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7話 男の子
 自転車のかごに積んだレモンパイとプールグッズ。それから青空。
「日焼けしそっ。」
彼女は誰に言うでも無しに呟きながら自転車のペダルをこぎ始めた。目の前に広がるのは雲ひとつない世界。いつも陸上で焼いていた。でも、プールの日焼けは違うから。
「ゴーグルパンダになったらどうしよう。」
なんて言いながら、それも楽しいかもって思った。
 市営プールは山際にある。長い下り坂をおり、再び上り。何も無い舗装道路を抜け、そよ風が吹き始める地点がプールだ。
 時間はぎりぎり。パイのラッピングに手間取ったから。結構混んでる駐輪場に自転車を止め
「お待たせ、ナッツ!」
彼女は大きく手を振った。振り返される手に夏休み万歳って思った。でもその向こう、二人の影が並んで揺れ、彼女は動きを止めた。
「ちいっす、悪いね、みのりん。俺たちも合流しちゃった。」
それは日焼けした少年達の姿だった。

「どうしてよ。」
それまでは何気ないフリを装っていたものの、人のまばらな女子更衣室に入った瞬間みのりはナッツに文句を言っていた。
「聞いていないよ、あいつらが一緒だなんて。」
ナッツは
“あれぇ?”
なんて顔で
「駄目だった〜?」
と笑った。
「昨日の夕方、スーパーに行ったらばったり尚史と会っちゃってさ。日焼け止め買ってたから
“どこいくの”
って言われて、プールって言ったんだ。そした一緒に行きたいって言うし。ほら、あいつ弟みたいなヤツだから、面倒見てやるのが当然かなって。嫌だった?」
それから少し首を傾げ
「でもどうして?」
そんな風に切り返されて言葉に詰まる。まさか
“やっちゃんを意識しちゃってて”
なんて言えるはずも無く。
「だってさぁ。」
言葉を探しながら
「水着だよ、水着。恥ずかしくない?」
なんて当たらずとも遠からずな答えで誤摩化した。
「まぁ、そうだけどね。」
ナッツはいたって平気な顔でプールバックをかき回した。
「あたしは平気。でもって、はい、これ水着ね。」
親友の心がもうプースサイドに移動しているって、みのりには分かってた。だから
「は〜い。」
だなんて、間延びした声で返事をし、空いているカーテンルームに向きを変えた。
 借りた水着は正に
“競泳用”
だった。それはがっしりとしたスクール水着とはまるで違う。
「これ、なんか凄くない?」
何しろ生地が薄い。胸元もそうだし、足の付け根のラインがぎりぎりっぽく
「むちゃ恥ずかしいんですけど。」
彼女は体に巻いていたタオルをちらっとめくって顔を赤らめた。
「そんなもんじゃない?」
ナッツは堂々と仁王立ちでメッシュの帽子を被った。彼女も同じ様な競泳用の水着だ。でもみのりとは違いもともと水泳をしている所為なのか違和感が無く似合っている。そのすらっとした姿態を羨ましいと持った。何しろみのりは知っていたから。尚史が彼女の事を好きだって。多分、ナッツ以外の全員が知っているはずって位それは有名だった。
『どうしてナッツはそれに気がつかないかなぁ。』
『みのりんも友達なんだから教えてあげれば良いのに。』
なんて言われ
『ううん。』
なんて曖昧な返事をしていた。だって、だってって。気がつかない方が良い事って有るでしょう?

 なかなか外に出たがらないみのりの所為で、プールサイドに行った時には男の子二人組はすでに泳いでいた。
「あんたら、準備運動はしたの?」
なんてナッツが腕を振る。
「んなの、してられるかよ〜」
尚史がばしゃばしゃと水しぶきを上げ二人に近づき水をかける。続いてやって来た泰史がニコニコと笑っていた。
「それより、遅すぎ。もう来てからずいぶん経ってるぜ。」
確かに時計は1時20分を過ぎていて。
「ゴメン!」
そう言いながら結局ナッツは足下からプールに飛び込んだ。勢い近くにいた少年達に水がかかり
「うわっ!」
なんて悲鳴が上がる。
「何すんだよ!」
って叫ぶ尚史の声はまんざらでもない。
「何すんのって、どうせ濡れてるじゃん、全身。」
ナッツの軽やかな笑い声。それから6つの目線がみのりを見上げる。彼女は口をつぐんだままそっと水面に足を入れた。
 プールの中、上半身だけ裸のやっちゃんを見る事が出来なかった。彼の視線を感じながら、目を合わせる事が出来なかった。ああ、鎖骨が浮かんでるなって、自分の体とは違うなって思いながら3人の後をついて回る様に泳いだ。
 特に特別な事を意識した訳じゃなかった。第一、恋愛ってことすら分からず、ただ漠然と
“好きだなぁ”
って感じていただけなのに。
『女の子の方が早熟なの。』
って言葉が妙に頭に浮かんで離れなかった。

                つづく
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