第二話 「引越しと二人の男」
しかしそれにしても気になることがある。
なぜ俺なんだ?
いや、運が悪いのはもうわかった、問題はそこじゃない。
俺が訓練生として軍に入って一年。それなりの訓練も受けたし、実技訓練の成績だって特別悪いわけでもないが、特別良いってわけでもない。
だというのにイキナリ最前線の第三歩兵突撃部隊? いわば結構な腕前が要求される所なはずだ。
まぁ、そんな事を俺が考えてもしょうがないか、もしかしたら俺が思ってる以上に俺はデキル奴かもしれないしな。
そんな考えてもしょうがないことを考えながら、俺は自分の所持品を取りに宿舎にある自室へと向かっていた。
別に夜逃げするわけじゃない、ここは訓練生の宿舎だからな。普通の兵士達と同じ宿舎に引越しだ。
まぁ心のモヤモヤは晴れないが、俺もやっと配属が決まったし、それはそれで喜ばしいじゃないか。
荷物の手続きは思いのほか簡単に済んだ。まぁ荷物と言っても大き目の箱一つだけだからな。
あとは宿舎を出て軍の預かり所にバスケットで寝ているこの猫を預けるだけだ。俺が戦闘に参加している間は親戚に面倒見てもらうからな、後で受け取りに来てもらう手はずになっている。
「ん……?」
なんだ? 宿舎の出口に屈強そうな男と眼鏡をかけた男が二人。あれは正規軍の軍服だな。
「君がジョン=トランスか?」
「はい、たしかに自分はジョン=トランスですが……。」
俺に気づいた屈強そうなほうがこちらに来る。歳は三十代前半あたりか、しかし年齢異常の風格を感じるのは、きっと俺の気のせいではないだろう。
胸の階級賞を見るに……曹長殿か。部隊長クラスだな、という事は……
「そうかしこまらなくてもいい、私はアラン=デイヴットだ。 君は第三歩兵突撃部隊に配属された。間違いは無いな?」
「ええ、間違いありません。」
そして男は俺を頭から爪先まで一度サッと見ると、これまた風格ある笑顔で手を差し伸べながら言った。
「よし、私がその第三歩兵突撃部隊の隊長だ。よろしく頼む!」
やはりそうか。という事は後ろにいる眼鏡のほうは……
「僕が副隊長のケビン=ノックスだ。よろしく。」
「やはり副隊長さんでしたか。よろしくお願いします。」
いつ顔合わせかと思っていたが、まさか向こうからきて貰えるとは思ってなかったな。
しかしこいつらが第三突撃部隊? 俺が想像していたのとは大分違うな。てっきり筋肉馬鹿みたいな暑苦しい奴ばかりかと思っていたんだが、この隊長も副隊長を見る限り、どうやらそうでもないらしい。
「あ、僕のことはケビンでいいよ、僕も堅苦しいのは嫌いだから。」
「分かりました。」
と、いわれてもな。ケビンの階級賞は伍長だ、それに歳も俺よりも四、五歳上だろう。それとも俺が老けて見えるんだろうか……それはそれでショックだ。
「これから他の隊員にも紹介したいんだが、大丈夫か?」
「大丈夫です。あ、ただ一度預かり所に寄っても構いませんか? こいつを預けないと。」
俺はそう言ってバスケットを持ち上げた。隊長は『おや?』という顔をしただけだったが、ケビンは目を輝かせていた。
「やあ三毛猫君。可愛いね。僕は猫が大好きなんだ。」
ケビンは眼鏡を上げて俺のバスケットを覗き込むと、「触ってもいいかい?」と聞くので勿論俺はOKした。自分の猫を褒められて嬉しくない飼い主はいないからな。いつの間にか起きた猫も、ケビンが柵の間から突っ込んだ指と何事かとばかりにじゃれている。
「構わんよ。宇宙へ行っている間ほったらかしておく訳にもいかんだろうからな。ケビン、いつまで触ってるんだ……。」
隊長はそう言って笑うと、バスケットに顔を寄せていたケビンの首根っこを掴んで、ぐいと後ろに引っ張って背筋を伸ばさせた。
「じゃ、行こうか、ジョン。」
「はい。」
さて……まぁ少し前までは自分が死ぬんじゃないかとハラハラしてたが、そんな不安は消え始めていた。何故かこの隊長を見ていると、『俺は死なない』そんな気がしてくる。
俺の前を歩く隊長の背中を見ながら、俺は早くもこの隊長を尊敬し始めていた。そんなオーラが、この隊長にはあった。
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