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#28
 月曜日――奈津子からの依頼を受けてちょうど一週間/一週間前と同じ店/恵比寿の創作イタリア料理店――マエストーソ。
 何もかも同じ――同じ時間/同じ部屋/同じ黒い男その一/それに黒い男その二。
「この前と同じ飲み物でいいかしら?」
 出てきた飲み物までこの前と同じ――フェラーリ・ブリュット。
 この一週間はとても忙しかった/毎日がとんでもなくタフに過ぎていった/毎日がまるで夢のように感触を感じたのかどうかわからぬままに過ぎていった――もしかしたら本当に夢で、一週間前のあのときからほんの一、二分しか経過していないんじゃないかと思うくらいだ。むしろそのほうがいいんじゃないかと思えてくる、そんな一週間だった。唯一現実であって欲しいと言える出来事といえば、結衣に出会ったってことだろう。
「依頼していた調査の報告をお願い」
 奈津子は細くて長いタバコに火をつけた。おれは相変わらず、行儀悪く椅子に座り、行儀悪くフェラーリ・ブリュットを飲んだ。
「報告なら、ほとんど千鶴にしているぜ」
「聞いているわ。それ以外には?」
 おれはタバコに火をつけた――「頼まれていたことでまだ報告していないのは、門脇七海の母親の名前と、普段の行動くらいだ」
「そうね」
「母親の名前はさちこ、佐賀県の佐、知性の知、子供の子。六年前に離婚している」
 フェラーリ・ブリュットを飲むおれ/タバコを吸うおれ。
「普段の行動については?」
「この一週間、ほとんど毎晩尾行と張り込みをした。結果として七海はほとんど毎晩職場から家へ直行している。これといって寄り道もなけりゃ、帰ってからの外出もない。さすがにおれだって、家の中で何をしていたかまではわからない。」
「そう、わかったわ。ご苦労様でした」――眉一つ動かさない奈津子。
「聞きたいことがある」
「なにかしら?」
「なぜ門脇七海のことを調べた?」
「それには答えられないと言ったはずよ。調査はこれでもうじゅうぶんです。最初の二百万で足りなかったぶんは、立川を通して渡します。請求も立川にしてちょうだい。では」
「待て」――おれはテーブルを平手で叩いた。「あんたはじゅうぶんでもおれはぜんぜんじゅうぶんじゃない。七海はおれが関わっているやっかいごとに大きく関与している」
 奈津子は目を閉じて、そしてすぐに開いた――「そのやっかいごととやらに私が関わっているとでも言いたいのかしら? とにかく、この調査を依頼した理由は絶対に言えません」
 何度頼んでも無理だろうとわかる奈津子の目。
「でも……」奈津子が何か言いかけてためらった。そしてまた口を開いた――「門脇七海がもし本当に、あなたのやっかいごとに関わっていると言うなら、彼女をそのやっかいごとから解放してあげなさい。それができないのなら、そのやっかいごととの関係を揉み消しなさい。それが新たな依頼です」
 なんだって!?――「新たな依頼だと?」
「そうです。でもこの依頼は、私があなたのやっかいごとを知らないと成立しないわね。だけど、私が理由を話さないのに、どんなやっかいごとで、彼女とどんな関係があるのか、あなたに聞くのは虫が良過ぎるから、聞かないでおきます。ただし、依頼をしたからにはちゃんと報酬を払わなければならないし、払うからにはあなたの言っていることが真実だと納得しなきゃならない。だから聞きます。本当なんでしょうね?」
「何がだ?」
「門脇七海があなたの抱える問題に関わっているって話がよ」
 おれはタバコを灰皿に擦りつけた――フェラーリ・ブリュットを飲み干して、おかわりを要求した。
「本当だ。それももしかしたら重罪級かもしれん。まだわからんがな」
 奈津子はおれの目をまっすぐに見た。そして目を閉じて、また開いた。
「そう、わかりました。解決するまで今まで通りの報酬を払います。必ずあの子をそのやっかいごとから救ってあげなさい」
 おれは新たに注がれたフェラーリ・ブリュットを一気に飲み干した。
「おれは探偵だ。情報集めがおれの仕事だ。もし万が一、門脇七海がやっかいごとに深く関与していて抜けだせなかったとしても、おれにはそれを揉み消すだけの力はない。最善は尽くすが、それは理解してほしい」
「わかったわ。とにかくお願いします」
 おれはタバコに火をつけた。頼んでもいないのにフェラーリ・ブリュットがまた注がれた。
「愛莉の件はどうする?」
「前にも話した通りです。これまで通りお願いするわ」
 おれは奈津子を睨みつけた――タフガイぶったりしたんじゃない、真剣だっただけだ。
「愛莉の件に関しては、探偵の仕事じゃない。それにこんなことはやるだけ無駄だ。おれや千鶴が監視なんかしたって、なんの解決にもならん。愛莉はあんたが男と抱き合ってばかりいるような家に帰りたがらないだけだ。男の匂いがする家には帰りたくないってだけだ」
 脳みそが一瞬揺れた/震度三くらいだった――だからなんとか持ちこたえた。頭をブンブンと振って奈津子を見た――顔が怒りで燃えていた/見ず知らずの薄汚い探偵なんかに、情事のことでとやかく言われて腹が立っているのだ。
「だったら、私がもうそんなことはしていないってことをあの子にわからせなさい! それであの子が毎日ちゃんと帰ってくるようになったら、ボーナスでもなんでも払ってあげるわ! わかった? 愛莉の見張りは続行です、異論は認めません!」
 やれやれだ――おれは席を立った/立ってからフェラーリ・ブリュットを一気に飲み干した。
「仰せのままに、ボス」――おれはやれやれってポーズをして、奈津子に背中を向け、ドアを蹴っ飛ばして部屋を出た。


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