第1部 第5章 その国、静かに滅びる その5
「終わったな」
ハッシュがファミリストンに話しかけた。
「…」
沈黙。ファミリストンは喋らない。
仕方ないとはいえ、長年仕えてきた自分の主を手にかけた。精神的ショックは隠せないだろう。
ハッシュはそれでもあえてファミリストンに言わないといけない。
「一緒にアーガス国へきてくれないか」
絶望神が世に蘇る。世界を守るための戦士が必要だ。師クラシェイカにその命を受けたハッシュはファミリストンをその戦士の1人と判断したのだ。
まずは、師クラシェイカの元へ連れて戻らねばならない。
「行きましょう、将軍」
オキュラスが言った。
「ここにいても、もう意味がないです。世界を見に、そして救うために行きましょう」
「…なんだ、お前も付いてくる気なのか?」
ファミリストンがふっと笑った。
「え?駄目なんですか?」
「いや…いい。行こう。アーガス国へ」
ファミリストンはハッシュに向き直る。
「ハッシュ、世話になる。俺とエグリアース、オキュラス。そして…」
「僕達もだよ!」
遠くから子供の声。
ステューを抱えていたボズだった。後ろから怯えたようにアリシェが現われた。
「…子供達も頼む」
それに待ったをかけたのはオキュラスだった。不満はボスやアリシェにではなく、パール族のステューにだった。
「だけどですね、将軍。こいつらは俺達の仲間を…」
「わかってる」
「だったらなんで…!」
憤慨するオキュラスをエグリアースが止めた。
「あいつも1人だ。あそこにいる兄と姉はもう死んでいるからな。気に入らないのはわかる。だがこの場で見捨てることもできない。そうだろう?」
「くっ…」
オキュラスは悔しそうに唇を噛み締めた。
「わかりました。でも、仲間じゃない!あくまでも捕虜ですからねっ!」
そういってオキュラスは皆から少し離れた。頭を冷やすつもりなのだ。
それから、ハッシュ達はセラミス、ハミル、ダヴァニータ、ドゥージの墓を立てた。
町まで下りていき、亡き兵と町人、各村に残された亡骸を手厚く葬った。
ボズやアリシェには任すことはできないため、残った4人で動いた。2日間かかることになった。
その間、ステューが目を覚ましたが、ドゥージとダヴァニータの死を聞くと貝のように口を閉ざした。まるでアリシェがもう1人増えたようだった。
一通りの準備ができると、今度は国の持ち物であった船で、本島へと出発するこように計画した。
ゲルニア国を離れる。故郷を離れる。ファミリストン、エグリアース、オキュラス、ボズ、アリシェの心情は如何なるものであろうか。
あと何ヶ月か経てば世界ガルド会議が開催される。その準備などの連絡がとれないことを各国が不審に思い、そこでゲルニア国の滅亡が露見するであろう。この出来事は明らかに大問題へと発展する。
ガルド歴910年。
ゲルニア国。滅亡。
運命は回る。
蘇りし、絶望神。蘇りし、太陽神。
絶望神滅ぼす英雄達。太陽神守る英雄達。
英雄揃う時。歯車が噛み合う時。
希望を絶望に。絶望を希望に。
近し未来に起こりうる聖戦を前に。
世界はただ静かに眠る。
一時の安らぎに酔いしれて。
〜第5章 その国、静かに滅びる 終
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