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優しき風が吹く頃に
作:彩BOC



〜お嬢様〜


「はいっっ!」

青高陸上部はいつになく気合いが入っていた。三年生最後の大会が近いからだろうか。
特に1番の目玉の四継にはかなり熱が入っていた。

その中に、もちろん俺も混ざって練習をしていた。
少なくとも、今年の春先の頃より着実に上手くなっているのは、さすがに自分でも解る。

「その調子だ相模。結構上手くなってるぞ」

「へへ…」

実際一日出来て一時間弱を週2回でこなしている。時間は少ないが、意外に内容が濃いのだ。
俺は二走であるから、主に前者と息を合わせながらバトンを受け取る。
しかし澪さんいわく、まだ手がきちんと上がってないらしく、毎日手を無理矢理上げさせられている。
二走目からはバトンを受け取るので後ろに手を伸ばす。それに慣れない俺には困難な事だった。

「それくらいで自惚れているなら、四継から外れた方が身のためだぞ」

すると、一年ながら四走を担当する下総が、ちゃちゃを入れに来たのか近くに寄ってきた。
少し腹が立った俺は、

「どういう意味だよ」

若干眉間にシワを寄せて言った。

「難しい事は言ってない。そのままの意味だ」

どうやら俺にケンカを売っているようだが、今はそれどころじゃない。いち早くバトンパスに慣れ、本格的な所まで持っていかないと…。下総を無視して行くと、

「おい…」

なんだよさっきから…今日は妙に突っ掛かってくるな…。

「あんだよ?」

「バトンを受け取る時に、お前はすぐに腕が下がっている。それでは前者が渡しにくい…受け取るまで絶対腕を下げるな」

「……………」

なるほど…と俺は頷いた…。というか、何言うかと思ったら、助言してくれたよ、何だ、意外にいいやつ…

「四継の基本中の基本が出来ないくせに、よく四継をやろうと思ったな」

嫌味たらしく言い残し、下総は去っていった。…………前言撤回、やっぱ嫌なヤツだ…。













「待てよ下総!」

下総はやることが早い。部活が終わるとさっさと一人で帰ってしまう。誰ひとりとしてヤツのプライベート現場を見たことがない。……実際にあるかどうかも解らないが…。

「何の用だ?俺は忙しいんだが…」

「んなこと言って、書店行くんだろ?俺も行くよ」

「……」

下総と親しかったっていう中森ってやつに聞いた。下総はいつも、帰り道にある書店で時間を潰しているらしい。何でもそこには、下総が愛読している本が先行販売を行っているという。
まぁ…下総の読む本など…サラサラ興味はないが…。






<河緒書店>


河緒市…俺の住んでる宮阪市の駅を三つ行った所にある大きな市内。下総の自宅もそこにあり、帰り道に寄っている書店があるという。
それより…

「付いて来たのは構わんが、帰りの金はあるのか?」
「だ…大丈夫だ…気にすんなって」

冷や汗をかきながら必死に繕った。実際問題、ここまでくるのにハマ電で来ると一時間が30分と半分も短縮されるという、まさにハマ電様様だ。
だが、道のりが長いため、電車賃もバカにならない。加えバイトもしてない俺にとって、1番苦しい時に乗ってしまったものだ。

「帰れなくても知らんからな。歩いて帰れよ」

それが友達に対していう台詞か…。

「いらっしゃいませー」

入った所に店員が挨拶をする。店内は結構規模の大きそうな感じだ。品揃えもかなり良い。手に入らない書物はないという感じがする。

「何の本買うんだ?」

「お前には関係ない」

相変わらず釣れない反応。離れて行動するか…。

「ん?」

ふと見ると、とてつもない高さのはしごに、女性の店員さんが昇っていた。
本の入れ替えだろうか、それにしても、絶句するほどの本棚の高さだ。人が十人重なってようやく届く高さの頂上だ。

「よいしょっと、あれ?何かお探しですか?」

いつの間にか降りて来た店員さんに、不意に声をかけられていた。

「あ、いや…眺めてただけです…」

「?何をですか?私をですか?」

…………は?言葉を失った。予想外の答えだった。確かに見ていたのは違いないが、唐突に言われると返答に困る。

「ち…違いますよ…」

危うくYESと答えそうになった。見てみると、とても綺麗な人だ。腰まである長い茶髪に、、ぱっちりの瞳に綺麗な睫毛、顔も小さく、その割には背が高い。
正直言って…可愛い。

「冗談ですよ。色んなのご覧になってくださいね」

手で鼻を隠して笑う。その仕草が、とても可愛らしいと思った。
もしかして…恋…か…?

「あ…あの…失礼ですが、学生さんですか?」

「はい?」

って、俺はいきなり何聞いてんだ俺はー!
初対面の人にプライベートな事を聞くのは失礼だと解っているのに…。

「え…ええ。私、今高校三年なんです」

となると、一つ上か、学校は何処だろう。青隆ならこんな人絶対忘れないだろうし…

「克文台です。自宅も近くなんです」

克文台高校…ここ河緒市にある全国でもトップレベルの進学校で、毎年有望な学生達が卒業している。
てか、いつの間にか声に出てたのか…。

「あなたは?見た所、青隆学園の生徒さんかしら?」

たまたま部活帰りだったため、制服姿の俺を見て言った。

「その通りです。よくご存知ですね」

「ええ、青隆に友達がいるから」

「おい、何している、帰るぞ」

話していた最中、下総が割って入って来た。相変わらず空気が読めないヤツだな…。
去っていく最中、

「あの…名前は!」

不意に聞いていた。これには恥じなかった。少し堂々としていた。

「基央…佐奈千代です…」

軽く微笑み、佐奈千代さんは答えた。名前からしても、雰囲気からしてもお嬢様としか言いようがなかった。今日はいい出会いがあった。

「じゃあな。金が無くてもしらんぞ」

店を出て早々、下総は駅とは反対方向に去っていった。
………忘れてた…。帰れるかな…俺…












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