【スピンオフ】キミ、色、トウメイ
「異世界は、現実を映し出す鏡、か」
僕は、いつものように『あの場所』への登校を果たしており、今は、読み終えたばかりのライトノベルの背表紙をぼんやりと眺めていた。視界の端には、額に汗しながら、黙々と小説をよみふける刀屋さんの姿が見える。
季節は夏。
半袖からこぼれる腕を、柔らかい風がかすめ、その涼しい感触を味わう余裕は、もう失われて久しい。ろくな教具もない『あの場所』に、当然のことながら空調設備などあるはずもなく、全開の窓から、ねっとりとした蒸し暑い風が通過するばかり。それでも灼熱地獄の苦しみを和らげる唯一の方法だった。
「さとかなごっこしまぁーすぅ!」
僕の指定席からはるか後方。
蒸し風呂のような部屋で、元気のいい鏑矢さんの声が聞こえてきた。
「今日わぁー、まやたんがぁー、さとちん役ねぇー!」
「…………うん」
「きゃーきゃー! まやたん、そこ立っててぇー! あたし、かなみんするぅー!」
「…………うん」
バタバタと移動する2足分のシューズの音。
鏑矢さんが言っていた『さとかなごっこ』とは、『さと=刀屋理樺』と『かな=氏家要=僕』とのやりとりを、ごっこ遊びに見立てて真似するというもの。当事者2人を前にして物真似というのも、不思議な感じがするが、鏑矢さんはここのところ、こればっかりしている。どうやら彼女のマイブームらしい。鏑矢さんがさとかなごっこを始めた当初、刀屋さんは酷く不愉快そうだったが、色々とあって、今では参加できるようにすらなっていた。
「…………『見てくれ』」
刀屋さんの台詞を模して、白銀さんが口を開く。
「…………『もっと見ろ』」
「『どぉしてぇ?』」
「…………『氏家要、見て欲しい』」
「『う、ぅん』」
すると火照った吐息に、衣擦れの音が、ごっこ芝居の台詞に混ざり込んできた。
ハッキリ言うのは恥ずかしいんですけど、『さとかなごっこ』って、刀屋さん役が自分のスカートをたくし上げて、その後、僕役の人が、相手の太ももに触れるというプロットが組まれています。いや、そんなことした記憶はさらさらないんですけどね。まあ、情報というのは曲解されながら広がっていくって言いますし、ええ……。
「ほっ、ほわぁっ!?」
いきなり奇声をあげる鏑矢さん。
あれ、ここから『見てもらうだけなのは、嫌だ(だから太ももに触って)』的な台詞だったと記憶していたのですけれど。
「まやたぁん、は、穿いてないよぅ!?」
――ん?
「すっごいすごぉぉぉい!! きゃー! えっちすけっちわんたっちぃ! すべすべで白いんだぁ!」
――『すべすべ』……?
「はえぇー! あたしと、全然違うよぅ。すんごいねぇ! わぁ、きれいだねぇ!」
――止めましょうか。聞き耳立てて妄想するというのも、失礼ですよね……。
「ねぇねぇ、あんねぇ、かなみんかなみん―――っ!!」
ぱたぱたと駆け足で近づいてくる鏑矢さんの気配。
「まやたんのさとちん、一緒に見ようよぅ!」
「……僕も一緒に……?」
「あんねぇ、すごいんだぁ! まやたんねぇ、つるつるすべすべ真っ白しろすけ、すんごいきれいなんだよぉ!」
「…………」
――落ち着け僕! 今、越えてはいけないギリギリアウトセクハラインに、悪魔鏑矢が囁いているんだぞ!
「ねぇねぇー! 見てよぉーぅ! かなみんビックリするはずだからぁー!」
「そりゃビックリはしますけれど、主として別の性的意味においてではっ!?」
「まやたん待ってるよぅー? だからいーそーぐーのぉー!!」
「……し、白銀さんが……?」
あごを伝って、廊下に落ちる、冷たい汗。
恐る恐る白銀さんに視線を向けると、プリーツスカートの裾をちょんとつまみあげ、こちらを凝視している姿があった。どことなしか、頬を赤らめている気がします……気のせいであってください……。
「もぉーう! 来るのぉー!」
鏑矢さんはいきなり僕の手をとると、白銀さんのいる場所まで引っ張った。
「…………氏家要、見る?」
御白銀様の前に正座すると、彼女はぼそりとこぼした。
――いや、そこは拒否ってください。僕の本音を押し込めるためにも。
「…………もっと見ろ」
僕の返事を待つことなく、するするとたくし上げられる彼女のスカート。あっという間にそれはきわどい太ももの付け根に迫っていく。が、
「なっ、ないっ!?」
思わず声をあげた僕は、慌てて両手で口を塞ぐ。
たくし上げは加速していくが、それに反比例するかのように、あの布地の気配は、微塵もない。すでにスカートは臀部まで引き上げられている。太ももの付け根からは、一滴の水分がしたたり落ち、そのまま膝に不時着を果たす。僕の視線は不可避的に――まさにこれ以上ないほどの圧力と強制力をもってして――太ももの付け根『から』、スカートに覆われていた当該箇所へ向かう。すると、
「要、楽しそうだな?」
夏の蒸し暑さを吹き飛ばす、絶対零度の声が、背中に斬りかかってきた。
「ひっ、かっ、刀屋さぁ――」
「――懲りないな。また『めえめえ』泣くか?」
「ごめんなさいごめんなさい! 白銀さんの魅力に惑わされるだなんてことは、僕としてはあるまじき行為なのですけれど、その不可避的魔力をもってすれば、僕の不退転の決意など、風前の灯火であってですね――」
「――寝ても覚めても、寝言が好きだな、要」
大きく振りかぶった右手が、僕の頬をぶつまで、そう時間はかかりませんでした。
「…………残念」
殴打百遍の刑に処される僕の横で、白銀さんは、ゆっくりとスカートを下ろした。
■□■□
夏丘学園の放課後。
夏特有の高く明るい夕焼けが、窓の外から、見下ろしてくる。鏑矢さんと白銀さんは、ニマニマと嬉しそうにしながら、すでに『あの場所』を後にしていた。そんなに打たれる僕の姿がよかったのでしょうか……。
「おい、要」
机を挟んで反対側にいた刀屋さんが、僕のほうを向く。その表情には不服そうな皺が走る。先ほどまで聞こえていたシャープペンシルの滑走音が、たちどころに止んだ。
僕は今、定例となっている刀屋さんとの授業補助を行っている。
「どうしてこれが間違いなんだ?」
彼女は上半身を乗り出しながら、僕に迫る。やや乱暴に握られた教科書からは、
『I tried to cook dinner for him. But he did not like it』
(私は夕食を作ろうとした。しかし彼は、それが好きではなかった)
という例文がこぼれ見えた。
「『try』のあとは『to』で動詞を受けて、『try to ~(~しようとする)』じゃないのか?」
得意としている文系の問題を解けなかったからだろう。彼女の不満そうな語調が、誰もいない室内に響いた。
「ええと、ちょっと見せてくれる?」
僕はお茶を濁しながら、刀屋さんの握る教科書に視線を落とす。
どれほど知識に自信があったとしても、改まった態度で「なぜ?」と問われ、抱いていた確信のような感覚が、霧のように消えてしまうことが間々(まま)ある。僕は、まずは教科書を確認することから始めた。教科書の正答例には、
『I tried cooking dinner for him. But he did not like it』
(私は試しに夕食を作ってみた。しかし彼は、それが好きではなかった)
とある。
――なるほど、予想通りの例文だ。
この出題だと、『try to ~』と『try ~ ing』とを、区別できるようになることが生徒に期待されている。
『try to ~』という文の場合、主語がやろうとする意志や意図が大切であって、実際にやったかどうかは話題の中心ではない。この例文で言えば、『私』が夕食を作ったのかどうかは、どちらでもよいことになる。
『try ~ ing』という文は、反対に、とりあえずやってみること、すなわちその成果が話題の中心になる。夕食を作ろうと思った意志や意図はともかくとして、試みとして夕食が準備され、現実に存在することが重要になる。
そして例文の後半には『But he did not like it』という、あざとい補足がある。『彼』が料理を好きではなかったということは、実際に料理を食べたことを示唆するだろう。だから『私』は実際に料理を作っているはず――この推論を働かせて、出題者は『try to ~』ではなく『try ~ ing』と解答してもらいたがっているようだ。
「えっとね、ここは――」
やや吊り上がった彼女の瞳に対して、衝撃を和らげるような、やや口角の上がった柔和な笑顔で応える。それから僕は、教科書を机の上に置き、2つの例文の違いから説明を始めた。ゆっくり頷きながら、僕の言葉に耳を傾ける刀屋さん。そしてようやく説明を終えると、
「なるほどな……」
肩の力を抜きながら、残念そうにため息をこぼした。
そんな彼女を見やりながら、意図せず僕は、その気持ちに思いを巡らせる。
僕たちのいる『あの場所』には、夏丘学園で成績が『ない』という、極めて特殊な事情のある生徒だけが集められている。刀屋さんは元々、夏丘学園で優秀な成績を残し、周囲をあっと言わせるために、努力してここに入学してきた。最初から持っている能力、特に、自学自習を継続することに関しては、おそらく学園全体においても、他の追随を許さないだろう。
だが、両手足を襲った透明化現象によって、明日どうなってしまうのか分からないという恐怖心を抱え、満足な教具もない『あの場所』で、僕という授業補助者に頼らなければならない。現状のままでは、本来の力を発揮することができないまま、『あの場所』に甘んじるしかない。たとえ、ここでの人間関係や日々の生活が素晴らしいものであったとしても、彼女は、筆舌に尽くしがたい感情を、同時に抱えているはずだ。勉強を続けることで自暴自棄にならないようにしているのか、あるいは、定期的な勉強によって生活リズムを整え、自らの不安と向き合おうとしているのか。
励ますことは容易い。
慰めることは造作もない。
共感の言葉なら誰にでもかけられる。
寄り添いながら一緒にいることも可能だろう。
なぜなら誰にとっても、これまでもこれからも、刀屋さんの苦しみは他人事であり続けるのだから。他人であることは、相手の気持ちを知ろうとする懊悩をもたらすが、何より、どこかでその距離感が保護してくれる。誰にも分からない。誰にも知られない。そこでなら、何が起きようとも邪魔されない。たとえどれほど、卑しく汚い感情を抱いたとしても、その疚しさに耐えるだけでいい。誰かに見つかってしまうことは、ないのだから。
「要、助かった」
ふと刀屋さんの声が、僕の思考を断ち切る。
「もう一回やってみる。また分からないところがあったら教えろ、いいな?」
「……あ、うん」
すると彼女は、再び、教科書の問題に取り組み始めた。
――僕にとっても、か。
前向きな彼女の姿に、ちくりと胸元に、トゲの刺さる感覚が走った。
気に病むことではない。人間であれば誰もが誰もの他人。親子でもきょうだいでも恋人でも、その人の代わりに、痛みを感じることはできないようになっている。だから、ことさら刀屋さんが他人であることなど考えるまでもない。成立している事実にすぎない。
視界に映る、刀屋さんが勉強する様子。
教科書に書かれてある説明を、まずは自分で理解しようと、額に汗する。不器用に握り締めたシャープペンシルを動かし、分かる範囲内で例題を解こうと格闘し続ける。
『努力』――刀屋さんを形容する、最もふさわしい言葉。
勉強は孤独な作業。どれほど多くの友人に囲まれていても、いかに優秀な教員が手伝ってくれても、解法のコツを伝授してくれる気のいい先輩がいても、それらは結局のところ、付属品にしかならない。自分の手足を動かし、自分の頭を使わなければ、何も身につかないのだから。何より、自分で勉強しようと決意することは、自分にしかできない。
刀屋さんは『分からないところがあったら教えろ』と言う。だから、彼女が教えて欲しいと言い出すまで、僕は介入すべきではない。彼女から息抜きの雑談を始めるのはいいが、こちらから切り出しては筋違いだ。さっきまで『さとかなごっこ』に参加していたが、もっと勉強に集中したいとも思っていたはずだ。貴重な放課後の時間。無駄にさせたくない。
「要」
またもや、彼女の呼びかけによって現実に引き戻される。
「あ、どうしたの? 分からないところがある?」
「いや、そうじゃない」
「じゃあ、少し休憩でも――」
「――だから違うと言っている」
ぽとり、とシャープペンシルを無造作に置くと、どこか余裕のある表情で見つめてきた。
「要、今日のお前はどうしたんだ。おかしいぞ」
「……え?」
「私の勉強の邪魔にならないように、どうせ痩せ我慢していたんだろう」
「そんなことは……」
「ふん、分かりやすい奴だな」
にやりと口角をあげ、こちらを見つめる刀屋さん。
「気持ちは嬉しいが、無理に黙ることはない。話したければ話せばいいし、邪魔したければすればいい」
「いやいや。それじゃ授業補助にならないじゃない。せっかく刀屋さんが集中しているの――」
「――本当に、大馬鹿だな」
もう一度、彼女は上半身を乗り出し、上目遣いで顔を覗きこんできた。
「書庫での話、覚えていないのか?」
「……もちろん、覚えているけど」
「学園が嫌なら、ここを居場所にしろ。そういう話をしたはずだ」
「……うん、だね」
「だったら、どうして遠慮する? お前の居場所だ。気を遣うことない」
「気なんか遣ってないよ」
「本当か?」
じっと僕を見据える彼女の瞳。チリチリと摩擦熱を帯びたそれは、僕のそれらを徐々に焼き始める。耐えられなくなった僕は、不意に視線を逸らした。
「なるほど。もう答えなくていいぞ」
「あ、だから本当に、気なんか――」
「――隠し事もしない。これも約束しただろう?」
してやったり、とにんまり笑う刀屋さん。
「お前がすごいのは分かっている。要のおかげで、私どころか空美だって透明化現象から救われたんじゃないかって、感じるほどだ」
「買いかぶり過ぎだって」
「だがな、要。もっとのんびりしてもいいんじゃないか? そうやって何でも真剣に考えて、気ばっかり張っていると疲れるぞ?」
「そんな緊張しているつもりはないけど……」
「空美のこと、あっただろ」
すると刀屋さんは、ゆっくりと椅子に座り直した。
「空美の本音、分かっているつもりでも、何も知らなかった」
「そうだった、ね……鏑矢さんは控え目なところがあるから」
「メモ帳を見たとき、すごいショックだった。どうして言ってくれなかったんだろうと思った」
「……うん」
「でもな、空美のせいじゃない。私も同じだ。透明化現象のことを打ち明けなかった。それに空美には分かりっこないって、勝手に思い込んでいた」
彼女の声色は、そのトーンを柔らかくする。
「お互い遠慮ばかり。知ってるつもりで何もしらない。もう、そういうのは、嫌だ」
「…………」
「要、だから変に気を遣わないでくれ。一緒に透明化現象の調査をするって約束したじゃないか」
「そうだね、うん……」
「ならいい」
勉強は終わりだ、ライトノベルの話をしろ、と刀屋さんは続ける。そして僕は、彼女の言葉に促されるように、最近読んだばかりのライトノベルについて感想を言い始めた。
■□■□
「遅くなっちゃったね」
僕と刀屋さんは『あの場所』を出ながら、言葉を交し合う。
「そうだな」
僕の少し前を、まるで先陣を切るように、リズミカルなステップで進む刀屋さん。
「今度は時間を見ながらじゃないと、いくら日が高いと言っても、暗いなか一人で帰るのは、刀屋さんも危ないし」
「……私は、気にしない」
「刀屋さんがそう思っていても、不審人物はいるっていうから。警戒するに越したことはないって」
「……だったら、要」
僕のすぐ目の前を歩いていた刀屋さんは、ぴたりと足を止めた。
「だったら、何?」
「……ずっと、家まで送って、くれないか?」
背後を振り向いた刀屋さんは、弱々しい瞳で、見つめてきた。
すっかり暗くなった夏丘学園の校舎。その重たい背景に、ひときわ花咲く彼女の瞳が、呼吸を奪う。
「……駄目、か……?」
答えは分かっている。なのに喉元から、それが出てこない。早く、早く答えないと。
「……冗談だ。要も忙しいだ――」
「――だっ、駄目じゃないよ!」
臓腑から湧き上がってきたそれは、ようやく容を獲得した。
「帰ろう! 遅くなったら一緒に帰ればいいし! うん!」
「――――」
呆気にとられ、色もなく、僕を眺める刀屋さん。
「僕も、授業補助だけじゃなくて、刀屋さんと話したいし! それに鏑矢さんや白銀さんと遊ぶのだって大事にしたいから!」
「そっ、そうかっ!?」
彼女は裏返った声で、返事をする。
「だ、だったらいいぞ! 私も遠慮なく、勉強できるからな!」
「うん! そうだね、それがいいよね!」
すると僕と刀屋さんの間に、音声が生まれなくなった。
刀屋さんがどうしたいのか分からない。僕もどうしていいのか見当がつかない。けど、こうしてお互いに立ちつくしている時間は、ひどく緊張を強いられていて、それでいていつまでも続いて欲しいような、そんな感覚をもたらしていた。
「か、帰ろうか、とりあえずっ」
「……あ、ああっ」
それでも僕は一歩を踏み出す。刀屋さんのすぐ隣を横切ろうとすると、弾みで、彼女の手に触れてしまう。すると彼女は、僕の手を握ってきた。
「…………」
視線は足元を見つめたまま。決して僕を見ようとしない刀屋さん。その手を握り返すと、暗闇の校舎を、一歩また一歩と、正門に向かって歩き出した。
「あれあれぇー、ないしょのないしょの『さとかなごっこ』ですかぁー?」
ようやく正門が見えてきたかというところ。普段は聞かれない、聞き慣れた彼女の声が、正門の向こう側から聞こえてきた。
「あ、えっと――」「――そ、空美か!?」
「にししぃ。どぉしてぇー、お手てつないでぇー、いるのぉーですかぁー?」
ひょっこりと正門から、その顔だけを見せる鏑矢さん。
「どうしては僕たちの台詞だよ――」「――どうして空美がいるんだ!? 帰ったんじゃなかったのか!?」
「だってだっての、だってさぁんー。思ってることナイショダメだったのねぇー? あたしぃ、さとちんとかなみん、とぉーっても怪しいですよぉー?」
「こっ、これは違うんだよ――」「――そうだ! 要が引っ張るから仕方なくだな!?」
「ほえぇー、『さとかなごっこ』、レベルアップできますねぇー。ねー、まやたぁーん?」
「白銀――」「――真闇だと!?」
ひょいっ、という効果音が聞こえてきそうな動きで、鏑矢さんの顔の真下から、白銀さんの顔が姿を見せた。
「…………白銀真闇、見た。白銀真闇、理解した」
「だから誤解なんですよ白銀さんってば――」「――そうだぞ! セクハラエロ要に強制されたから、仕方なくだな!?」
ぱっ、と僕の手を離すと、厳しい視線を向けてくる。
「えっ、僕が悪者っ? それはさすがに酷くないですか!?」
「煩い! 黙れ! 口答えするな!」
「さっきは本音で語り合おうって言ってたはずでしょ!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!! もう一生しゃべるな! 命令だ!」
「まさかの急転直下な展開に、開いた口が塞がりませんよ!?」
「誰のせいだと思っているんだ! この馬鹿、大馬鹿、バカナメの馬鹿野郎!」
「罵倒語が、ちょっぴりアレンジされて進化しいてるっ!?」
「こっ、このっ……! もう絶交だ! 要なんか知らない! あと死ね!」
顔を真っ赤にしながら、刀屋さんは手にしたカバンで殴りつけてきた。
「にししぃ、にししぃ、にししのしぃ」
「…………白銀真闇、頑張る」
僕たちの様子を、意味深長な表情で、眺め続ける2人だった。