〜意外に〜
一人ぼっちで昼食を済ませた慎一は、それだけでは物足りず、だからといっておかわりするほど残金が残っていなかったので、食品売場にある試食品コーナーで腹を満たそうと考えていた。しかし、試食もやっている時間帯が決まっているのか、辺りを見回しても見付からなかった。そう思った時、
「どうぞ、ご試食くださ〜い」
ふと、試食を宣伝する店員の声がした。その方向から香ばしい香りが漂ってきた。
ステーキだ。
「いただきま〜す」
一つ手にして口の中に頬張った。口の中に入れただけで伝わる肉質。かじるとしみでる肉汁。やはり焼きたては旨い。
「まったく、今時の高校生が試食品に手を出すなんてね」
その声は店員のものだった。さらに、慎一はその声に聞き覚えのあることを思い出した。
恐る恐る店員の顔を覗く。
「わっ!?」
思わず退いた。
「何よ!!人をお化けみたいに」
彼女は登坂捺美。同じ市内にある青隆学院大学に通う先輩だ。普段から悪戯好きで、よく慎一にちょっかいを出している。たまにスゴいことをやってくるが、伊那に比べたらよっぽどマシだ。
「捺美さんこそ、なんでこんなとこで働いてるんスか!?」
「あ、私がどこで働こうと自由でしょ!?世の中は職業選択の自由よ」
長い後ろ髪を手で払う。
「てことは、ショカンはクビになったんですか?」
捺美は以前?青校の通学路にあるお洒落な喫茶店で働いていた。元々人と話すのが好きな性格なので、接客業に向いていたという。そこの店長が少し異常だが……、
「なんでそうなんのよ!ショカンでもちゃんと働いてるわよ!」
店員から営業スマイルが消えている。
「なんでまた増やして…」
「足りないのよこれじゃあ…」
「まだ…なんですか…?」
捺美には、慎一と同い年の妹がいる。弓道部に所属していて、練習中の誤射が足に刺さり、足の神経を絶ってしまった。彼女は体が弱く、非常に回復が遅い。そのため、未だ車いす生活をしている。
最近は会っていないが、昔からの幼馴染みなので、顔は忘れない。ていうか、同じクラスの鷹薙に似ているからか。
「そういえば…元気ですか…?由樹は…」
「元気…なのか解らないけど…いつもどおりよ」
もともと由樹は、あまり笑わない子で、外から見ても元気なのか解らない。
足の怪我は、足の神経の中枢を射抜き、その傷はまだ深く残っている。それがトラウマになったのか、弓道のことを話したがらなくなった。
「まぁ…あの子もあの子なりに頑張ってると思うんだけどね…」
歩けず不便で、いつも病院の窓から見える景色ばかり見ている。
「また今度、見舞いに行きますよ」
「うん、ありがとね」
そういって、捺美は焼けた小さなサイコロステーキを差し出した。慎一は素直に受けとり、口にほおりこんだ。
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