エピローグ
探偵事務所/おれとしのぶ――窓の外はいつも通りの景色/雑多な繁華街/いつも通りじゃないおれの体/いつもひどいがいつもよりもっとひどい/包帯だらけのミイラ男――
愛莉は家に帰った/千鶴はおれに奈津子から預かった報酬を払って、愛莉の監視業務に戻った――どいつもこいつも悪いヤツはみんな死んだ――おれとしのぶだけは、どんなに悪さをしても死ねない/死なずに生き続けることがおれたちに与えられた罰。
「わからないことがまだあるのよ」
しのぶは真由美の店のしのぶスペシャルを食べている/キャラメルの香り/林檎の香り/バニラの香り/生クリームの香り――吐きそうなくらいに甘い香りが入り乱れる。
「何がわからないんだ?」
おれは缶ビールとタバコで上機嫌だった。
「門脇七海はどうして田辺の部屋を盗聴していたの?」
しゃべりながらもしのぶスペシャルがどんどんとしのぶの腹に吸収されていく。
「それはたぶんな」――これはおれにも推測の域を出ない謎――「田辺と七海の性癖だったんだ。あいつらはお互いの部屋を盗聴しあっていたんだ」
「何よそれ」
「あいつらはな、兄妹だったんだ。義理のな」
驚くしのぶ――「七海は愛莉ちゃんと姉妹だったんじゃないの?」
「愛莉と七海は父親は違うが母親は同じ姉妹だ。田辺は七海が養子に出された先にいた子供で義兄妹になる。それは推測じゃなく、高橋が調べてくれた事実だ」
「恋人だったんじゃないのね」
「いや、恋人だったんだ」
首を傾げて怪訝な顔になるしのぶ――「まったく意味がわからないんだけど」
「ここから先はただの推測だがな、田辺と七海は血のつながりがないという事実を知る前から愛し合っていたんだと思う。だからセックスをしない愛し合いかたにたどり着いた。それが、覗きだの、相互オナニーだの、下着を使ってのオナニーだのって形で現れた。首吊りもきっと、兄妹で愛し合ってしまった罪の意識で、自殺を試みたりしたことがあって、その影響で性癖になっていったんだろう」
「なんなのよいったい」
「変態的な性欲ってのはそんなもんだ。それで、血のつながりがないことを知ったあとも、その性癖はそのまま残る。変態野郎は変態行為でなきゃ興奮しない。だから、田辺と七海はセックスなんてしないで、盗聴でお互いの声を聞いて欲情していたんだ。お互いの同意のもとでの盗聴だから犯罪でもなんでもない。七海は犯罪者じゃなかったってことだ。ただの変態性癖を持った雌ブタだったってわけだ」
生クリームの甘ったるい重い香り/ナイフとフォークを握っていたしのぶ/食べるのをやめた/ナイフとフォークを皿に置いた――
「なんか食欲がなくなってきたわ」
七海と田辺がお互いの声だけを聞いて、お互いの使用済み下着の匂いを嗅いで、でかい喘ぎ声でオナニーしている様子を想像してしまっているであろうしのぶ――目が潤んでいる/興奮している/高揚している/光悦の表情になっている――間違いなく乳首はビンビンに突っ立っているだろう/間違いなく股をビショビショに濡らしているだろう/想像しただけで軽い絶頂を向かえているだろう――小さくブルッと身震いをするしのぶ。
「おまえから食欲を取ったら、残るのは性欲だけだな」
「何よそれ! あたしは田辺や七海や、それにあんたみたいな変態じゃないわよ!」
おれは立ちあがってしのぶの前に行った。
「まだ、おまえからの依頼の報酬をすべて受け取っていないんだがな」
依頼の報酬/足りないぶんは体で支払い――ビショビショであろう股を足を組み変えて隠すしのぶ/おれを見る/ニヤリ顔になる――
「まだ傷が痛むんでしょ? あたしを満足させられるだけ腰を振るのは無理なんじゃないの?」
おれはしのぶの隣に座った。
「おまえは、男にまたがって自分で腰を振るのが大好きな女だったろう。おれが腰を振る必要はない」
「それじゃまるでアバズレじゃないのよ」
おれはしのぶを自分の胸に引き寄せた――しのぶの匂いがする/甘ったるい匂いの中で/しのぶの汗の匂いがする。
「そうじゃないって証拠は何もない。俺の推測じゃおまえは紛れもないアバズレだ」
ムッとするしのぶ――すぐにエロい顔になる/自分の唇をいやらしい舌で舐める。
「あたしが、あんたにまたがって腰を振ったら、あんたのお腹の傷がパックリ開いちゃうわ。口でしてあげるからそれで我慢しなさい」
いやらしい大きな目/いやらしい分厚い唇/いやらしくくねる体――もうすっかり淫乱モードのしのぶ。
「フェラチオはファックじゃないって、ビル・クリントンが言っていただろう。だから、フェラチオじゃ報酬を払ったことにはならん」
「誰よそれ?」
「知らないのか? アメリカの大統領だった男だ」
「あら、くそったれ大統領のありがたいお言葉なら、従わないわけには行かないわね」
しのぶはおれの首に腕をまわした/いやらしい唇を半開きにしてキスをした――キャラメルの匂い/林檎の匂い/バニラの匂い/生クリームの匂い――しのぶの口の匂い/しのぶの体の匂い/しのぶの赤毛の匂い――匂いがおれを包む。
おれはしのぶの口から離れた――「もっとも、ビル・クリントンはその発言で失脚したんだけどな」
「なら、なおさらあんたにお似合いよ。あたしを抱いて堕ちるところまで堕ちて行きなさい」
おれはしのぶにキスをした――
痛いほどに激しい/痛いほどに熱い/おれのしのぶに/痛いほどのキスをした――
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