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Color blindness
作:グリコ



第四章:【3】


 
 「ミ、ミリ大陸…?」

 エレスは信じがたいといった表情で主人を見据えた。ティアベルはウエストや体のラインがぴったりと浮き出る深緑のドレスを着ていた。長い睫毛に縁取られた美しいオッドアイが、一心に眼下で驚愕するエレスとクリフを見据える。

 「……そう。ミリ大陸です」

いつも笑顔であるクリフでさえ、目を見開きティアベルのドレスの裾を見ている。エレスはすぐに、何故自分とクリフがアゼルへの旅に選ばれなかったのかを理解した。そう、つまり、目の前の主君は、少しでもエルフの血が流れている自分達に、ミリへの旅を命じようとしたのだ。普通の人間が行くよりも、二分の一だけエルフの血が流れている自分達の方が、恐らくエルフに近づきやすい。

 「……無理難題を言っているのは、分かっています。しかし、未知の力を持つとされるエルフを味方につけることが出来れば、我々の将来は安泰なのです」

 「──」

 エレスは覚悟を決めた。主人の命令は絶対であり、自分にとってもそのように危険かつ重要である旅に派遣されることは名誉だ。クリフもまた同じ気持ちであるようで、瞳を透き通るような水色に輝かせた。それを見たティアベルは、生真面目な表情で言った。

 「確か、貴方方の母方の父君、つまり──貴方方の祖父はエルフ…だと聞いています」

 エレスは脳裏に"黒のすみか"で細々と暮らしている母親の事を思った。エルフなため、耳は少し尖りこの世の者とは思えない儚げで美しい容姿をしている。深い森の奥で育った為、色素の薄い、少々濡れた様に光る白に近いブロンドの髪。触れば吸い付く様に滑らかである白磁の様な肌。流線型に流れる魅惑的なジェイブルーの瞳はどこか翳りがあり、ふっくらとした唇。そこまで思い出して、主人の質問に答えようとエレスは口を開いた。

 「……はい。祖父がエルフであると母のエリスから聞いたことがあります。そして祖父はエルフの長であるとも」

それを聞いたティアベルは息を詰まらせる様にして一歩下がった。まさかエレスとクリフがそこまでエルフに近い人種であるとは思わなかったのだろう。しかし、再び気を取り直したのか確りとした語調で告げた。

 「…そうですか。ならばなお更好都合です。孫であるあなた方の頼みならば」
 
 それは普通であれば至極当然のことであった。老人が自らの孫を可愛がる、人間であれば誰もが体験するであろう事柄だったが、それを聞いたエレスは顔を顰めた。

 「…母は、一族から追放された身です。一族の掟を破り、神聖なエルフが、汚らわしく脆弱な人間を好いてしまった。さらにその子も身篭ってしまった。それを知った祖父は、激怒し秘術を使い母を森から追放したと」

 さらにクリフが続けて言った。

 「…さすがに娘だったからでしょう。母は殺されはしませんでしたが、そのときに、祖父が母に忠告をしたらしいです。"二度と戻ってきてはならない。もしこの後お前の血を継ぐ者がこの森に侵入することがあれば、我々はその者の命を奪うだろう"…と」

重苦しい空気が部屋に充満し、ティアベルは不意に目線を落とした。前髪が自然にはらりと舞い、目元を影にする。16歳の少女は、その脳みそをフル回転させその場の状況に一番ふさわしい言葉を紡ごうとした。

 「…そうですか。…そのような事情があるのでしたら、あなた方を使わせることは」

 「お待ちください!」

エレスは必死に声を張り上げた。部屋から退出しようとすでにエレス達に背を向けていたティアベルは、大きな叫び声に振り向いた。

 「どうしたのです?」

立ち上がったエレスは、多大なる決意を秘めた青い瞳で主人を見据えた。さすがは双子、クリフも同じように主人を見据えていた。
 
 「大丈夫です。ミリ大陸へは、我々を行かせてください」

これから言おうとして事を先に弟に言われてしまったエレスはきょとんとし、隣のいいとこ取りをしたクリフを怨めしそうにに睨んだ。

 「……しかし、貴方方は、ほぼ確実に殺されるのですよ?」

忠実な騎士たちを、わざわざ殺される為に派遣をしたくないティアベルは、彼らを引き下がらせようとわざと脅迫めいたことを告げた。しかしそれを聞いたエレスは臆することなく、それどころか俄然勢いを増して叫んだ。

 「かまいません。主君の為に死ねるのならば本望です。それに、エルフの術に対抗できるのはエルフしかいません。私はあまり術を使えませんが──弟…クリフなら多少の術を使えます」

 ティアベルは思わず、また目を反らした。出来るなら、彼らには絶対に行かせたくない。しかし、他に危険度の高いこの旅に使わせることが出来るような人材は居ない。仮に、エレスとクリフを派遣すると、黒い狼の幹部は一人もリノの島から居なくなってしまう。もしもその隙に、白の羊の連中が責めてくることがあれば──?

 (いや。恐らく、それはない)

ティアベルは表情を曇らせた。白の羊は期限や条約ごとに律儀な面を見せるので、約束を破り、満月の日よりも前に責めてくる可能性は少ない。仮にそのようなことをすれば、隣国のアルベルト王国に警戒心をもたれてしまう。軽率な行動は控えるべきだ……。
 
 様々な事を考え、そしてティアベルはひとつの結論を出した。振り返り、未だ自らを懇願する様な目つきで見る二人の騎士を見た。しっかりとした顔つきである、やはりこの二人は自分を信頼してくれているのだ。いや、しかしそれだけで──自ら命を落とすような旅に出たいというだろうか?

 「どうして、そこまでの覚悟を決められるのです?」

主人の問いに、先ほどと同じ事を返そうとしたエレスであったが、不意にそれは本音ではないと気がついた。確かにこの少女──主君を信頼しているのもある。しかしそれよりも、父を殺した"黒い狼"に復讐したいのだ。なんとしても。

 「…私怨(しえん)、でしょうか」

それを聞いたエレスは、満足そうに口角を上げた。ようやく騎士たちの本心を聞けたのだ。私怨、それだけで理由は十分だった。

 「分かりました。ミリへの旅は貴方方二人と、従者4人で組んだ派遣団へさせます。至急旅への用意をするように」

それを聞いた二人は、互いに顔を見合わせてしっかりと頷いた。


エルフですよ、エルフ。次回からはエレスたちとアルたちの旅二つの方向で書きたいと思います。しかしプロットを見るにまだまだ続くんですよね…笑"恐なるべく夏休みのうちに終わらせたいですが……(^^;)出来るだけ更新やっていきますので、ではでは。











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