セミの大きな声が聞こえてきて、木陰ですやすやと眠っている一匹のミツバチの目がゆっくりと開いた。目を擦り欠伸をしている寝ぼけ眼のミツバチは、まだ眠たそうな顔をしている。
「うるさくて起きちゃったよ……。もうちょっとで姫を救えたのに!」
そう呟きながら周囲を見回した。するとミツバチの目に映ったのは、ジャングルジムや滑り台といった遊具。どうやらここは公園のようだ。
「……あれ? 何で僕はこんな所で寝ていたんだ」
腕組みをして昨日の行動を思い出すミツバチ。鉄棒で逆上がりの練習をしている男の子が頭を打って泣きだしてしまった時、顔面蒼白になったミツバチが声を張り上げる。
「思い出した! 昨日はこども達から必死で逃げていたんだ。ベンチの上でお昼寝をしていたら突然小石を投げてきたからびっくりしたよ。そーいえば蜂の巣を潰そうとか言ってたような気がする……」
鴉の鳴き声が聞こえ不吉な予感がしたが、気のせいだよねと苦笑いを浮かべ小さな羽をパタパタとはばたかせた。気分を紛らわす為に鼻歌を歌いながら、笑顔で飛び立った。
時々横を通る虫達は、皆目を赤くして悲しそうに俯いていた。ミツバチは気にせずにぶんぶんぶ〜んを歌う、
~♪
ぶんぶんぶ〜ん ミツバチが 飛んじゃう
お池の まわりに 釣り人 沢山
ぶんぶんぶ〜ん ミツバチが 飛んじゃう
ぶんぶんぶ〜ん ミツバチが 飛んじゃう
あさつゆ きらきら 釣り人 帰った
ぶんぶんぶ〜ん ミツバチが 飛んじゃう
楽しそうに歌う。
公園の遥か上空を飛行機が通過した時、ミツバチの我が家(蜂の巣)がある木造の売店の周囲には沢山の人々が集まっていた。ミツバチは離れた場所から伺おうと思い、自動販売機の上にちょこんと座った。
「何で人間がいっぱいなのかな? お家に帰りづらいよ」
一つ溜息をつき、おなか空いたから何か食べたいな……とニコニコしながら言う。無理矢理笑ってる感じがした。
そんなミツバチの耳に、人間達の声が聞こえた。
「こんな所にあったなんて恐いわね」
「刺された男の子痛い痛いって泣いてたよ。だから、駆除してくれて良かった」
「蜂の巣の中ってこうなってたんだ〜」
その言葉達にミツバチは目を丸くした。次いで背筋に寒気が走り手足が震えだした。サイレンの音が遠くから聞こえてきたが、何か事件でもあったのかな等とは思わない。
「ひょっとして皆が人間に――」
瞳をウルウルさせながら、沢山の人々の頭上を素早く飛ぶ。そして、ソレを見た瞬間一気に降下した。
「キャッ! 蜂よ!」
「ママ怖いよ。早くあっちに行こうよ」
「皆様落ち着いて下さい。こちらが何もしなければ蜂は何もしません!」
地に足が付き呆然としている一匹のミツバチの目には、真っ二つに割れた蜂の巣と地面に横たわっている仲間の様が映っている。
口をぽかんと開けて、座り込んでしまう。
「嘘だろ? 何でこんな事になったんだ? 皆死んだのか、人間に殺されたのか?」
ミツバチは頭を抱え大きな声で叫んだ。複雑な感情が入り混じったコレは、人間には聞こえない。しかしミツバチは叫び続ける。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」
風が向こうからひゅーっと吹き抜け、草木が揺れ葉がはらはらと地面へ。
その時、
「ここは危険だ、お前だけでも逃げろ……」
仲間の力ない声がミツバチを正気にさせた。
「お前も死ね!!」
バットがミツバチ目がけて勢い良く下りてくる。ミツバチはさっと避け、危機を回避した。
「早く……逃げろ。逃げ切れたら俺たちの分も精一杯生き――――」
グシャッっという嫌な音と供に、仲間は逝った。
「……生きるよ」
ミツバチは、涙を拭い全速力で生い茂る方へ向かう。人間達はチェッと舌打ちを立て、蜂の巣を踏み潰している――。
葉っぱの下でこまかに切れ目なくゆれ動き泣き崩れているミツバチ。その姿は見る者に哀れをさそう、そんな感じがした。
「ハァ……ハァ……」
荒い呼吸がこの空間に淋しく響く。大きく息を吸って深呼吸をし、少しずつやわらかな表情になった。
さっきまで快晴だった空が曇り空になり、静まり返った公園から笑い声が聞こえてきた。
「はは、独りぼっちになっちゃったよ」
――やがて何も聞こえなくなった。 |