第一話 「運が悪い男」
ああ、全く俺は運が悪い。
昔からそうだ、女子に告白しようとすれば、直前でその女子が誰かと付き合いだすし、ゲーム機を買っても、大抵一年もしないうちに原因不明の故障を起こす。
軍への入隊が決まって喜んでいた矢先に交通事故を起こされて、入隊式には松葉杖状態での出席。有難い入隊賞と共に、周囲からの有難くない失笑を頂戴した。
今日だって、朝食の用意をしてたらウチの馬鹿猫に邪魔されて卵を足の上に落とすし。そのおかげで、洗濯したばかりのズボンをまた洗濯機へゴーシュートする破目になっちまった。
だが、今回はそんな今までの事件がチャラになるくらいにヤバイ。二十三年もこの運の悪さと付き合ってきて、自分の悪運加減は解っていたはずだが、流石にここまでとは思ってなかった。
そんな俺を驚愕させると同時に憂鬱へと移行させる理由。それこそ今俺が持っている一枚の書類にある。
数分前に御偉い人事管理長殿から受け取ったこの書類。さっきから一分毎に内容を読み返している。
書類にはいかにもコンピュータで印刷しましたというような生気の欠片も無い文字が、一分前に見たときと同じようにこう並んでいる。
『氏名:ジョン=トランス二等兵 上記の者を救出部隊の一員として"第二の地球"へ派遣する。同時に配属先が決定した、下記にそれを記す』
ここまでなら俺も落ち込みなどしない、むしろやっと俺もちゃんとした一兵士として現場で活躍できるのかと小躍りするシーンだ。……だが、俺は相当に落ち込んでいる。何故か、答えを導き出すのは至極簡単。目線をそのまま書類の下に落とせばいい。
『――れを記す。 配属先: 第三歩兵突撃部隊 』
……第三歩兵突撃部隊。この配属先が示す意味が分からない人間なら俺がここまで悩む理由が理解できないだろうな。短気な奴だったら、せっかく悩みを聞いてやったのに、と怒り出す可能性だってある。
だがそんな奴にはちゃんと説明してやる、そして分からせてやる。
俺が落ち込む理由その一。隊番号が一桁。
なぜか、答えは簡単。隊番号ってのはそのまま出撃する順番みたいなもんだ、つまり十中八九最初の一打として戦場に強制投入。イコール死亡率アップ。
俺が落ち込む理由その二。歩兵部隊である。
歩兵部隊ってのは基本的に重火器は使わない、というか持たせてもらえない。つまり己の腕前だけで戦わなくては生き残れない。イコール死亡率アップ。
俺が落ち込む理由その三。突撃部隊である。
特筆するまでもない、何があっても問答無用で道を切り開けっていうことだ。つまり銃弾が飛び交う戦場をガンガン駆け抜ける。イコール死亡率アップ。
そして、俺はこの部隊の一員となって、おそらく反撃が予想されるであろう場所へと、名前だけとはいえ救出部隊として行く。
こう言えばどんな脳タリンでも理解できるはずだ。要するに……
――要するに、俺は死ぬかもしれんって事だ。
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