滅龍傭兵部隊戦記 そして幻へ……(3/3)縦書き表示RDF


滅龍傭兵部隊戦記 そして幻へ……
作:Ryo



epilogue 出発(たびだち)


ブレイヴの街に冷たい風が吹いていた。行き交う人たちは寒そうに背中を丸め悴んだ手を擦り合わせる。街には珍しく雪が降り積もる夜だった。酒場から漏れてくる明かりが温かさを運んでくる。うっすらと石畳に積もった雪を見つめニーナは露になった細く長い足を擦り溜め息を吐いた。

「まったく、この装備だけは寒さがこたえるよ……」

吐き出す息の白さにニーナは苦笑いを浮かべる。背中に背負ったヴォルキャノンを担ぎなおして足早にゲストハウスに向かった。
ゲストハウスの入り口をくぐるとニーナはホッと息を吐く。暖房の効いたゲストハウスはその温かさだけでニーナの気持ちを癒してくれた。

「帰ったよ、オーナー!」

質素な造りのフロント兼御用聞きカウンターを覗き込む。眼鏡をかけた初老の男がニーナを見て愛想のいい笑顔を見せた。

「おや、おかえりニーナ!今回の狩りはずいぶん手間取ったじゃないか?」

眼鏡の下から好奇心に満ちた目でニーナを見つめ、狩りの成果を漏れ聞こうとする。そうやって狩りの話を聞くのがこのゲストハウスオーナーの唯一の楽しみなのである。

「ああ……ガンナーが欲しいって依頼だったから報酬にプラス500ゼニーで引き受けたんだけどね……ガノトトスはあのパーティには少し重荷だったみたいだね!」

笑顔で言うニーナにオーナーは、うんうんとうなずいて見せた。

「でも、ちゃんと狩ってきたよ……残影はいつだって受けた依頼は……」

「白紙にはしない……じゃろ!!」

眼鏡の奥の目をいたずらっぽく瞬かせてオーナーは笑った。ニーナもうつむきながら喉の奥で低く笑う。

「ふふふっ、そういう事さ……じゃあ部屋に戻るよ」

「ああ、そうじゃニーナ!おまえさんに手紙が来ちょるよ」

「手紙?」

「うむ、部屋清掃の時に机の上に置いておいたよ……じゃあ、おつかれさん」

オーナーが見た目にも豪華な飾りのついた鍵を差し出した。ゲストルームでも最上級の部屋の鍵だ。ニーナは笑顔で鍵を受け取り、軽い足取りで部屋への階段を上っていった。

部屋に戻るとニーナはヴォルキャノンを大事そうに武器庫に立てかけた。銃身についた汚れは、後でゆっくりと落としてやる。まずは熱いシャワーだとばかりに身につけた黒と紫を基調にした忍びの装束を脱ぎ捨てた。
ニーナは下着と武装ダブレット一枚の姿になると、思い出したように書籍机の上に置かれた手紙に目をやる。少し小首を傾げながら手紙を手に取った。

「誰だろうね?」

言って手紙を裏返し差出人の名を見つめる。その顔が嬉しそうに輝いた。

「ジン!?」

少し声を大きくして差出人の名を呼んだ。その目が懐かしそうで少し寂しげに細められた。

「あれから、もう二年になるんだね」

ニーナは最後に見つめたジンの悲しそうな目の光を思い出しながら手紙の封を破いた。


ニーナさん、元気にやってるかい?
おれのほうは、まぁなんとか生きてるよ……。
あまり長ったらしい文面を書くのも苦手だから
伝えておきたい事だけ書いておくよ。
ニーナさん、実はおれ傭兵をやろうと思ってるんだ。
まだ仲間はひとりもいない、おれひとりだけなんだけどさ。
これから少しずつ増やしていくよ。
あんたたちみたいな傭兵の集まりにしたいんだ。
名前は、滅龍傭兵部隊………


「ま・ぼ・ろ・し……幻か!!」

ニーナはベットの上に身体を横たえながら読み終えた手紙を握り締めて胸に抱いた。
そしていつもは絶対に見せないような優しい、女らしい表情で瞳を閉じる。
ニーナは瞳を閉じたまま一人の男の笑顔を思い出していた。決して忘れることのない人をくったようなおどけた笑顔を。

「あんたは見つけたんだね、ジン……本当の強さを!!」

口元で一人囁くと誰にも見せたことのない幸せそうな笑顔で瞳を閉じた。

・・・・・・・・・・・・・・・

ジンは街門に立っていた。シンシアの街……久しぶりに見る懐かしい街の風景は2年前のあの頃と何の変わりもなく賑やかで活気に溢れた姿を見せていた。ジンは傍を通り抜けようとするハンターらしい男に視線を向けた。男はジンに見つめられ不思議そうに目を細めてジンの顔を見る。首を傾げながら何事もなかったというようにジンを無視して去っていった。
ジンは口元を歪めて苦笑いを漏らす。初めてこのシンシアを訪れた時の小さな出来事を思い出し懐かしさがこみ上げてきた。行き交う人の波、露天商の威勢のいい客寄せの声、店先で火を起こし肉を焼く香ばしい匂い、そんな街のすべてがあの頃のままジンを優しく出迎えてくれていた。

「帰ってきたんだな!おれはこの街に」

ジンは街門に佇んだまま、その場の空気を一杯に吸い込みふぅっと勢いよく吐き出した。そして笑顔を浮かべたまま歩き出した。
街の空気を楽しむようにゆっくりと歩を進める。ジンは見るものすべてに胸が高鳴るのを感じていた。まるで初めて街を訪れた時の感覚が甦ってきたようではしゃいだ気分になる。これじゃあまるでガキみたいじゃねぇか!そう胸の奥でつぶやくと照れたような笑みを浮かべる。今のジンには見るものすべてが新鮮で輝きに満ちていた。
数え切れない程通い詰め、毎日の暮らしの一部のようになっていた酒場が見えてきた。大きなジョッキをモチーフにした酒場の看板の下に、小さなギルド直営を示す看板がこじんまりとかかっている。ジンは懐かしそうに目を細めてその看板を見上げた。

酒場は珍しく閑散としていた。隅の方のテーブルに中年のハンターが一人酒を飲んでいる。狩りのやり方について口角泡を飛ばしながら話し合う男女のハンター、その横で面白そうに話しを盗み聞いている初老のハンターがいる。その他は若そうなハンターが二人店の中をうろうろと歩き回っているだけだった。

ジンは目的の人間をすぐに見つけることが出来た。口元に笑いを貼り付けたままゆっくりとカウンターに歩いていく。

そのカウンターの中で頬杖をついて眠そうな顔で依頼書に目を通していたメイド姿の女が誰かが歩いてくる気配を感じたように視線を静かに向ける。透き通るような茶色の綺麗な瞳がジンの姿を捉え不思議そうに瞬く、次の瞬間、その瞳がみるみると大きく見開かれた。

「……ジン!?」

ジンの姿を見つめたままカウンターの女が確かめるように声をかけた。その声が微かに震える。

「ああ、久しぶりだな!ベッキー」

ジンは照れ笑いを浮かべ懐かしそうにベッキーを見つめていた。ベッキーは凄い勢いでカウンターの中から飛び出してきてジンの両腕を捕まえた。まるで離せば逃げていくという具合に力を込めて。その力が鎧を通して痛いほどジンに伝わってきた。

「おいおいベッキー、少し力を抜いてくれよ!痛くてしょうがねえよ!」

言って笑顔を見せる。ベッキーはそんなジンの顔を仰ぎ見て、そして溜まりかねたようにジンの胸に身体を預けてきた。

「どうしてたの今まで?何も言わないで街から消えたりして」

囁くような小さな声で問いかける。ジンは困ったように笑いながら優しくベッキーの肩を抱いた。

「なんとか生き延びてたさ」

ベッキーはジンの胸から顔を離すと怒ったような顔でジンを見上げた。

「ジン、あんたって本当に……バカなんだから」

「でも、よかったまた会えて……」

つぶやく声がいきなり掠れてジンの腰に回した腕が震えていた。

「帰ってきてくれてよかった……おかえり、ジン」

ベッキーは瞬きもせずにジンの顔を見つめ続けた。ジンはベッキーの頬を伝い落ちる透明な涙を見つめながら微かに微笑んだ。

「すまなかったなベッキー、もう消えたりしないよ……おれはこの街で生きていく」

「……あの人の眠ってる、このシンシアの街で」

ジンの優しい笑顔に今はもういない一人の男の笑顔が重なるように見えてベッキーは不思議な温かさを感じた。せつなさが胸いっぱいに溢れてきて止まらない涙に戸惑いを見せる。ベッキーは何度も何度もうなずきながらジンを見つめ続けた。

そんなベッキーの肩をそっと抱いたままジンはゆっくりと酒場の中を見回した。懐かしい酒とタバコの染み付いた匂い。そしてジンの視線の先にいてこの光景を興味ありげに見つめている一人の若いハンターと目が合った。若いハンターはジンと目が合うと慌てて視線を逸らし少し苛立たしげにベッキーに声をかけた。

「ねぇ、受け付けのおねえさん、いちゃつくのもいいけどさぁ、おれの依頼はどうなってんの?」

若いハンターは大声をあげて言った。

「ちゃんと仕事してくれよなぁ〜!」

その声にハッと我に返ったようにジンの胸から飛び退いたベッキーは、顔を赤く染めながらそのハンターを見て手の甲で涙を拭う。

「はいはい、ごめんなさい!!すぐに貼り出すから待っててね」

言うとベッキーはジンを見つめ小声で(後でね)と囁き笑顔を見せてカウンターに戻っていった。ジンは近くのテーブルに腰掛けながら、その少年に目を向けた。少年も生意気そうな目でジンを見つめ返す。その視線が珍しいものでも見るようにジンのつけた装備に注がれた。真っ青な髪の色が印象的な少年だった。その顔には子供のようなあどけなさが残る。ギラリと光る黒い瞳が怖いもの知らずに瞬き、生意気さとあどけなさがはち切れそうな若者だった。

「へぇ、あんた変わった装備つけてるね!レウス?いや、レウスじゃねぇな?ねぇそれなんていうの?」

少年の目がジンの身につけた装備に釘付けになる。白銀に輝く氷のような冷たさを感じさせる鎧に。

「シルバーソル……銀色の火竜の鎧だ!」

何の屈託もなく問うてくる少年の素直さにジンが笑顔を見せた。

「へぇ〜、かっこいいなぁ!」

少年は言うと好奇心に満ち溢れた視線をジンの傍らに立てかけてある大剣に向けた。

「ねぇ……その大剣?」

目を丸くして驚いたような視線を大剣に向けている少年を見て、ジンはゆっくりと大剣を引き寄せた。

「これか……これは、ドラゴンキラー!龍殺しの大剣さ」

ジンはドラゴンキラーの柄にそっと手をかけながらつぶやいた。少年の顔が驚きと憧憬に輝く。

「す、すげぇ〜そんなの見た事ねぇよ、おれ」

少年は声を高めて言うと改めてジンの顔に視線を注ぐ。

「あんた、凄いハンターなんだね!!」

ジンは驚きをいっぱいに表したような顔の少年に笑いかけると少年の肩越しに一人の少女を見つめた。その少女は軽装のダブレット以外なんの装備も身につけずに不安そうな表情を浮かべたまま食い入るようにクエストボードを見つめていた。まだ十代らしいその顔つきには不安とあどけなさが入り混じっていた。薄い桃色の髪は斜め両サイドで結わえられ、その少女の可憐な可愛らしさを際立たせていた。子供っぽい表情がそのままその少女の魅力になっていた。ただそのハンターらしからぬ不安げな表情が腰に挿したハンターナイフをやけに目立たせていた。

「さっそくだが、ベッキー!依頼を受けたい!」

ジンの言葉にベッキーはあの頃と変わらない あらっ という笑顔を見せる。

「いいよ!なにがご希望?」

「リオレウス討伐だ」

片目を閉じて見せながらジンは笑った。ベッキーがカウンターの中で笑みを返す。

「パーティは三人……」

ジンは青い髪の少年を見つめながら言った。

「どうだ?……いっしょにくるか?」

少年は胸に抱いた長槍バベルを震わせながら緊張した視線をジンに向けた。

「おれもいいのかい?連れて行ってくれるんなら、おれ……レウスと闘いたい!!」

声は震えていたが、言葉には強さがこもっていた。

「ああ、いいぜ!おれと組もう!」

その言葉に少年は顔一杯で嬉しさを表す。

「おれ、レイっていうんだ!!よろしくたのみます!」

喜び一杯で大声を出すレイの隣にいつの間にかクエストボードを見つめていた少女が並んで立っていた。ジンはゆっくりと視線を少女に向けた。少女の小さな手がそっとハンターナイフに触れていた。その触れた手が微かに震えている。

「おまえ、名前は?」

ジンは少女を見つめ優しく声をかけた。

「……キララ」

小さな声は震えていたが、その瞳には強い意志が芽生えていた。

「おまえもついてくるか?」

ジンの言葉に少女は強くうなずく。

「おまえ、そんな装備でレウスとやるってのかよ?死ぬぜ絶対に!」

レイが呆れたような声で言った。キララは生意気そうに顔をしかめるレイを横目で睨みながら小さな遠慮がちな声でつぶやく。

「何よ、自分だって貧弱なカッコしてるクセに……まぁ、武器はそれなりにいい物みたいだけど」

自分の腰に挿したハンター入門用のハンターナイフをチラリと見てキララは言った。言われたレイは自分の身につけたハンターシリーズ装備に目をやりふてくされたように怒鳴る。

「うるせぇ、おれは武器に金かけすぎて防具に金が回らないだけさ!!おまえなんて裸みたいな軽装じゃないか!そんなんでレウスと闘えるのかよ?」

レイの勝ち誇ったような言葉にキララは可愛い顔をムスッと膨らませて言い返す。

「キララには、ちゃんとした作戦があるんだよ!!あんたとは違ってね!」

キララは自分のことを名前で呼ぶらしい。その口ぶりもまた少女の魅力になっていた。

「へぇぇっ、どんな作戦なんだよ?」

レイが興味津々に聞いた。キララの自信満々な口ぶりにはレイ以外にもこの酒場に居合わせたハンターみんなが興味を持ったように、みんなの視線がキララに集中した。
そんな興味を一身に集めたキララは少しオドオドとしながら小さな声で

「キララの作戦はつまり……その……闘わない事よ」

「はぁ?」

ぼそぼそとつぶやく声にレイが大げさに耳を傾けながら聞き返した。

「だから!!キララは闘わないの!!見てるだけ!」

「な、なんだとぅ〜〜!?」

酒場にレイの呆れ果てた様な声が響いた。そしてその場にいたすべてのハンターたちも口をポカンと開けたまま呆然とキララを見つめていた。狩りのやり方について口角泡を飛ばして言い合っていた男女などは、キララを見つめたまま意識が飛んでしまったような顔をしていた。カウンターの中でベッキーが困ったなという表情で苦笑いを浮かべている。その呆れ果てた空気が埋め尽くす中ただ一人ジンだけがキララを見つめ腹を抱えて笑いこけていた。

「おまえ、キララって言ったよなぁ!おまえ面白いヤツだなぁ!!よし、いいぜ!レウス連れて行ってやる」

不安げな顔でジンを見つめていたキララの顔にパッと明るい笑顔が浮かんだ。

「くくっ、これだけの百戦錬磨のハンターたちの度肝を抜いたんだ……おまえ、もしかして、いいハンターになるかもしれないぜ!」

ジンはカウンターのベッキーに視線を向けて微笑む。ベッキーは頬杖をついてそんなジンとキララを見つめ優しく微笑んでいた。そしてキララはジンの言葉に照れたように可愛い笑顔を向けた。

「レウスは連れて行ってやるよ、ただし一つだけ条件がある!!」

ジンの顔にいきなり真剣な表情が浮かんだ。キララも慌てて笑顔を引っ込めると真剣な顔でジンを見つめる。

「レウスとは闘わなくていい!ただし、レウスの動きからは目を離すな!どんな小さな動きでも見逃さずにその目で見て覚え込め……それが今日のおまえの仕事だ!いいなキララ」

「うん、わかった!!キララ、レウスの動きを見て覚えるよ!それで今日お小遣い使って作った回復の笛を吹くね!それ以外はずっとレウスを見てる!!」

「ああ、頼んだぜ!キララ」

ジンは言うとその目に優しい光が差した。キララは真剣な表情のまま強くうなずく。そのやりとりをまじかで見ていたレイも仕方ないなぁという顔つきで長槍バベルを抱いたまま二人の顔を交互に見つめた。

「よし、じゃあ行くか!!」

言うとジンは立ち上がりカウンターの中のベッキーに視線を向ける。ベッキーは頬杖をついたままジンに優しい瞳を向けていた。

「レウスを狩りに!」

ベッキーは背を向けたジンに優しい瞳を向けたまま胸の中でつぶやいた。

(リュウ、見てる?ジンは見つけたみたいよ、あなたが伝えようとした想いを……)

(本当の強さっていうのがどんなものなのか、誰にもわからないけど……少なくともあなたの想ってた強さはジンには伝わってる)

(本当によく似てるわ……あなたたちは)

銀色に輝くジンの鎧を見つめながらベッキーは確信していた。この街にリュウの想いが残された事を……失うものばかりじゃないっていう事を。

ジンはドラゴンキラーを肩にかけ酒場の扉を開いた。そして指にはめた黒曜石の埋め込まれた銀の指輪にそっと口づける。

(生命あるものには、いつしか終わりがくる……故にこの一瞬を、悔いなき一瞬を)

閉じた目を開けるとレイが不思議そうな顔をしてジンの顔を覗き込んでいた。

「ねぇ、なにをブツブツ言ってたのさ?」

「ふふっ、おまじないさ!ただのな」

言うとジンは空を見上げた。眩しそうに目を細めた顔が少年のように輝く。

「リュウさん……」

微かな、ほんの微かな声でジンはつぶやいた。

「おれの出発はこんなもんでいいだろう?
 あんたが教えてくれた仲間の大切さ、生命の重さ
 これからどこまでやれるかわからないけど、生きてる限りやってみるよ
 おれの……おれの滅龍はこれからさ……」

空はどこまでも青く澄み渡っていた 空はどこまでも広く続いていた。



                      滅龍傭兵部隊戦記 そして幻へ………end

















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