〜本性〜
「ふざけんじゃねーぞ!」
一走決めの100m走は意外にあっけなく勝負がついた。一緒に走った先輩たちが緩く走っているかのように、俺には思えた。
当然、結果は一位、相模慎一。(11秒08)
慎一自身、なかなかの好タイムだった。
だが、その結果が許せないのか、柴田先輩の周りに険悪なムードが漂う。
「なんだ?不満でもあるのか?柴田」
柴田先輩にけしかけるように、喧嘩腰に澪サンが向かう。
「大ありだ!今ので終りか!?ふざけるのも大概にしろ!!」
負けた柴田先輩が怒声をあげていた。危険を察した高木先輩と嶋先輩が駆け付けた。
情けない…自分の負けを認めないのか…。
必死に口論をしている柴田先輩が哀れに見えてくる。
俺の中で悠々と怒りが込み上げてきた。
「ふざけちゃいないさ。あの時この方法で一走決めを提案したとき、アンタも納得してただろ?」
「ぐっ…」
本心を突かれた柴田が、言葉に詰まった。
この一走決めを提案したのは澪で、それを柴田に持ちかけて了承を得たのだ。それでも、柴田の怒りはおさまらない。
「うるせぇ!こんなのは白紙だ!こんなの…」
「いい加減潔く負けを認めたらどうスか?先輩」
聞き覚えのない声の方に、慎一は目をやった。
人混みも避けるように道を空けた。
中から目付きの鋭い部員がいた。
威厳あるように歩いてくる。
「さっきから情けないスよ、先輩は100mで相模に負けた。練習をサボっていた分、圧倒的な差をつけられてね」
男子部員の言うことはもっともだ。柴田は他の三年四人には負けなかったが、慎一には愕然と素人でも解るような大きな差がひらいていた。
これでは三年生が二年生に?と噂されても、過言ではない。
「てめぇ下総ぁ!いつからそんなでかい口叩けるようになったぁ!?」
「まともに練習に顔を出さない挙句、校内でイジメをしていたせいで退学になりそこなった奴に言われたかないスよ…」
それを引き金に、柴田は激怒した。
「なんだとコラぁ!!」
「やめろ!」
待機していた高木と嶋が暴れだした柴田を抑えた。
抑えられた柴田はその手を強引に振り払い、
「こんなの、やってられっか!」
皆に背を向けて帰ってしまった。その後、場は静まりかえったままだった。
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