〜早朝〜
七月十六日(日)
午前八時十九分……
「ほら早く早く!!モタモタしない!!」
朝早くから大きな声を出すのは近所迷惑だろ…。
「遅いよ〜お兄ちゃん……置いてっちゃうよ〜」
「ま、待ってくれ…」
そういいながら慎一は急いだ。今日は俺にとって…いや、俺達にとって大切な日。忘れてはならない大事な用事がある。今日は休日だから、案外混みそうだな……。
地元宮坂駅からハマ電(私鉄浜塚山電鉄浜塚山線)に乗って、二つ駅を越えた所に、三瀬駅に着く。そこからまた十五分位歩いていった所に、亡くなった人を敬う霊園がある。
「おーい慎一、こっちだ!」
大振りに手を振っていたのは、昔からの悪友の室井健。
「珍しいな。お前がこんなに早く来るなんて」
いつもは約束の時間には必ずいない健が珍しく慎一より早くいたので、少し驚いた。
「何言ってんだよ。今日は年に一度の大切な日だろ?それに、自然と背筋が伸びるしな」
見回すと、健の他にも大勢の青高の生徒が来ていた。ざっと見て、大半は女子だろう。
「だな」
次々と霊碑の前で拝んでいる。この霊碑の中には、生前、慎一の彼女だった、被月綾乃。
三年前に不慮の事故で他界してしまった。昔からの幼馴染みで、よく加代と三人で遊んでいた。そして、綾乃には兄がいた。綾乃が…いや、日本が自慢するほどの人だが、今は消息すら掴まない。
陸上界でも名を知らない人はいないほど、綾乃の兄は有名だった。
実際慎一も、一度しか顔を合わせたことがない。
「あら、アンタも来てたんだ」
健の背後からヒョイと顔を出したのは、学校でいつも俺にちょっかいを出してくるやつ……。
「いちゃワリーか」
どうしてもコイツにはケンカ腰になってしまう。昔からの立場なのか。
「もう、こーゆう日くらい、伊那ちゃんとのケンカもやめてよね。今日は大事な日なんだから」
「そうよ。少しは大人になりなさいな、慎一」
お嬢様口調の乙部伊那とは、昔からの犬猿の仲で、いつも昼休みに購買部に行くと必ず会う。
そして、いつも通り品の取り合いになる。何故か食に関しては相性が良いらしい。俺にとってはいい迷惑だが……。
「まったく、どうしてウチの家系にはロクなのがいないんだ……」
「あら、それって自分の事言ってんの?」
「おいおい……」
健が抑えようとしても、それは無視された。
慎一と伊那の父親は、実は兄弟で、親戚という関係である。ただ、弟の方は事業に成功し、今は乙部財閥という幅広い仕事をやっている。また結婚した女性も、名の轟くお嬢様だったり……。伯父さんもいい人だし、一体あの性格は誰に似たんだろう……。
「まだ何か言いたそうね……」
「別に」
「もう…お兄ちゃんたら……」
「よし、墓参りも終わったし、三瀬大館にいこーぜ。私服欲しいんだ」
峰山舞歌は、峰山舞歌は、女子の方でも背の高い方で、男混じりな口調が特徴だ。地域の合気道に参加していて、慎一もまれに混ぜてもらっている。いつも伊那達といて、なかなか気の合うやつだ。
「そーだな。丁度腹も減ってきたし…」
朝早くから起こされて何も食べていない。その上あのバカと口喧嘩をして余計に腹が減っている。
三瀬大館はここからそれほど離れていない。
大型デパートなので、ここからでもハッキリ見える。 |