たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える。
――― ルター
さて、これは彼の有名な宗教改革者マルティン・ルターの言葉だ。
ポジティブな考え方だ。
いや、ポジティブか?
まあ、所詮言葉は言葉であり言うだけならだれでもできる。
「実行することが大切だ」
といっても、世界は当分滅亡しそうにないし、明日滅亡するとしてもリンゴの木を買いにムサシに足を運ぶのも億劫だ。
そもそも「世界の滅亡」これは何を指しているのか、ただ単に生けとしい生るものすべてが死に絶えるのか、それはどう解釈しようとどんな仮定をたてようとこの言葉を言ったルターにしかわからない。
そもそも「世界」とは地球か、宇宙か、ここまでいくともうただの哲学、いやただの子供の戯言だ。
「なに考えてんだか」
夜。
暗い部屋で自嘲気味につぶやく。
PM1:27
「寝よう・・」
時計で現時刻を確認し通算3回目の台詞をつぶやく。
夕方に珈琲を3杯も飲んだから無理はない。
自業自得だ。
あぁ、明日も学校なのに・・、いや現代の若者にしてみればこの時刻はまだ普通に起きている時間なのだろうか。
まあ、人は人、俺は俺。
ということだ。
あぁネガティブでナーバスで、―――――――――ネガティブだ。
ジリリリリリリリリリリリリリリ・・・・――――――――――――― ガシャッ
・・・・・・
「ああ・・・眠い」
クレイジーだ。
俺はそう毒づきながら着替えを済ませ、顔を洗いリビングへ。
家には誰もいない。
両親は離婚、とまではいかないまでも仲が悪くて別居中。
母は実家+父は単身赴任=一人暮らし
と。
この様な式ができあがり、家には誰もいない。
淋しくはない。
といえば嘘になるかもしれない。
けど両親とは元々仲はあまりよくないから一人のほうが気が楽で良いかもしれない。
あくまで仮定。
この生活が続いてもう半年だ。
毎月あるていど、少し贅沢できるぐらいの仕送りは届いているので生活に苦労はしてない。
半年もたつと料理、洗濯、などの家事もずいぶんと慣れて順応性の高い俺はもうそんじゃそこらの若いもんには負けないぐらいの腕前を持っていると自負している。
以上。
家庭事情説明終了。
で、それなりに料理はできるが今は朝だ。
そして俺は低血圧だ。
朝は苦手だ。
食欲もない。
と、いうわけでブレックファーストはサイダー一杯。
を、一気飲み。
舌に痺れる炭酸で目を覚ましいざ学校へ。
「はぁ・・」
家を出るなり無意識にため息をついてしまう自分。
ナーバスだ。
Δ Δ
「おっ、やあやあ須永君、おはよー」
と、家を出発して5分ぐらいたったところで後ろから急に声をかけられた。
「おはよ」
とりあえず、挨拶を返す。
同じ学校で同じ教室のこの少女。
身長は約160cmぐらい、髪は後ろでポニーテールにまとめてあり、女子の中では美人というより可愛いに属するほうだ。
男子の中でも結構人気があったりなかったり、その辺の事情についてはあまり詳しくない。
・・・・・・・さて、ピンチだ。
忘れた。
名前を忘れた・・・・
3年生になりもう2ヶ月はたつのに俺はまだクラス全員の名前を把握していなかった。
元々自分はあまり社交的なタイプではないから自分から話しかけることはめったになかった。
ま・・・いいか。
「ところで須永君、今まで登校中に遭遇することなんかなかったのに今日いきなりそうぐするなんて奇遇ですねー。さては何か良いことがあって早起きしたとか?いやしかし、良いことがあったからといって早起きをする理由にはなりませんね。それにいつもどうり眠そうな目をしている所を見ると今しがた起きたばかりにうかがえますが?だいたいどうしてそんな眠そうで、だるそうで、明日世界の終わりが来る人のような顔をしてるんですか折角の良いお顔が台無しですよ。まったくどうせ夜遅くまで遊んでるんでしょう。勉強してるんですか?でもそれにしては成績はいいですね。特に数学。なんで数学で満点なんか取れるんですか!数学の時間はいつも上の空で適当に受けているくせに。まったく不公平ですね、こんなのは」
空き樽は音が高い・・・は失礼か。
それにしても長い。
口を挟むスキすらない。
朝からハイテンションな子だ。
名前なんだっけ・・・
「・・・無視?ねえ無視?そんなことしないでよ、そーいうのがイジメにつながるんだぞー、まったく言葉と言葉のキャッチバールはちゃんとしなきゃ社会にはとけこめないぞー、ハローハロー聞こえますか?」
「・・・朝からよくしゃべるね。」
「別に朝だろうが夜だろうが関係ないとですよ。」
なぜ片言?
「言葉というのは人間にだけあたえられた唯一無二の物、そして言葉によって、言葉でのみ自分の意思を明いたに伝えることができるじゃない、言葉によって人は意思を共有し思いをめぐらせ、時には価値観の食い違いで口論を交えることもあるでしょう、しかし時には愛を語りあうときもあるのです。そして言葉のおかげで社会的にも科学的には人々は成長し今日に至るわけですよ。OK?」
「でもさぁ―――」
「さあ!ここで問題です!」
言葉と言葉のキャッチボール・・・・・は何処へ?
「私の将来の夢は何でしょうか?」
「えー、それはなりたい職業と解釈していいんですかい?」
「うーん、えーー、まあ、そーです」
「将来ねー・・・」
真剣に考えるつもりはないが、とりあえず手を組んでセオリーどおりの手を組む考えるポーズをとる。
おっと、もうすぐ学校につくじゃないか。
ということは、家から学校まで歩いて約20分弱、この少女は15分もしゃべりっぱなしだったと、まったく。
「いつまで考えてるのさー、制限時間はあと14秒〜」
13〜12〜11〜と少女は数え始める。
こんな高校3年生は珍しい。
「えー・・・詐欺師?」
「・・・・・・・せいっ」
少女の手がお笑い芸人の如くツッコミを入れる要領で真横にスライドさせる。
ただ、お笑い芸人と違うのは平手打ちではなく拳が握られており狙う照準は丹田の逆、すなわち臍の少し上すなわち・・・・
「ぐっ・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!」
声にならない呻きを上げる。
肝臓に・・鳩尾に・・水月に・・・
なんの躊躇いのなくツッコミ(?)を入れやがった。
まさに寝耳に水。
「なんで私がそんな下衆な職業、職業でもない職業につかなきゃならないのさ、私の何処をどううみてそんな職業が浮かびあがったのか、正直に白状したら許してやらんでもないかもしれない可能性が30%ぐらい生じるかもしれないよ?」
何重仮定!?
「これがキレる子供か・・・」
とりあえず反発。
「what?」
睨まれた。
英語で睨まれた。
ついに国境を越えたか・・・。
あぁ、その角を曲がれば学校は目の前で、たった今その角に差し掛かり学校前の距離はまさに目前、約20メートル。
「制限メートルはあと17メートル〜」
16メートル〜15メートル〜14メートル〜
と一歩歩くごとにカウントダウン。
初めて聞いたそんなカウントダウン・・・。
「ふぅ、えー私めがそう思った理由は・・・あなた様が言葉が好きで愛しているということがわかりましたので、言葉を巧みに扱い相手を騙し、うまく言いくるめて金銭を奪う詐欺師、かな、と?」
「・・・・・・・・・せいっ」
「ふんっ」
「なっ!?」
「ふっ」
せいっっと不意打ちツッコミを再び繰り返したものを、ふんっっとそれを見切っていた俺は腹筋に力を入れガード、なっっと自分の必殺技を防がれた少女は思いもよらぬまさに寝耳に水の表情を見せ、ふっっと俺は勝ち誇った顔を見せる。わけです
「同じ手が二度通じると思うなよ」
「こ、言葉を侮辱するなー」
「事実だ。」
「そ、それは愚かな一部の・・・」
「まあ、法律ものは有名無実、金科玉条の如く謳われているものの誰しもが少なからず法律というものは犯しているものさ。」
「それを言葉で綱紀粛正できるはずさ!」
「・・まあ、頑張って。」
さて、微妙に激しく口論を交わし終えたらいつもまにか、校門に入り、靴を履き替え、階段を上り教室に続く廊下を歩いていた。
時の流れるのははやいねー、まさに光陰流水。
「じゃっ」
そういって俺は自分の席へ着く。
「じゃー」
そういって彼女は彼女の席に着く。
名前・・・なんだっけ?
Δ Δ
あぁ、だるい。
ネガティブだ。
着席早々こんな感想を述べるのはどうかと思うがこれから約8時間この学校という限りなく自由を制限される空間に隔絶されるわけだ。
だが、それももう慣れた。
小学校で6年、中学校で3年、高等学校で3年目、合計12年目。
まだ、大学もあるのか・・・。働こうかな。
それを考えるのはあとにしよう。
まだ1学期だ。
んー・・・視線を感じる。
真横だ。
隣の席の水口さんだ。
美人さんだ。
しかし、いつも目つきが険しい、というか眠そうな目をしている。
口数も少なく友達と話している所もあまりみたことがない。
クラスでは近づきがたい存在って所が彼女の定位置だ。
個人的には嫌いじゃない、むすろ好きです!
しかし、その好きが恋愛感情なのか、妙な親近感からくるのかわよくわからない。
でだ。
その水口さんの視線を感じる。
確証はあるがあくまで確証。
確認はしていないからただの自意識過剰かもしれない。
しかし
振り向いたら負けだ!
そんな気がする。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴメンナサイ」
「?」
謝ってしまった。
この威圧感にはたえられない。
彼女はなぜ謝られたのかわからず怪訝な顔をしている。
「・・・・おはよ」
・・・・・
「おはよ・・・・」
彼女はそれだけ言うと視線をはずした。
あいさつするだけにこっち見つめていたのか?
もしかして、もしかすると?
・・自意識過剰か。
大きな期待は大きな失望を生む。
うんマイナス思考でいこうぜ。
Δ Δ
意識を閉じる。
close my mind
といっても寝るわけでもなく、しいて言えば上の空みたいなかんじだ。
何も考えず、ただ時のたつのをまつ。
無念無想に授業をこなす。
先生達授業は平坦で無味乾燥。
まさに教科書通り進めているだけだ。
午前の授業が終わり売店へ行く。
牛乳と菓子パン2,3個を購入し教室へ戻り一人淋しくパンをほうばる。
10分もかからず昼食を終え昼休みあと30分強、何をしようかと思考をめぐらすが特にしたいこともないので机に項垂れる。
寝よう。
。。
。。
。。
。。
wake up
少々寝すぎた感じがする。
時計を見てみると2時10分。
2時10分といえば5時間目のおわりに差し掛かる所じゃありませんか?
今までずっと寝ていた。
そして先生にばれなかった。
うむ、この席は一番後ろの左角、そして俺の前には長身の高山君が悠然と存在している。
・・・・良い席だ。
寝よう。
・・・・
・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・はっ!
再びwake up。
あたりは賑やかや喧騒に包まれていて帰り支度をしているものや、部活にいこうとするもの。
「・・・おはよ」
水口さんがこちらを見てつぶやいた。
少々呆れ顔をしている。
「おはよ・・・」
本日2度目のgoodmorning
帰ろう。
Δ Δ
家に着く。
ただいまっと、心の中でつぶやく。
静寂が家の中を包んでいて、明かりの一切ない家の中に踏み込むたびに闇に堕ちていくような感覚に陥る。
慣れたさ。
慣れたけど、寂しいもんは、寂しい。
「女々しいなー、ったく」
自嘲気味に、自虐的に呟きスイッチをオンにして明かりをつける。
自室に行き、制服を着替え夕飯作りに取り掛かる。
事務的に、機械的に淡々と作業をこなし、20分ぐらいで簡単な料理ができあがる。
それを立った5分ぐらいで食べ、あくまで機械的にこなす。
そのあとに風呂に入り、宿題をし、娯楽に勤しみ、明日の準備をする。
あくまで事務的に、あくまで機械的に。
なにもかもが機械的に本物のロボットのように、あらかじめプログラミングされた動きを実行しているだけで、生きることさえも機械的で、生きることをだるそうに、生きることをつまらなそうに、変わり映えしない毎日を機械的に億劫そうにただ生きている。
そして、寝る。
そして、また空想に耽る。今日を振り返る。
「今日もまた何もなく日常的で、変わり映えなく、淡々とした、つまらない1日でした。と・・まあ少々変わったこともあったか。所詮許容範囲内「のできごとだしな・・」
訥々と呟く。
――――――意識のシャットダウン――――――
Δ Δ
・・・・・・・・・・・・・・・ガチャッ
「・・・・うしっ」
全身黒ずくめのライダースーツ着用し、黒い野球帽をかぶった人物がピッキングツールを巧みに操っていた。
「見た所車庫には車がないし、庭もずいぶん手入れがされてない。・・ということは子供の一人暮らしとみた!」
黒ずくめは自分に確かめるように呟きドアノブに手をかけ家に入った。
「・・・・・・・・・」
目が覚めた。
まったく俺は神経質なんだからほんの小さな音にも敏感でおきてしまうんだからよー。
誰に愚痴るわけでもなく心の中で呟く。
「ま、学校であれだけ寝たからな・・」
ん・・?
ガチャ?
まるで鍵を開けるような音。
ていうか、まさしく。
もしかして、もしかすると?
泥棒さん?
OKその可能性を尊重しよう。
いやしかし、ただの聞き間違えかも・・・寝てたし。
まあ、とりあえず確認、確認。
ベットから跳ねおき、無音で階段を下りる、そして耳を澄ます。
・・・・・・リビングからガサゴソと微妙に聞こえる。
・・・・・・・ビンゴ!
リビングに近づく。
扉が開いていた、そっと覗き込む。
・・・ヒュー
全身真っ黒、黒ずくめの人物が片膝立ちでしゃがみこみ引き出しを漁っている。
ま、とりあえずっと。
俺は身を翻しキッチンへ。
しゃがんでいたから正確にはわからないが身長は自分と一緒かそれ以上にみえた。
武器は持っているようにはみえなかったが万が一のためだ。
戸棚を空ける。そこには大小、形状も様々な包丁が並べられている。
・・・・・これで。
俺は一番小さな果物ナイフを手に取った。
果物ナイフを片手に再度リビングへ足を運ぶ。
黒ずくめはさっきとは違う少し横にある引き出しを漁っている。
犇くその黒ずくめをみながらこの後の行動について思案した。
普通なら。
普通ならだ。
自分の部屋にある電話で110と押せばそれで終わり。
しかし、今の俺を締めているのは恐怖心ではなく異常なまでもの高揚感。
これこそ非日常。
これこそ異常。
たかが空き巣に入られただけで異常とはいささか大げさだとは思うが、初の体験に今俺は非常に興奮している。
果物ナイフを持って何をするのか。
黒ずくめを捕まえるのか。
捕まえてどうするのか。
何も考えていない。
本能のなすがままに行動している。
さて、行動に移そう。
扉を少し開け自分の入れるだけの隙間をつくる。
リビングに入る。
黒ずくめはまだガサゴソと犇いている。
まだきずかれてはいない。
電気のスイッチに手を伸ばす。
高揚感が絶頂に高まる。
ON
光が視界支配する。
光に目が慣れていたためチカチカする。
黒ずくめがびくっと震えるのが分かった。
そして立ち上がりこちらを振り向く。
・・・・・・・
・・・・・・・
数秒の沈黙。
晴天の霹靂。
驚いた。
黒ずくめは、女だった。
しかもモデルの様に背が高く出る所はしっかりとでていてスレンダーな体つき、目は少し釣りあがっていていつい。
目が光に慣れてないだろうか。
そして体だけではなく顔も結構整っていて美人と言っても差し違いない。
髪は後ろで一つにまとめてある。
黒ずくめの視線は自分の手元へ。
いつのまには自分は包丁を黒ずくめにむけて構えていた。
「良い子は寝る時間だよ」
少し震える声で彼女は言う。
「僕は不良なんですよ」
・・・僕っていっちゃった、そして敬語つかっちゃった。
・・・・だって美人さんなんだもん。
Δ Δ
膠着状態はまだ続いていた。
「少年、畑から見たら君が悪者だぜ。」
たしかに男性が女性にナイフを向けて立ち尽くしている。この状況だけをみれば俺が悪者だろう。
「第三者なんかいませんよ。」
「いや、わかんないよ、こういうときに限って親が帰ってきたり、友達がきたり、ピザ屋さんがまちがえてもってくるもんさ。」
「誰かがきて困るのはあなたじゃないんですか。」
「いや、夜歩いていたらいきなり君にナイフで脅され家に連れ込まれ犯されそうになったところだ。っていえばなんとか。」
「そんな怪しい格好で?」
「じゃあ、バイクに乗っている所を引きずり降ろされたってことで。」
「んな無茶な」
そこまでいって一旦言葉が止む。
「・・・・さて君は綺麗なお姉さんをナイフで脅してどうしよっていうんだい?」
「・・・・じゃあ警察に通報を」
「ま、まて」
彼女はあわててとめようとする。
「なんでしょうか。」
「話せばわかる。これには深いようで浅いような訳があるんだ。」
「・・・聞きましょう。」
「話したら、見逃してくれる?」
彼女は猫なで声で問いかける。
「まあ、内容によりますね」
といっても最初から警察に通報する気なんてさらさらなかった。
ただ、このめったに味わえない非日常を、異常を体験するだけで十分だ。それに警察なんかよんだって面倒なだけだしな。
「・・・《愛出ずるものは愛返り、福往く者は福来る》という言葉を知っているか?」
「いいえ」
「《人を愛する者は人からも愛されるし、人に対して善行を施す者には幸福が返ってくる》ということだ。」
「僕は泥棒なんてしたことあいりませんよ。」
「そう、それだ泥棒なんてしてないのに泥棒はされる。人を殺していないのに殺される。この社会はこんなにも不公平だ。だからだ、《愛出ずるものは愛返り、福往く者は福来る》なんて言葉は偽善者の謳い文句だ。」
「・・・それで?」
「だから、力を持たない弱者はやられる前にやれ、と、こういうわけだよ。」
彼女は韜晦するように話す。
「じゃあ、弱者にやられた弱者はどうすればいいんですか?」
「やりかえせ」
「そんなループを繰り返していたらこの社会はもっとだめになりますよ。」
「だいたいなー、泥棒するにしたってピッキングとかのスキルもいるし、このように運悪く見つかってしまうなど大きなリスクがあるんだ。ハイリスク、ハイリターンってやつだ。」
「・・・・急に話の趣旨が変わりましたね。」
「だからさ、泥棒なんてのは株で儲けているやつと一緒のようなもんだ。儲けた金はもともと人のもんだろ。それを取ったんだ。なんら変わりはない。要は法に触れるか触れないってだけの話だろ?」
「・・・ものすごいほどのいいがかりですね。」
「私はまだ何もとっていない!」
・・・開き直りやがった。
「じゃあ、不法侵入で」
「あ、あわてるな、考えてもみろこの若さで前科ありなんて可哀想とは思わないのか」
「何歳なんですか」
「21」
「いい大人が泥棒やんかしないでください。」
「子供なら何やってもいいっていうのかい?」
「・・・・またそんな子供みたいな屁理屈を。」
「くっ・・」
彼女は少し顔を赤らめている。
恥ずかしかったようだ。
Δ Δ
さて、どうしたもんかこの状況。
別にもう逃がしてやってもいいかな。という考えが頭をよぎったが、そしたら彼女の滅茶苦茶な屁理屈を肯定してしまうような気がするので却下。
お互いにまだ動きは見せない。
俺はナイフを構えたままで、彼女は絨毯の上に仁王立ちしている。
「いつからこんなことやってるんですか?」
沈黙に耐えられなくなり口を開いた。
「・・・私だってさ高校のときは1,2を争う成績で結構な優等生だったんだぜ」
「はあ・・・」
「それがさぁ、絶対に受かると思ってた大学に落ちたんだよ。それで酷いことにうちの両親ときたら散々私のことを貶しまっくて、そして私もとうとうキレて大喧嘩。自分の貯金を全部持って家出したってわけさ。」
彼女は訥々と話す。
「・・・ということは、3年も前からこんなことを?よく今まで捕まりませんでしたね。」
「いや・・最初のうちは友達の家を渡り歩いたり、今はやりのネットカフェ難民に興じてみたりもした。そして資金が底をつき始めた。そのとき、師匠に出会ったのさ。」
「師匠?」
「そう、師匠は私の恩人さ・・・」
そして彼女は懐かしむようにしみじみと話し始めた。
「そう、あれは私の資金がつき、友達の家にもさすがにいきにくくなり、街をさまよっていたときだった。」
Δ Δ
Dami itとうとう頼れる友達もいなくなった。
財布の中身をそっと窺がう。
「・・・・3752円なりーっと。」
「はははっはは・・」
自嘲気味に嗤う。
「はぁー・・」
さて、・・・どーする。
金がない、もう金がない。どーする?
帰ろうか・・・・・・いや、だめだ負けたきがする。
楽に金を稼ぐ方法はないもんか。
1、体を売る。
・・・いやいや、そこまでしたら、もうだめだ、人間的にもうだめだ。
いや、しかしそれで食っているひともいるんだ。バカにしちゃあいけない。といってもいやだ。
とぼとぼ歩いていて交差点に差し掛かり信号が青に変わり立ち止まる。
そしてスッと横にくびれた背広をきた40代位のサラリーマンが並んだ。
ちらりと横を窺がう。
後ろポケットから財布らしきものが顔をだしている。
ほとんど無意識だった。
きずかれないように周りを見回し誰もいないことを確認する。
半歩その男に近づきそっと手を後ろに伸ばす。
大丈夫、いける。
財布にふれる。
よし。
いっきに引き抜こうと思ったその瞬間。
「ん?」
男が振り向いた。
些細な異変にきがついたらしい。訝しむ視線でこっちをみている。
男の視線が私の顔から私の手元に移ろうとした瞬間。
「あのー」
ボロボロのずぼんにTシャツの上に黒いコートをきたラフな格好の男がサラリーマン風の男に声をかけた。
私の手元に行きかけていた視線は声をかけた男に移る。
「これ、おとしましたよ」
男は柔和に微笑み財布をさしだす。
ん?・・あ、あれ?
その財布は私がたった今取ろうとしていた紺色の財布だった。
「うん?あ、ありがとうございます」
信号は青に変わり男はそういって、そのまま歩いていった。私のことなどもう覚えてないように。
「・・・たくっ、もうすんじゃねーぞ素人が」
男はさっきの柔和な態度とは一変して険しい目つきでぶっきらぼうに言い放った。
「・・・・・」
私はポカンとしていた。
ついていこう、この人についていこう。そう思った。
男はもう横断歩道を渡ってしまっていた。
信号が点滅する。
私は急いで渡りその男に、声をかけた。
「あの、・・・えーと、その」
男は面倒くうさそうに振り向き怪訝な目でこっちを見ている。
「い、生きる術を教えてください!」
「・・・・は?」
私の意味不明な台詞にさすがの男も吃驚仰天している。
Δ Δ
「つーわけさ。」
彼女は話終えると腕を組んで何やら思い出に浸っている。
「で、その師匠とやらは?」
「・・・それが2日前から帰ってきてないんだ。」
「じゃあ、単独では初めてってことですか?」
「・・・・うむ」
「そして最初から失敗、と」
「うるさい、一人でもできると思ったんだ。それをなんだ、おまえのせいで私の記念すべき処女犯行を台無しにしやがって、まったく、こじゃあなんだ、入学式の自己紹介ではずしたヤツみたいじゃないか。」
「・・・そのたえとはよくわかりませんが、今ならまだ間に合います足を洗って普通の生活に戻りましょう。せっかくの美人が台無しですよ。」
「はっ、なんでまだ親の金で生きてるやつに諭されなきゃいけねーんだ」
「・・・・人の金よりはましでしょう。」
「・・・・と、とにかくこういう家業は一度嵌ったらぬけだせないのさ。」
「・・・・さいですか。」
なんかもう疲れてきた。
さっきからずいぶん長い間包丁を構えていたので腕の筋肉が悲鳴をあげる。
包丁を持ち替えようと手を下ろした瞬間。
「きっ」彼女の目つきが一瞬変わり約5メートルの差を一瞬でつめ、俺の手から包丁をはじきとばし押し倒す様にのしかかってくる。
俺は仰向けに倒され、その上に彼女がのしかかり意地の悪い笑みをうかべている。
俺の両手は彼女の足に挟まれ両手両足身動きがとれない。
あれ?形勢逆転?
絶体絶命?
・・・あわてるな。
冷静に、客観的に、悲観的に抽象的にいこうぜ。
「ひひ、油断しちゃあいけねーぜ、少年。」
不気味に、シニカルに口を吊り上げて嗤う。
「元柔道部?」
「いんや、全部師匠に習った。」
「・・・・・」
「はい、そこーエロチックな想像しない!」
「・・・師匠とはどこまで?」
「はい、セクハラ禁止」
「さて、この場合どっちがセクハラなのかな?」
「師匠はさぁ、私を子供あつかいしてまったく相手にしてくれなかった。それによく他の女を連れ込んでもう、形容できないような、あんなことや、こんなことを・・・」
「あ、そっちに話が展開?」
「いや、もう終わり。」
・・・個人的には持って聞きたかった。
やばい。
話を終わらせてはだめだ。なんとか時間を稼ごう。
「まあ、まってくださいよ。僕だって1回まってあげたでしょう?恩は返さなければいけないですよ。」
「はっ、甘えたことえってんじゃねーよ。」
「で、では最後に質問を・・」
「・・・まあいいだろう、冥土の土産に聞いてやる。」
んーなんか使い方が違うような。
「明日、世界が滅亡するとするとあなたは何をしますか?」
「はっ、いやに抽象的だな、情報が少なすぎるぜ。」
「・・・そんな真剣に考えないでくださいよ。適当に、何となく、新テストの心境でこたえてください。」
「じゃあ、逆に聞こう。おまえならどうする?少年。」
「・・・リンゴの木でも植えましょうかね。」
おどけるように答えた。
「ルソーかよ・・まあいい。私なら・・・うーん好きなことをするさ。」
「好きなこととは?」
「おいおい、適当でいいっていたのはおまえだぜ。答えだけに具体性をもとめるなよ。それにさ、明日何してるかもわかんねえこんな世の中だ。明日必ず生きているなんて保障もないし、今日の自分が必ずしも明日の自分とは限らない。人は変わるものさ。価値観なんてすぐかわる。好きが嫌いに、嫌いが好きに。な」
「・・・・・」
まあ、もっともだ。
初めて彼女の口から賛同できる台詞がでたようなきがする。
「さーて、お話がすぎたぜ少年。ちょっくら眠っててもらおうか。」
彼女は残酷に微笑み腕を振り上げ俺の体に叩きこもうとする。
狙いはなんとなくわかった。
本日3回目。
いやもう12時はすぎたか。
まあ、しかし感覚的に3回目なのでなんとなくわかった。
「はっ」
「くっ」
彼女は一旦腰を浮かせ全体重をかけて俺の肝臓に・・鳩尾に・・水月に・・・。
しかし、腹筋にあらんかぎりの力をこめてなんとか持ちこたえる。
「なっ」
思った以上に俺に腹筋があったことに驚き思わず戸惑いの声をあげる。
「スキアリ」
彼女が緩んだ隙に腕を滑り出し鸚鵡返しに彼女の肝臓に・・鳩尾に・・水月に・・・突き入れる。
「がぁ、ぐっ」
彼女はうめき声を上げてそのまま倒れこむ。
意識を失ったようだ。
さて、どうしようか。
念のため縛っておこうか。いや、もともと逃がすつもりだったんだし気がついたら勝手ににげるだろう。
取られて困るよなもんな金庫にしまってあるしな。
よし、では放置プレイに決定。
時計を見る。
もう2時を少し回っていた。
あぁ、明日も学校か。
だるいなー面倒だなー嫌だなー。
あーネガティブだ。
そんなことを呟いているわりには自分の心は高揚していて顔には笑みをうかべているのがわかる。
あぁ、こんな体験はもう二度とないかもしれない。
そう思うとクレイジーな感情になった。
ま、いいか。
うん。
寝よう。
Δ Δ
目が覚める。
昨日・・・今日の記憶が急激に甦ってくる。
「あの人は・・・どうなったかな。」
もう、さすがにいないとは思ったがすり足で階段を降り、あのまま放置しておいたリビングに足を運ぶ。
「・・・・・おいおい。」
彼女はまだいた。
しかも床にではなく、ソファーに座布団を2枚重ねてそれを枕にして眠っている。
これにはさすがの俺もさすがに晴天の霹靂だ。
「どーしたもんか。」
ま、とりあえず珈琲を沸かしトーストを焼き、ポストから新聞を取り、テーブルに腰掛ける。
彼女はまだ目を覚まさない。
トーストが焼け、バターを塗り、かぶりつく。
わざとバリバリッと大きな音をたてて食べてみたが彼女はまだ起きる気配がない。
新聞に目を移し大まかに記事に目を通す。
珈琲を飲み終え、トーストも食べ終え、一旦部屋に戻り征服に着替える。
「・・・・・」
彼女を真上から覗き込むを微かに鼾をかいて深い眠りに陥っている。
「やっぱ、美人だよなー」
写真でも撮っておこうか。
・・・うん、記念にそうしよう。
なんの記念かはわからないが、思い立ったら即行動、再度部屋に戻りデジタルカメラを携えてリビングへカムバック。
「はい、チーズ」
カシャ
と、わざとフラッシュをたいて取ってみたがやはり目をさまさない。
「も、いいや」
2回目の放置プレイ決行。
と、そのまえに心の優しい俺は彼女の分の珈琲を淹れ、トーストを焼きバターを塗っておいてやった。
「さて、いくか」
玄関をでて、念のため鍵をかけ、学校へ赴く。
Δ Δ
「ヘイヘイ須永君またあいましたな久方ぶりといっても昨日もあいましたね。それにしても2日連続で出会うなんてこれはもう運命としかいいようがありませんねー」
彼女・・・えー、うん彼女は少し顔を赤らめてテンション高らかに言う。
「運命・・まさにデスティニー、まさにフェイト、ところでこの2つの違いってわかりますか?わからない。あぁそうですか。まあ、そんな些細な違いはおいといてもうこれは運命ですねー。えっ?そんな非科学的なことは信じない。またまたーそんな現実的なことばっかり言ってー科学がなんですか、科学で解明できてないことはまだまだいっぱいありますよ。それにしても今日はいつもにまして目つきが悪いですね、まさか、如何わしい事を夜中まで・・・ってそんなことありませんよね。私は信じています。」
遠からず近い。
「本当に朝からハイテンションで意気衝天ですね。」
「まったく須永君は正反対で意気消沈ですねー、っていうか敬語?」
しまった、つい癖で。
「あーそういえば今日は英語の小テストがあったな。勉強した。」
「え?スルー?流された?シカト?無視?」
「再来週は期末考査か、もう受験生だし気合いれないとなー」
「え?スルー?流された?シカト?無視?」
「もう、大学決めたか?それとも就職?まあ、俺には関係ないけど」
「え?スルー?流された?シカト?無視?」
くっ、しつこい。
・・・・負けるか。
そんなやり取りを数度繰り返しているうちに学校につき二人は夫々の席へ。
席につき一息つく。
あー疲れた。意地になってしゃべりすぎた。
こんなにしゃべったのは・・・深夜ぶりだ。
なんだか、今日はいつもよりテンションが高いような気がする。
昨日、じゃない今日あんなことがあったからかな。
・・・・・視線を感じる。
・・・・・ふっ今日の俺は奥手じゃないぜ。
横を振り向き水口さんと目が合う。
「――――――っ!」
昨日と違う対応に驚愕の表情を水口さんは浮かべる。
・・にしても少し驚きすぎだと思う。ちょっとショック・・
が、水口さんのレアな表情が観られたのでよしとしよう。
「・・・おはよ。」
「うん、おはよう、水口さん。」
またまた水口さんは驚愕の表情を浮かべ、顔を紅潮されて視線を前へ移す。
なんとなく、できるだけさわやかに挨拶をしてみたらこうだ。
これは水口さんとの距離が縮まったんじゃないですか?
さて。
その後も差し当たり何事もなく時間は過ぎ。
下校時刻へ。
教室を出、廊下を歩き階段を降り、廊下を歩き、下駄箱へ行き、靴を履き替え、歩き校門をでる。
そして、歩く。
歩きながら、考える。
流石にもういないよなぁ。
そうおもうとなぜか寂しいような、なんというか、変な気持ちになる。
心の奥ではまだいて欲しいと思っている自分がいる。
まあ、こんな感情は、気休めで買った1枚の宝籤が当たればいいなぁ。と思うような感情ににているような。
Δ Δ
鍵を取り出し、ドアを開けようと思ったが開けっ放しできたことを思い出し、鍵をしまい、そのままドアノブの手を伸ばす。
ガチャ、ガチャガチャッ
「・・・・・・」
開かない。
再度鍵を取り出し、鍵穴に差込鍵を開ける。
玄関には見たことがないプーマの靴がある。
「・・・・・・」
まさか、とは思ったがもうほとんど確信していた。
確認はしていないけど。
そっと音を立てないようにリビングに行く。
リビングのドアに耳を傾けてみるが物音はしない。
思い切ってドアをあける。
誰もいなかった。
はっ、と思い出し彼女のために出しておいたトーストと珈琲を置いたテーブルを見る。
綺麗にたいらげてあった。
洗ってはいない。
「・・・・恩をあだで返すとは。」
トーストを置いてあった皿と珈琲カップを洗う。
洗い終わると階段を上り自分の部屋に向かう。
ふと、部屋の前で足を止めると微かに音が聞こえる。
テレビの音と思われる音をシャリッっと言う・・・
バンッ
ものすごい勢いでドアを開け放つ。
「―――っ!なんだいきなりビビるじゃねえか。」
彼女はそう言い終えるともう俺には興味がないといわんばかりにテレビに視線を移し、俺がとっておいたお菓子をばくばく食う。
「なにやってんですか。あなたは」
呆れたように、俺は問う。
「いやー、師匠がいなくなったからさーよく考えたら住む所がにあんだよね。それで心優しいきみなら泊めてくれるかな。と?」
「・・・普通逃げるでしょ。」
「それを言うなら普通あのあと警察に電話するぜ。」
シニカルに嗤い彼女は言う。
「・・・・」
お言葉がありません。
「まあ、これでも飲んでおちつこーや。」
ほれっっ彼女は何かを放り投げた。
「・・・・・」
俺はそれを受け取る。
・・・・
リンゴジュースだった。
「明日世界が滅びると思ってリンゴジュースを飲め。」
彼女はそんな意味不明なことを言ってこんどこそ俺に興味を失いテレビに目を移す。
「着替えたいんですけど。」
「見られて減るもんじゃないだろ。」
「じゃあ、代わりにみせてくださいね。」
「・・・・・」
彼女は無言で立ち上がり。無言でお菓子袋を掴み、無言で部屋をでる。
「エロガキ」
扉の向こうで彼女は言った。
「・・・・ふぅ」
・・・・・・
あー変なことになった。
どーゆー状況だこれは。
非常識にも、異常にも、荒唐無稽にもほどがあるぜ。
・・・空中楼閣。
さて、取り合えず着替えよう。
制服を無造作にベットの上に放り投げ箪笥からTシャツを取り出し着用。ズボンはジャージにかえる。
バタッ
ベットに仰向けに倒れる。
「ハッ」
あぁ、なんだこのいいがたい高揚感は・・。
自分でも自然に笑みが浮かび上がるのがわかる。今異常に笑いたい気分だ。
あぁ愉快だ。
床に置いたリンゴジュースが入ったペットボトルを取り、一気に飲み干す。
「明日世界が滅びると思って」
か。
あぁクレイジーだ? |