短編「日本製ロボット」
日本のとある機械メーカーが人型お手伝いロボットを開発しました。
そのロボットは、高いレベルの知能と運動性能を持ち、人間の生活のあらゆる場面で役に立てるよう設計されていました。
このロボットの事を広く知ってもらうために、世界中から記者や業界関係者などを招待して、お披露目会を行う事になりました。
今日がそのお披露目会の日です。
会場である大きなホールの中は、欧米諸国をはじめ、アジアやアフリカからやって来た人たちで満員です。
会場の人たちがロボットの登場を待ちわびていると、客席の正面に設けられた特設ステージにひとりの中年男性が現れました。
グレーのスーツを着たその男は、小柄で髪を七三に分け、鼻の下にはチョビヒゲをたくわえています。
男がマイクを手に取ります。
「えー、皆さま、このたびは遠い所からおいでくださいまして誠にありがとうございます。私がロボットの開発者、Yマダです」
会場へは通訳を通して伝えられています。
Yマダが続けます。
「それでは早速、我が社の技術の粋を集めて開発したロボットをご紹介いたしましょう」
盛大な音楽ときらびやかな照明に彩られ、ロボットがゆっくりと歩きながらステージに現れます。
拍手で迎えられたそのロボットは、白を基調としたクールなデザインで、さる有名宇宙戦争映画に出てくる金ピカのロボットを更に洗練した様な姿です。
会場のお客さんに向かって手を振る動きはとてもなめらかで、人間の動きと何ら変わりありません。
ロボットはYマダの隣までやってきました。
「えー、まずは私の口からこのロボットの性能に関してご説明させていただきます。このロボットは、皆さまの生活をサポートするという目的のために作られております。炊事や洗濯、掃除、育児や家計簿の作成まで、家事と言われることはなんでもこなします。ご家庭ごとに色々な決まりややり方があるかと思いますが、一流大学を卒業できるほどの優秀な知能を持っておりますので、教えればきちんと学習し、そのご家庭にあったやり方ができるようになります。また、家事以外にも様々な特技を持っております。数十種類にも及ぶスポーツ、マージャンやトランプなどの娯楽、楽器の演奏など、どれもプロ並の腕前を持っております。では、百聞は一見にしかずという日本のことわざもありますので、この辺で実際に能力を見てもらいましょう。これ、ロボットくん、まずはそこのキッチンでキャベツの千切りをやってくれないか」
Yマダがそう言うと、ロボットは「わかりました」と答えて、ステージ上に用意されているキッチンに行きます。
ロボットは慣れた手つきでキャベツを千切りにします。
見事な腕前ですが会場の反応はイマイチです。今時、ロボットがキャベツの千切りをするくらいで人は驚きません。
次に、Yマダはリンゴの皮むきを命じました。
ロボットは慣れた手つきでむいていき、最後までむき終わると、見事一本につながっている皮を会場に見せます。
会場の反応はさっきよりは良いものの、やはりイマイチです。
次はお寿司です。
ロボットが慣れた手つきでマグロを握ると、会場から「オー!」という声が上がり、拍手も沸き起こります。
気をよくしたYマダは、今度はサッカーをやらせました。
ロボットが慣れた様子でリフティングをします。動作を乱すことなく、軽く三十回をこなしました。
会場の反応はまずまずです。
続いては日本の文化、盆踊りです。
東京音頭のイントロが流れただけで会場が盛り上がります。
ロボットが曲に合わせて踊りだすと、会場から割れんばかりの拍手が響きます。
Yマダは気がつきました。
「外国人には日本的なパフォーマンスの方がウケる!」
これは大正解でした。
盆踊りに続いて日本舞踊、書道、三味線と立て続けにやると、会場はフラッシュの嵐と大きな拍手に包まれて大盛り上がりです。しまいにはお箸で納豆をかき混ぜただけで大歓声が起きるほどでした。
「えー、続きまして、今度はおつかいに行ってもらおうと思います。これロボットくん」
「はい、なんでしょう」
「この会場を左に出て五分ほど歩いた所にコンビニがあるのだが、そこで私のおやつを買ってきてくれないかね」
「わかりました。おやつは何がよろしいですか?」
「そうだね。おせんべいがいいかな。それと、あったかいお茶もだ」
「わかりました」
「じゃあ、この五百円で頼む」
「はい、確かに五百円を受け取りました」
「そうそう、外は雨が降っているから傘をさして行きなさい。傘は受付カウンターで借りられるよ」
「了解しました」
そう言うとロボットはホールの外へ出て行きます。
「それでは会場の皆さまには、これよりこの巨大スクリーンにご注目していただきたいと思います」
ホールの天井から大きなスクリーンが下りてきます。
「今出て行ったロボットをカメラマンが追って撮影しております。その映像がこのスクリーンにリアルタイムで流れますので、ロボットの行動をご覧ください」
Yマダがそう言うとスクリーンに映像が映し出されました。
ロボットが通路を歩いています。
まずは傘を借りに受付カウンターに行かなくてはいけません。
ロボットは案内板でルートを確認し、最短ルートで受付カウンターに行きました。
「すいません、傘をお借りしたいのですが」
ロボットは受付係から傘を受け取ると「ありがとうございます」と言い、出入り口に向かって歩きます。
二枚の自動ドアを抜けて外に出ると、雨に濡れないギリギリの所で立ち止まり、傘を持ち替えました。
そして次の瞬間、スクリーンを見ていた全員がもれなく「あっ!」と、驚きの声をあげました。
ロボットが傘をさしたのです・・・自分の腹に。
傘はロボットの腹を貫通し、鉄でできた先端部分が背中に飛び出しています。
ロボットはバチバチと火花を散らして膝から地面へと崩れ落ち、「傘を刺しマシタ・・・」と言って、そのまま動かなくなりました。
会場はしーんと静まりかえり、「これ、まずいんじゃないの・・」という雰囲気に包まれます。
Yマダはあぶら汗をダラダラ流しながら思います。
(つ、痛恨のプログラムミス・・。傘は刺すものじゃなくて、差すものでしょうが・・・)
大失態です。
このままでは世界中にこのロボットの欠陥を晒したことになります。
あせったYマダは咄嗟に片言の英語で言いました。
「ディ、ディス イズ ジャパニーズ ハラキリ」
静まり返っていた会場は「ハラキリ」という言葉を聞くと、一気に大きな拍手に包まれました。スタンディングオベーションです。まるでどこかの映画祭のようです。
「ジャパニーズハラキリ!グレート!」
「ブラボーハラキリ!」
「ハラキリビューティホー!」
「メイドインジャパン イズ クール!」
Yマダは割れんばかりの拍手に笑顔で応えながら、ステージのそでへと足早に去っていきました。
おしまい
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