第1部 遥か遠き孤島の叫び エピローグ 黒衣の者
アーガス国。
活気に溢れる市場では笑い声や怒鳴り声が飛び交っている。
人々の間に挟まれながら、目的である酒を買い、家路につこうとしている老人がいた。
ようやく喧騒から逃れ、薄暗い路地で一息ついたところだった。
その老人、元は剣の達人、元はアーガス国伝説の剣士、クラシェイカ。
伝説と呼ばれながらも、その話は若かりし頃の話であって、実際のクラシェイカの姿などは僅かな人間しか知らない。
市場のような何百人もの人がいる中で、元英雄的剣士を見つけることなどは不可能に近い。
クラシェイカ本人もいちいち騒がれるのは苦手だったため、今の状態は悪いとは思っていない。
持病になってしまった腰をさすりながら、クラシェイカは家に着いた。
扉に手をかけようとしたが、止まる。
家の中に気配を感じたからだ。この気配は弟子のハッシュではない。初めて感じる気配。不思議な気配。善でもなく悪でもない読み取れない気配だった。
警戒しながら扉を開けると、頭まで黒い衣を纏った人間がいた。殺気は感じられない。
「何者じゃ」
クラシェイカの問いかけに、黒衣の者は身体を震わせて、頭のかぶりをとった。
そこには見惚れるほどの美しさを醸し出して、更には整った顔立ちの少年だった。
黒衣の少年は深々と頭を下げた。
「勝手に入ってしまって…すみません」
その少し高い声がますます美しい容姿と重なった。
クラシェイカはどこにも行かず、自分の家に来たこの黒衣の少年に対して、真っ先に感じた。
「名はなんという」
クラシェイカの質問に少年は頷いて。
「…ルシアと言います」
少年、ルシアの瞳をクラシェイカはじっと見つめた。思いはやがて確信と変わり、静かに呟いた。
「…太陽神」
〜第1部 遥か遠き孤島の叫び 終 第2部へ続く。〜
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