〜番外編・1〜相模鈴
「はぁ…」
相模慎一の妹、相模鈴は、1年C組、容姿は肩より少し短いショートカットに、前髪を角の様に束ねている。
性格は似つかないが、顔の雰囲気はどことなく似ていた。
彼女は今日、小学校からの幼馴染みの虎里由美がいなかったので、人見知りの鈴には話す相手もおらず、一人孤独に浸っていた。担任曰く、微熱で欠席らしい。
「ヒマだなぁ…」
現在3限の日本史が終わり、間の休み時間、鈴は他に話せる人がおらず、他校出身の生徒と接するのが苦手であった。
「なんか浮かない顔だね、相模さん」
前の席に座っていた男子生徒が話しかけてきた。慎一と同じ陸上部員の、南場早人である。
「あ、南場くん、今日由美が休みだから…」
「あ、そうか、虎里さん、今日欠席だったね」
再度確認するように、鈴の後ろの席を見る。
「で、何か用?南場くん」
「あ、次の選択で俺古典でさ、今日古典便覧忘れちゃって…良ければ貸してくれないかな」
申し訳なさそうな目で頼んでくる。
そこまでしなくとも、鈴は人から頼まれ、イヤとは言えない性格だった。
「うんいいよ。えーと…はい」
差し出した便覧を、早人は拝みながら受け取った。
「ありがとう!この御恩はいつか返すよ!」
「そ、そんなのいいよ〜…ほら、次の授業、始まっちゃうよ?」
時間を見ると、次限開始三分前だった。
「うぁ!じゃあ行くよ!ありがと相模さん!」
慌てながら、鈴に手を振りながら走り去っていった。
彼の後ろ姿を見て…似てる…突然、兄の背中が見えたような気がした。―――
兄の慎一は、今日の部活は近くの競技場でやるので、一緒に帰れないと言っていた。
しかし、どうしても兄と帰りたかった鈴は、部活の終わる時間を見計らい、陸上競技場に向かおうとした。
「お待たせー」
「もう、遅いよー」
道中に一組のカップルが目につく。それはまるで、鈴には兄と綾乃に見えた。
―――私の中では、まだその幻影がある…。
着いた競技場では、妙に騒がしかった。
時折人の怒声が聞こえてきた気がした。
何だろうと、鈴は中を覗いてみると、
(あ、お兄ちゃん…)
鈴の視界に、大勢の部員と、その中に兄、慎一を見つけた。しかしその後、周りが険悪な雰囲気になっていたことに気付いた。
「〜!」
慎一に向かって前にいる男子部員が、何か怒鳴っているようだ。
「…んだとコラァ!」
「やめろ!」
「!?」
急に聞き取れた声に、思わず身を引いてしまった。
見ると、罵声を上げた部員が、二人の部員に止められていた。
どうしたんだろ…。
お兄ちゃん、ボーッとしてるし…。
「相模さん?」
「ひゃう!?」
いないハズの背後に現れたのは、
「そ、そんなに驚かなくても…」
「な、南場くん?」
彼の片手には、今朝貸した便覧があった。
「丁度よく相模さんがいたから返そうと思って…ありがとう」
「あ、どういたしまして。…ところで、何かあったの?」
鈴に兄がいたことを思い出した早人は、
「よく分かんないけど…相模さんは帰った方がいいよ…」
鈴に関わらせると、慎一が困る。そう感じた早人は、鈴に帰宅するように言った。
鈴は状況を把握したのか、そうだね、と頷き、その場を後にした。
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