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Color blindness
作:グリコ



第五章:【4】


 真っ白な砂と、空よりも透き通ったジェイブルーの水が浜辺に押し寄せる。白い泡を纏った漣は、いつも一定の位置まで昇り、去っていく。延々と続く白い浜辺に、黒い物体が二つ。

「……ん──ぅ」

 頬が擦れ、微かな痛みと共にエレスは意識を取り戻した。堅い感触を確かめるように、何度も手や顔を動かすと、その度にジャリジャリと言う音がする。彼女の煌くようなブロンド髪には所々砂がついてしまっているが、降り注ぐ太陽光のおかげで美しさは失っていない。

薄っすらと目を開き、その長い睫毛にすら付着した白い砂粒を瞬きによって落とすと、エレスは焼ける様な暑さに眩暈がした。じんじんと、黒い制服を着ているおかげで焼けはしないが、その代わりに蒸される様に暑い。ゆっくりと上体を起すと、近くで倒れているクリフを見る。

「……」

外傷はないし、微かに呼吸もしている。首に指をやり、脈もあることを確認すると、エレスは白い砂浜に座り込んだ。そうして、目の前に広がる海に目を細める。


(…この様子だと、どこかの島に漂着したようだな)

振り返り、背後は鬱蒼と森が茂っているのを確認し、再び海へ視線を戻す。

「──っつ」

 ふと、エレスの隣で声がした。目覚めたクリフが、脹脛(ふくらはぎ)を押さえるようにして体を縮こまらせている。外傷はないと安心していたエレスだったが、弟のその様子を見て瞬時に血相を変えた。

「どうした……痛むのか?」

脹脛を押さえているクリフの手に、自分の手も重ね合わせる様にして尋ねる。急に手の甲に熱さを感じ、クリフは跳ねる様に上体を起こした。そして、隣に居るのが姉だと気がつくと、ようやくいつもの笑みを浮かべ首を横に振った。

「いいえ。大丈夫です──恐らく、少し打撲しただけかと」

「そう…ならいいけど」

二人とも意識を取り戻した事で、多少の余裕が出来ていた。静かな、漣の音だけがする砂浜で、互いに視線を交わす。

「ここ。どこだと思う?」

唐突に、エレスが聞いた。それを聞いたクリフは、脹脛を揉み解しながら辺りを見回した。

「……情報が、なさすぎますね。恐らく、どこかの島……いや大陸かもしれない」

近くに落ちていた貝殻を拾い上げ、それを手の平に乗せながら、エレスは少しだけ首を傾げた。

「……これ、何の貝?見たことないけど……」

薄ピンクの、淡い色の貝殻は美しかったが、何か儚い感じもする。見たことのないモノに、クリフも不思議そうにエレスの手の平の上の貝殻を覗き込む。

「……」

しかし、見る見る間にクリフの目は見開かれた。普段ならば薄い水色の瞳が、深い青に変わっていく。薄い唇が、カタカタと震え始める。

相変わらず、手の平で貝を摘んだり転がしたりするエレスの肩を掴み、クリフは強引に自らの方へ向かせた。驚いたエレスの指から、貝殻が落ちる。

「──姉さん。この貝はA shiny tellin shell(桜貝)と呼ばれる貝です」

それを聞いて、エレスは眉を潜めた。途端に二人の周りの空気が変わる。ざわざわとした通り風が、背後の森から流れだす。深緑の木々の間に、暗い影が幾つも現れる。

「……何故名前を」

クリフは、森の方を見ながら、静かに言った。

「母さんが、持っていたものです。桜貝は、ある地域にしか生息しない」

そう言うと、クリフは徐に腰の剣へ手を伸ばした。それを見たエレスも、森から噴出してくる風に何かの匂いが混ざっていることに気がつき、一瞬で短剣の柄を掴む。

「そう、"ミリ大陸"近辺の浜辺でしか、生息しない貝です」

二人が息を呑んだ瞬間、目にも留まらぬ速さで森から何かが飛び出した。素早く立ち上がり、剣をかまえると、二人は目の前の光景に言葉を失った。

「──っ!」

激しく唸り声をあげながら、二人を取り囲んだのは数匹の獣だった。ふさふさとした白い毛、ピンと立った大きな耳、犬の様に突き出た鼻先に皺を溜めながら、鋭い眼光を放つ緋色の瞳。

囲まれ、じりじりと距離を狭めてくる獣を睨みながら、二人は囁くようにして会話をする。

『ここはミリなのか』

『恐らく』

『こいつらは一体…』

『分かりません』

熱さ以外に、吹き出る汗にエレスは舌打ちをした。額から鼻筋へ、次に鼻筋から頬へ。ゆったりと流れでる汗を拭うこともできはしない。

 獣達との距離がもう、一馬身という所まで迫った時、再び葉が擦れ合う音がした。思わず音の方向を睨んだ二人は、再び絶句する事になる。

「う、そ……」

柄を握る指が振るえ、思わず落としてしまいそうになるのを、寸でのところでエレスは踏みとどまった。自分達を取り囲む獣と似ているが、それらよりもさらに一回り大きな体をした獣が、居る。

すぐにエレスは、その獣が長なのだと思った。勘であるが、間違いない、と確信する。

二人をじっと見据えながら、獣は微かに口を開いた。鋭い牙が覗き、さらに隙間から赤い舌が垂れる。押し付けあっている背中が暑い。燃えるような日差しの下で、エレスとクリフは覚悟を決めた。



『……エルフの…匂いがする』


微かに聞こえたその言葉は、空気を振るわせたわけではない。エレスとクリフは、ハッとして獣の方を見た。取り囲んでいる方ではない、一際大きな獣の方だ。

『おまえら…エルフ…?』

獣が微かに、緋色の目を歪めた瞬間。二人を囲んでいた獣が、全て同時に二人へと飛び掛った。




















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