七英雄物語(6/33)PDFで表示縦書き表示RDF


七英雄物語
作:七英雄



第1部 第1章 白髪の男 その4


 夜も深く、ゲルニア国に、毎日訪れる静かな時間。
 だが、ここは、ここだけは、違った。グロン村。突如現われた人の姿ではない悪魔の生物に村は混乱した。
 獣と呼ぶべきか、怪物と呼ぶべき生物。
 幼い頃に受け継がれる、太陽神と絶望神との戦い。まさにその怪物は、絶望神によって生まれた未知なる怪物と同じであった。
 止まない悲鳴。止まない雄叫び。妻は子を守り、夫は妻を守る。女は家族を守り、男は村を守る。
 人間と怪物の戦いが始まった。
 その危機が、ボズのいる空き家にも迫ってきた。

 
 白髪の青年はボズの恐怖に満ちた顔を見て、瞬時に只事ではないことを感じ取った。
 起き上がるとまだ回復しきってないのだろう。かすかに苦痛の表情を見せるが、真顔に戻る。
 素早く神経を集中させた。雄叫びと悲鳴、肉を切り裂く音、逃げ惑う足音、剣で風を切る音。青年はボズの方を向いた。
「君、名前は」
「えっ、あ、ボ、ボズ、です」
「ボズ、君はここから絶対出るな。いいな。そこの下にでも隠れているんだ」
 青年は寝台を指差した。
「えっ」
 青年は部屋から出て行こうとした。一人にされるという不安でたちまちボズの顔色が変わった。
「あっ、でも、1人は…」
 ボズの胸中を察した青年は、ニコリと笑顔を見せた。安心させる、今まで見たことのない笑顔だった。
「大丈夫、この部屋には、誰も、何も入れさせないよ」
 ボズの頭を少し撫でて、青年はドアを開けた。
「あ、あのっ、気をつけて。お、お兄ちゃん」
 青年はドア閉めながら、先程の笑顔を見せて。
「ハッシュ。俺の名前はハッシュ」
 扉はゆっくりと閉まっていった。


 バズは襲ってくる異形の怪物達を、慣れない剣でかろうじてなぎ倒していた。
「なんなんだ!こいつらは」
 絶叫しながら、振りかかる牙を、鋭い爪を、寸前のところでかわす。辺りは無残な仲間達の死体。生きながらに切り裂かれ、痛みと絶望と死への恐怖を抱いたまま息絶える。
 目の前で女の子が今にも襲われそうだ。隣の家の娘であるアリシェだった。
 バズは走りこんでいって剣を怪物の身体に突き刺した。断末魔を上げると怪物は倒れた。
「アリシェ、大丈夫か。お母さんはどうした」
 ガタガタと震えて言葉が出ないアリシェの表情から、親は怪物の餌食になったと悟った。
「息子は、ボズはまだあの空き家か」
 バズの声に、アリシェは頷いたり、頭を振ったりした。駄目だ、アリシェは精神的に壊れてしまっている。
 バズはアリシェを抱えて近くの家の傍に置いてあった樽の中に入れた。アリシェは逆らうことなく入った。その目はもう呆けている。
「いいか、静かにこの中にいるんだぞ、必ず迎えにいくから」
 蓋をして、バズは息子のいる空き家へと走り出した。
「ボズ、待っていろよ」
 そう決意したと同時に、横から突如女が現われた。
 瞬間。景色がひっくり返った。暗い空が見え、血で汚れた地面が見えた。そのまま、地面に叩きつけられる。
 バズには何が起こったのかわからなかった。目の前には、首のない自分の身体がある。
 薄い布で身を包んでいる女は、笑いながら見下ろしていた。痛みはない。意識が薄れる。
 バズは最期に考える。息子のこと。
「ボズ…」
 視界が真っ暗に包まれた。

 
「声が聞こえないですか?将軍」
 村がもう少しで見えてくる時だった。兵の一人である、エグリアースが不安顔で話しかけてきた。
 同様に、他の兵達も、異様な、邪悪な、吐き気がするような空気を少ながらず感じ取っていた。軍を離れていたメルクですらも。
「声というか…。悲鳴というか…」
「…悲鳴だ」
 確信の持てない部下に、ファミリストンは言った。兵達の視線が集る。 
「急ぐぞ」
 全員の馬が全速力で駆け出した。


 村が有り得ない光景となっていた。地獄のような凄惨な世界。細切れに散らばっている人の身体の一部。もはやそれは肉の塊。所々に倒れている死体。何があったのか理解し難い。
「うっ…うっ…うわあああ」
 叫びだしたメルクを兵が慌てて止めた。
「メルクさん、落ち着いてください。」
「俺の家族が!娘がぁ!」
 暴れだしたメルクを押さえることができなくなっていった。
「落ち着けメルク!」
 一喝。ファミリストンの声に、メルクは動きを止める。
「ここは私達に任せろ。メルク、お前は引き返し、ティファレン城へ行け」
「そんなっ!将軍!できるわけありません!俺には家族が…」
「今の冷静さを失っているお前では無理だ。お前の家族は私が間違いなく助ける。だから心配するな。それよりもこの事態を早く城に報告するのだ。いいな」
 何も言わず、メルクは頷いた。その姿が、家族が生きているという希望など、既に消え去っているように見えた。
馬を村とは逆へ向けて走り出そうとするメルクにファミリストンは最後に聞いた。
「娘の名はなんという」
「…アリシェです」
「わかった。必ず助ける」
 メルクは一礼し、走り出した。
 メルクが遠くなったのを確認して、ファミリストンは5人の部下の方へ向き直った。
 城の方はスライがなんとかしてくれるだろう。グロン村以外の2つの村も気になる。そう考えたファミリストンは決断した。
「ダストン、カムクは他の村に様子を見に行け。残ったエグリアースとウィスケル、イクパルは私と一緒にグロン村内へ入る。最優先は村人の救出だ。いいな」
「はっ」
 5人は同時に返事をし、一斉に動き出した。
 2人は各村へ。
 ファミリストン率いる部隊は悲鳴が飛び交う地獄の中へ突入していった。


つづく。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう