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優しき風が吹く頃に
作:彩BOC



〜一走決め〜


「おい慎一、アップ行こーぜー」

青高の陸上部は、全員集まってアップする時は少ない。早く来た人からアップに入り、時間になったら集合して号令する。いつもならそうだが、今日は火曜日なので、市内にある陸上競技場を借りて練習できる。

しかも貸し切り状態なので、かなり贅沢に使える。それに今日は先日予定していたリレーメンバーの一走の決定する日だ。いつも顔を出さない柴田先輩も来ていた。

「ようやく今日だな、どうだ?自信あるか?」

柴田先輩はこの日まで部活に参加していないので、勝算はそれなりにある…が、問題はそこじゃない。俺は迷ったような顔をした。

「大丈夫だって!お前は速いんだから、自信持てって!」

他人事のように肩をバンバン叩く。
ふと柴田先輩の方を見ると、既にダッシュを終えていて、休憩に入っていた。
やはり今日は気合いが入っているようだ。普段滅多に使ってなかったスパイクを履いていた。いつになく真剣な柴田先輩が恐い。

すると、不意に柴田先輩と目が合った。気付いた先輩はこっちに向かってくる。ストレッチしている慎一に、逃げる術は無かった。

「よお、確か…相模とか言ったっけ」

「は、はい…」

ウワサより優しそうな顔で声をかけてきたので、少し恐縮してしまう。余裕な表情で話しかけてきたところを見ると、今日の一走決めで慎一の事は目じゃないらしい。
正直、それはそれでいいのだが、

「今日の一走決め、お互い頑張ろうぜ」

善に包まれたような笑顔で、握手を要求するように手を差しのべてきた。
一瞬警戒したが、大人しくそれに応じた。

「じゃあな」

それだけ言い残し、次は基本動作に入っていった。横で見ていた健が、

「ビビッた〜…柴田先輩があんな笑顔で話かけて来るなんて…背筋が凍っちまったぜ…」

恐ろしそうに身震いしていた。健的には、予想とは遥かに違っていたようだ。

「やっぱりウワサはウワサだろ。優しい先輩じゃねーか。あれが問題児かよ」

実際、慎一は柴田の事は噂でしか耳にしないので、どんな人かと思ったら、

「そういうけどな、一昨日山田先輩と嶋先輩が柴田先輩のケンカの現場を見付けたから止めに入ったんだってよ。でも手遅れで、相手の三人は病院送りになったんだって」

健が隈無くジェスチャーで伝える。そういえば澪さんも、校内でのイジメが酷いって、

「外はあーだけど、中では牙を剥いてるかもしれねーぞ?」

「まぁそれはそれ。牙を剥いてよーがなんだろーが、走るだけならそんなの関係ねぇだろ?」

「そりゃ…そうだけど…」

ウワサではあんな人だけど、根はいい人なんだ…。それを信じて、陸上部に招集がかかった。












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