座った。
(母さんにいわなきゃな…)
そろそろ母が帰ってくる時間である。
時計の針は夜の十一時をさしていた。
僕は台所に置いてあったレトルトカレーを温めて夕飯を済ませた。
ガチャッ…
「ただいまぁ。」
母が帰ってきた。僕は母がリビングに入ってきてから
「おかえり」と言った。
「どうしたの?いつもならリビングになんかいないのに?」
(いわなきゃな…)
「母さん…あのさぁ…」
「あっ!そういえば彰今日再検査だったわよね?どうだったの?」
やっぱり母親は息子の用事はちゃんと覚えているんだなぁと改めて思った。
「母さん…それがね。」
「どうしたの??まさか病気??風邪とかなにか?」
言えない……
「そっそうなんだよねぇ、風邪の引き初めだってさぁ。」
「やっぱり??彰最近少し疲れてるなぁって思ってたのよ!ご飯食べたんでしょ?今日はお風呂入ってもう寝なさいね!」
「わかった。じゃあ母さんおやすみぃ。」
「おやすみ。」
何故だろう。自分の部屋に上がる階段には、一段一段僕の涙が落ちていた…
(僕はどうしたらいい…?誰か…助けてよ。)
明日が来るのが恐いと思った。明日なんて来なければいいと思った…
僕の長い長い一日は、孤独という悲しみと共に終わった。
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