Silver Soul〜眠れ・眠れ〜(4/5)縦書き表示RDF


ごめんなさいっ!!(土下座
なんか、もう、ごめんなさいっ。
とりあえずコメディへの道は、厳しいです!
Silver Soul〜眠れ・眠れ〜
作:魔王



第弐戦.血


 江戸城地下、檻_椿の間、奥の一室。
フラスコから硝子管で繋ぎ、何か朱色をした液体が試験管の中へ流れ、ぽたぽたと垂れる。   
 奇怪な液体を扱うのは研究医主任、栗栖。もう一人はそれを見ながらニコニコした、教授稲生。
 「栗栖クン、其れは注射器に詰めておいてくれないか?」
 稲生は栗栖の扱っている液体を指して言った。
 「くれるかな?」ではなく「くれないか?」という所に拒否権が無いことを感じ、栗栖は了解しました、と返す。

 丸椅子に座って、薬品の置いてある机の上で頬杖のついた格好で、床につかない足をぶらぶら揺らし、何処で手に入れたのかもわからぬ、<白黒の、やけにやるせない顔で横に伸びている、猫のような動物の人形>を抱える姿はそのまま小さな子供だ。
 でも、稲生の知力と天才、奇才ぶりを何年も前から知っている栗栖は彼に逆らわない。
 
 「・・ぁあ、そうだ。栗栖クン、零に贈ったピアスの盗聴器、まだ使えるよねぇ?」
 「え!・・あ、はい、使えると思いますが。」
 頬杖をついた格好で、上目使いに栗栖を見た稲生は少年にしては整いすぎている顔で悪戯っぽく笑い、懐中から、稲生の手にも収まる大きさの携帯型通信機を取り出す。
 
 番号零、および教授のお気に入りの彼女は、稲生が何処からか拾ってきて、まるで自分の娘のように育ててきた子供だ。体術、剣術は勿論、赤子同然の彼女に戦争においての戦術を教え、隊長に就かせるのに相応しい人柄に育て上げた。
 厳しくも優しい稲生に、零はすっかり懐いてしまい、椿の間をよく抜け出して、稲生に会いに来ていたが、稲生自体、零をどう思っているのかわからない。雰囲気の似ている二人がそろうとまるで双子だ。
 十四年経とうというのに、一切外見も中身も変わらぬ稲生に疑問を持つことはないのか、零は稲生のことを親というより兄弟と思っているらしい。この前、稲生が監視用に、誕生日という名目で贈った、盗聴器付のピアス付けた零が稲生のことを「お兄ちゃん」と呼んでいた。
 
 稲生はコンパクトに畳めるそれを開き、番号が書かれた凹凸をカチカチと押し、机に置いた。録音機ボイスレコーダーの画面になった携帯の中心を押すと、雑音交じりに声が聞こえ出した。
 稲生はその声を聞き取りながら、喉の奥で笑う。
 いつの間にやら猫、らしき動物の人形は床に落とされ、仰向けになって持ち主と反対方向を見ていた。
 「・・・ぉ、・・か・・ね。・・にぃ・・ん」
 栗栖には聞き取れない声だったが、稲生は切れ切れな零の声を聞いて、立ち上がった。
 「!教授、何処へ?」
 栗栖が慌てて聞くと、稲生は落ちた人形をそっと抱き上げ、
 「・・此処では無い何処か・・。」
 と口元を緩ませ、答えた。彼の長く、大きめの白衣は引きずられ、持ち主に付いていった。
 
 *

 江戸城、食堂。
 といっても、一室に長四角のちゃぶ台を三つ置いただけの部屋だが。
 朝飯を食べるだけの為、男だらけでむさいながらも侍達は竹の間から集まる。
 そして、昨日集った侍達、青たんだらけの弐も含め、朝飯の並んだちゃぶ台の前に座った時、
 すでに食べ始めていた者の数人が食べ物を吹き出した。
 理由は、一人の、桃色の着物を着た少女が、堂々と部屋に入ってきたからである。
 その少女、零は真ん中のちゃぶ台の前に立ち、腰に手を当てた。
 呆気に取られた侍達は、昨日の零の勇姿、もとい、恐ろしさを見ているので、少し緊張する。
 零が口を開いた
 「おはよぉっ、皆ぁ!元気かなっ??皆の隊長、零はっ、今朝もぜっこーちょーだよっ!!」
 軽やかな声は期待を裏切らない幼さ満点で、侍達は拍子抜けして、思わずぼそぼそと、おはようございます、と返してしまった。
 返事が返ってきたことに満足したらしい零は、ふふんと偉そうに胸を張り、
 「そんじゃ皆ぁ、ごはん食べながらでもいいから、話を聞いてねっ!とゆーか、さっさと食べてね!」
 さっきよりも不真面目さがやや増した台詞を言った。
 しかし、人差し指を立ててにっこりといわれると逆らえないので、食べていなかった者は箸を取る。
 それを見て零は袂から一束の紙片を出し、
 「えっとね、今から副隊長とその補佐を決めるから。」
 と問題発言。再び吹き出す者多数。
 “じゃあ点呼も合わせてやるから、呼ばれたら手ぇ挙げてね”と何処までも自分ペースの零は紙片をめくり、
 「始めはー、番号壱クーン。えーっと、あ、居た。」
 零は紙片を見ながら部屋を見回し、律儀に手を挙げた壱を見つけ、
 「オメデトウ♪副隊長サンけってーい!よろしくっ、ぱちぱちぱちー。」
 笑いながらそう言った。
 突然指名された壱も驚いていたが、周囲の者の方が驚いている。
 んな簡単に決めていーのかよっ!?と彼等の心中の声がハモッたのは言うまでも無い。
 壱は零のペースを掴んだのか、否か、穏やかな笑みを浮かべ、あくまで柔らかく、頭を下げた。
 「菊の間に移動だかんね、覚えといてー。じゃ、次ぃ。」
 ちょっと待てっ!!
 「たっ、隊長!」
 「ん?何??」
 少女を隊長と呼ぶのは物凄く躊躇ったが、仕方が無い。皆の代表鈴木君(仮名)は立ち上がった。
 零は鈴木の方を向き、小かしげしていて、それに少し赤面しながら、
 「きっ、昨日も言っていた・・・つばき、の間?、と同じく、隊長の言う間も我々は知りませなんだ。良かったら詳しく教えてくだせぇ。」
 と言った。
 あ、そっか、と手を叩いて、零は再度指を立て、
 「えっとね、そもそも檻ってのはぁ、幕府が裏で支える訓練場だから、あらゆる方面でジンザイを集めてんだよねぇ。そんで、一つだけの竹の間だけでは受け入れが出来なくなっちゃったから、椿の間が出来たんだけどぉ・・何を間違えたのか、椿の間にはヤバイ人達がたくさん集まっちゃってね?それのせいでー椿の間はほとんどが狂っちゃって、戦に出れないのだけになっちゃったの。だから、今回の特殊ブタイは竹の間の人だけにしたわけ。そんでもって、竹の間の人の中でもぉ、そのブタイに編入される人だけが新しい訓練場の菊の間に入れるわけ、わかった?」
 長くゆっくりとそう説明した。
 多くの者がうなづいたが、納得したような顔の中で、手を挙げる者が居た。
 「今・・隊長殿は、訓練がもう始まってるような言い方をしませんでした?」
 零はその質問に少しバツの悪そうな顔をして、紙片に目を落とし、
 「・・先に点呼したかったんだけど、無理、かなぁ・・・ぁ、皆ごはん食べ終わった??」
 残念そうにそう言って、悪戯っぽく笑って問うた。
 零の後半の台詞と先程の質問とあわせ、一番に反応したのは壱だった。
 あくまで冷静に座ったまま、零に一瞥をくれ、
 「・・何時もと変わらぬ白米だと思っていましたが・・何か違う物が入っていたのですか?隊長。」
 通る声でそう聞いた。
 一気に周囲に、部屋内に緊張が走る。
 零はただ笑顔のまま無言で、それは肯定と捕らえられた。
 「なっ、何を入れたんだっ!?まさか、ど、毒っ!?」
 「嘘だろっ!?そんなっ!」
 青ざめ、ざわざわと騒ぐ部屋内、その中で、ぽーんという機械音が響いた。
 『安心したまえ諸君、毒ではない。これから戦に行く者に毒を飲ませて何になるんだい?』
 途端に静まりかえる。放送音特有のこもった声に全員が覚えのあった。
 緊張し、周囲を見回す中、人という人を馬鹿にしたような低い声は
 『申し遅れたな、私は幕府より命を受け、檻を創り、今全ての統括を行っている、稲生という者だ。』
 「・・教授、ですか。」
 稲生と名乗り、壱がそう呟く。
 檻で何度も聞いた事のあるその声が教授と知って、周囲がまたざわめく。
 「・・テメーが教授だろーがどっかのお偉いさんだろーがどうでもいい。オレ達の飯ン中に何を入れやがった。」
 珍しく声を荒げず、言ったのは弐だった。頬が引きつってヒクヒクしていたが。
 すると稲生はくっくっと喉の奥で笑うと
 『そう急かさないでくれ、番号弐。今回、君達の朝飯の中に入れたのは、<天人の血>だ。』
 そう告げる。
 稲生の台詞に皆、黙りこむ。意味が理解できないからだ。
 稲生は付け足すように囁く。
 『正確には、天人の特性、人外の能力、異質な回復力を薬品として閉じ込めた新型のヤクだ。耐性、身体、精神状態への影響は皆無だが、成功した場合、天人の血を継ぐ・・つまり奴等の仲間入りだ。』
 「ふっ・・ざけんじゃねェよっ!!何の為にんな事すんだよっ!?」
 弾かれたように立ち上がった弐は稲生の台詞をさえぎるように叫んだ。
 それに便乗し、周囲の者も立ち上がる。が、その中、座ったままの壱は
 「教授、貴方は成功した場合、と言いましたね。それは失敗することもあると言うことですか?」
 静かだが通る声で、柔らかく問うた。
 冷静な様子だが、その目は冷たく、稲生の行為に腹を立てているのは明らかだ。
 『その通りだ。私の作った薬は誰にでも対応するように造っていない。天人の血が、君達の体内に入った時点で、宿り主に自分の力が相応しいか見極める。相応しくなければ、薬は宿り主の体内の細胞を破壊し始める。』
 嘲笑うようにそう告げた。
 あまりに現実離れした話に、皆何も言えず、数秒後、怒鳴り声が響く。
 「ふざけんなっ!!俺達をなんだと思ってやがるっ!」
 「天人なんかになって堪るか!!」
 侍達の反対を初めから想定していた稲生は叫ぶような抗議に
 『残念ながら、薬を体内から摘出することは不可能だ。薬は何万個にも分裂する上、体内ならば何処でも徘徊することが可能だ。腹の中を切って、一つ一つ摘出する、なんて言わなくとも不可能だとわかるだろう?』
 サディスト並みの追い込みで、“なんだったら自分で腹を切ってみたらどうだい?”と低く囁く。
 侍達の各々の表情は絶望、憎悪、嫌悪を浮かべていて、それを何処かで見ているのか稲生はくっくっと笑った。
 ずっと黙っていた零は、帯を緩め、座り込むと口を開き
 「大丈ー夫だぁよ。この訓練が終わったら、すぐに天人と戦えるから。」
 全然脈略の無いことを呟いた。
 それを聞いた全員の中、歯を食いしばった一人が刀を抜いて、零の前に立った。
 「あっ、天人の力を得ることで戦に勝っても、勝ったことにはならねぇ!お前はっ、何とも思わねぇのか!?」
 振り絞るような声でそう怒鳴ると、零は正座から足を崩し、冷めた目で彼の刀を見やり
 「だって・・弱いんだもん。君じゃぁ私に触れることも出来ないよ。」
 呟いて、口元に手をやり笑った。
 彼は怒りと屈辱で顔を真っ赤にして、刀を真っ直ぐ零に向けて振り上げた。
 「・・君が殺すのはボクの中の天人?それとも私自身ボク?いや・・。」
 彼が振り上げた刀が落ちてくる瞬間、誰にも聞こえない声でそう言うと零は動いた。
 ―血しぶきが上がる。
 零からではなく、彼から。
 「っぇ・・?・・ぅぁあああああああっっつ!!!」
 両腕がふっ飛んだ。血を噴水のように吹き出し、畳に落ちていく肉片と化した腕。
 刀は畳に突き刺さり、赤黒い血が特有の匂いを発っして染み付く。悲鳴はただ響き渡る。
 何も言えず、ただ目を見開く侍達の前で、彼は膝をつき、激痛に狂った様に叫ぶ。
 痛みと驚愕、紛れも無い恐怖。その中で
 「・・君に、成功例の私は殺せない、勿論皆にもね。世の中自分をカシンしてたら生きていけないもん。生っ白いプライドなんか捨てちゃいなよ、今のままでは、大切な人を天人から守れないよ。だって・・」
 返り血を浴びることも無かった零は真っ赤に染まった短刀を一回振り、淡々と言うと、呆然とした皆に笑いかけ
 「侍になんでしょ?何かをギセーにしてこそ、人は何かを守れるんだ♪・・でしょ?お兄ちゃん。」
 囁くように言って、稲生に話しかけた。
 『・・クックック・・その通りだ、零。』
 稲生は抑えるように笑い、心底楽しそうな声を出すと、咳払いする。
 それに呆けた顔をしていた皆は我に返る。
 『この後、切腹しようが舌を噛み切ろうが勝手だが、戦に行きたいのならば、三日待て。薬の効果が現れるのは三日以内だ。・・では、幸運を祈る。』
 ぷつんっという機械音が響き、放送は止まり、部屋内にある音は誰かの荒い息遣いと、悲鳴だけになった。
 
 *

 ―菊の間、二人部屋一室。
 「・・・。」
 「ふざけんなってーの!何が幸運を祈るだっ!アイツ、オレ達のこと人だと思ってねーよ!」
 
 稲生が言った通り、薬の効果は三日以内の為、三日は菊の間−ほぼ旅館と言っていい建物−から外にでてはいけないらしく、元居た竹の間から、日用品の支給と共に移ることになった。
 竹の間から追い出される結果になった皆は、渋々菊の間に移動した。
 
 竹の間の時から二人部屋で、比較的仲の良い同居人、番号参に、弐はぶちぶちと愚痴を零していた。
 部屋の隅で、膝を抱えて座る参に対し、弐も同じ格好で話しかけている為、まるで修学旅行に来て、二日目の夜のような体制になっているが、弐は全く気にしていない。
 「前から思ってたんだけどさァ、ぜってぇ稲生って、ヘンタイっーつうか、狂ってるよな。・・あの零って奴がお気に入りってことはァ・・ロリコン?ぅわああっ、キショッ!!」
 
 黒い色素の方が強い灰色の短髪、左目が髪で隠れた参は、檻に入る前、忍として生きていた事も合いまわり、無口無表情で影が薄い。
 だが、文句も言わず、弐の愚痴を聞いているところ、弐には心を許しているようだ。
  
 「・・・・弐。」
 参は弐にちらっと視線を送って、控えめな声で、そう声をかけた。
 普段一言二言しか喋らない参に話しかけられ、弐は参の方を向き、“何?”と聞く。
 すると参は真っ直ぐ前を見たまま
 「・・隊長と、何か、あったの?」
 一つ一つ区切り、そう問うた。
 弐はその質問に、目をぱちぱちさせた後、意味を理解してカッと赤くなった。
 「っっな、なんもねェよっ!!べべべべ別に。」
 目は浮遊して参を見ることは無く、舌を噛みそうになりながら、顔を背けた。
 その明らかな様子に、参は再びちらっと視線を送り、
 「・・何か、あった、んだ?・・・隊長と。」
 か細い声で聞く。すると弐は膝に顔をうずめ、 
「・・・・・な、にかあったってほどじゃねェよ。いや、でも、なんつーか・・・アイツって・・。」 
 耳まで赤くしながら、ばそぼそと呟いた台詞を、遮るように、パァンと音を立て、障子が開いた。
 そして二人が振り向く前に
 「やっほぉぉぉっ!にークン元気!?」
 明るい鈴のような声が響いた。
 弐をにークンと呼ぶ人は一人しか居ないわけで、弐は勢いよく立ち上がり、振り向いた。
 昨日弐を散々な目に合わせた張本人、零が笑顔でそこに居た。
 「お前っ!!」
 前回同様、弐は零を睨み、威嚇するも、昨日の今日で何故か力が入らない。
 一方零は元気に−騒々しく−挨拶した後、参に気付き、“やっほ”と手を振り
 「にークンと同じ部屋の人?私は零だよっ!番号は?」
 にこにこでそう聞く。
 参は座ったまま零をちらっと見たがすぐに背け、膝に顔をうずめると“参”と答える。
 「参?それじゃぁさっクン、だね!よろしく♪」
 体育座りの参の前にしゃがんで、零がそう言うと、参は少し顔を上げ、“よろしく・・”と返した。
 滅多に弐以外の人と喋らない参があっさり零と会話したので、驚きながら弐は零に
 「何っ、何勝手にオレん部屋に入って来てんだよっ!!」
 と怒鳴る。零は弐に振り向き、キョトンとして
 「だって、にークンと私はぁ、仲間だし、友達、でしょ?」
 答え、にぱっ、と笑う。
 そのあっけっからんとした態度に弐は動揺しながら
 「っ仲間はともかくっ、友達なんかになった覚えはねェッ!」
 「じゃぁ今からお友達とゆーことで♪」
 「だっ、誰がお前なんかとっ!!」
 きらきら笑って、すぐに切り返してくる零に慌てて怒鳴り、肩で息をする。
 が、弐の睨みも脅しも怒鳴り声も効かない零は首を傾げ、“何かと?”と惚ける。
 弐は何故か零を前に動揺する自分と、全く余裕が無いように、さっきからバクバクと煩い心臓に苛立ち、とっさに
 「・・おっ、お前、薬の成功例って言ってたよな!?」
 “そのこと”を口に出してしまった。
 途端に零は笑みを消し、真っ向から弐を見た。
 やっと零のペースを崩せると勘違いした弐は、口角を上げ、
 「ってことはお前、天人だろっ!人ですらねーじゃねェか!」
 そう言って、零に指を突きつけた。
 零はしゃがんでいた体制から崩し、ぺたんと畳の上に座りこんだ。
 表情という表情が抜け落ちた顔で、一番に浮かんだのは強い、恐怖の色。
 瞬間、零が顔を伏せなければ、弐にもわかっていただろう。
 本当の年よりもずっと幼い、少女の恐怖が。
 だが、零が顔を上げた時には、恐怖の色はなく、代わりに、涙があった。
 弐が其れに、自分の失敗を知ったときにはもう遅く。
 「ちが・・ちがうもんっ!私は天人じゃないもん!!」
 ぽろぽろと涙を零しながら、零はそう言った。
 真っ直ぐな目と泣き顔と気迫に押され、弐が後退すると、零が立ち上がる。
 「お兄ちゃんが!私が強くなれば、一緒に居てくれるってっ!だかっ、だからぁっ・・!」
 止まらない涙をぐしぐしと手でぬぐい、キッと弐を睨み、近づく。
 近づいてくる零に、弐はそのまま後退する。
 助けを求めるように参を見ると、参はぼーっとした顔で二人を見るだけだった。
 「天人の、クスリのんで、たくさん、べんきょうしてっ!〜〜っだから天人じゃないもんっ!!」
 壁に追い詰められたには、零の怒鳴り声にビビって何も言えず、零が泣きながら走って部屋を出て行っても動けなかった。
 「・・何、なんだ・・。」
 弐は知らぬ間に入っていた力を抜いて座り込んだ。参は零が出て行った障子を見て
 「・・あの子、望んで・・天人に、なったわけじゃ、ない、んだね。」
 そうポツリと呟いた。
 
 *
 
 ―べべんっ、べんっ・・・。
 弐と参の部屋からかけ離れた、菊の間の端部屋。
 部屋の障子に掛かった板には“玖・拾”と書かれている。
 三味線の音が響く部屋の中には男が二人。
 片方は胡坐をかいて三味線のバチで弦を弾き、片方は身体を丸めて寝転がっている。
 
 三味線を弾く男は、紅色の髪を無造作にのばし、右目を眼帯で覆っていて、番号は玖。
 寝転がっている男は、濃い鳶色の髪に、冬の湖のような瞳をした、番号拾。
 
 拾は息をゆっくりと吸い、吐いた後、身体を起こし玖の方を向くと
 「・・・You are out of your mind?(あなたは狂っていますね)」
 異国の言葉を紡ぎ、首を傾ける。
 玖はそれにバチを持つ手を止め
 「・・・・I wasn"t born yesterday.Do you have anything to say?(んな事はわかってらァ、何か文句あるのか)」
 低く鋭くそう言って、バチを拾に向けて投げ、拾の額にぶつける。
 拾は額を押さえながら落ちたバチを拾い、玖に手渡し
 「・・・本当はどちらでもいいのデス。ただ、ボクは、アナタからは逃れられナイ。」
 カタコトの日本語で呟くと、異国人の彼は、笑うように口を開け、舌を玖の目の前で出した。
 其処シタには、派手な色で彩られた“SEX”の刺青。
 玖は其れを見て唇を歪ませ、笑い、“わかってんじゃねぇか”と囁いた。
 


・・英文、合ってるのかな?











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