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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第1章 白髪の男 その2


ゲルニア国、ティファレン城。
 島の中心に堂々と建っているこの城は、他国と比べると決して大きい城ではない。戦争に無頓着というわけではないが、その争いに巻き込まれることがないのだ。
 従って、大きな城を建築し、戦争に備えるということはない。備えるべきはこの寒さだけである。
 城内の王の間へと続く廊下。スライ将軍は、そんな国の考え方に疑問を感じていた。戦争に備えることがないということは、兵も、将軍という地位の自分自身も必要ないということだ。万が一というだけで存在している軍などなくてもよいのではと思っている。
 同僚のファミリストン将軍には、この気持ちを打ち明けているが、ファミリストンは「何事もないことが一番良いではないか」と笑って済ます。
 スライも心の奥底ではわかろうとしているのだが、やはり存在価値のことを考えると今の現状に対して不満があるのは事実だ。いっそのこと国をもう少し本島の近くにでも移動出来るのであれば、もっと刺激のある毎日を遅れたのかもしれない。
 スライは自分の物騒な考えに対して頭を振り、王の間へと足を進めた。


 ゲルニア国は、セラミス王と宰相のハミルを中心として動いており、その国を守るべき将軍が2人いる。
 スライ将軍とファミリストン将軍である。
 親も元将軍であり、2人の将来への道は既に決まっていた。王のために、国のために、子供の頃から英才教育をしてきた2人はよき友であり、よきライバルであった。
 自分の感情を抑えすぎているせいか、苛立ち部下にも叱咤してしまうスライに対して、ファミリストンはどんなことがあっても、極めて冷静に対処をする。
 合わないという周りの意見に反して思いのほか2人は仲が良かった。


「将軍、グロン村からの伝令です」
 兵士の一人が城下町の警備にあたっていたファミリストンのところへ伝えにきた。
「伝令…?」
 ゲルニア国は、ティファレン城、その城下町、そして、グロン村を入れて、3つの村で成り立っている。平和過ぎるため、よほどのことがない限り伝令などがくることはない。
 ファミリストンの記憶にも残っていないくらい遠い昔である。いや、今まで一度もなかったのではないだろうか。
「誰がきた」
「はっ、メルクです」
 それを聞いて、只事ではないと思った。
 メルクは、元部下だった男で、当時の兵の中では非常に優秀だった。たった一人の家族である母親が病で倒れたせいで、看病せざるを得ず、軍を離脱することになった。現在は結婚し、幸せな家庭を築いている。
 体力は落ちているとはいえ、昔は1・2を争う兵であった。そのメルクが伝令にきている。早急に伝えないといけない重要事項なのだ。
「わかった。通せ」
 ファミリストンは久しぶりに部下の顔を見た。以前よりは顔に肉が付いている。部下の幸せな暮らしを想像した。
「お久しぶりです。将軍」
「ああ、久しぶりだ、元気か」
「はっ」
「おい、そう重々しくなるな」
 メルクは少し笑顔を見せたが、すぐに真顔に戻り、グロン村で起こった出来事を話始めた。


 グロン村からの伝令を聞いたファミリストン将軍は王の間の扉を叩いた。
 王の間といっても、セラミス王の寝室である。今はここが王の間となっている。
「入るがよい」
 威厳のある重い声が聞こえた。
「はっ」
 ファミリストンは扉をゆっくりと開けた。窓から入る太陽の光に照らされて、国王は寝台で横になっていた。
 セラミス王。たった1代でゲルニア国をまとめあげた男。今は高齢のため、動くことはままならないが、当時は民のことを優先し、率先して行動を起こす英雄だった。
「いきなりなんだ、ファミリストン。国王はお疲れなのだぞ」
 隣にいた宰相のハミルが声を荒げた。ファミリストンは深々と膝をつき、頭を下げた。傍には何事かとスライ将軍もいた。
「失礼は承知の上でございます。緊急の用件ゆえ、何卒お許し下さい」
 まだ何か言いたそうなハミルをセラミス王は制した。
「…よい。申してみよ、ファミリストン」
「は。先程グロン村から伝令がきまして。どうやら、異国の者が流れ着いたと」
「なんと」すぐ反応したのはハミルだった。「早く捕まえるのだ」
「いえ、その者が何者なのかもわかりません。まずは様子を見ようかと」
「何を悠長なことを。油断させるのが目的かもしれんじゃないか」
 セラミス王が国を立ち上げた時から、辛い時もずっと隣で手助けをしてきたハミル宰相からすれば、若いファミリストンのようなその当時のことを知りもしない者に意見など言われたくないのだろう。自分の言葉は王の言葉。それに反論されるのが気に入らないのだ。
「仮に暴れても取り押さえるように警備をしっかりします」
「そんな根拠はあるのか」
 ハミルの目の敵したような言葉に、ファミリストンは揺るぎない視線で答えた。
「あります。私自ら村へ行きますので」
「…っ」
 将軍自ら進言されるとハミルにはもう言葉はなかった。全責任は自分が負うと言っているようなものだ。初めからそのつもりだったのか、ハミルへの対抗からなのかはわからないが、ファミリストンの瞳には少し怒りに似た輝きが見えた。
「わかった。くれぐれも気をつけるのだぞ、ファミリストン」
「はっ」
 セラミス王の言葉を聞き、若き将軍は王の間を出て行った。
 スライは言葉を呑んだ。刺激を欲しているもう一人の若き将軍の思いは、真っ先にその村へ駆けつけたい気持ちでいっぱいだったのだ。だが、ここはファミリストンの顔を立てた。
 ファミリストンの後ろ姿を悔しそうにハミル宰相は目で追った。


つづく。












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