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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第5章 その国、静かに滅びる その4


「…なにを叫んでいるんだ。あいつは」
 ようやく、頂上へ辿り着きそうな距離まで歩いてこれたファミリストンは、響いてきたハッシュの大きな声に独り言をいった。
 エグリアースやオキュラスは無事だろうか。パール族は。セラミス王は。心配事が束になって駆け巡る。
 とにかく頂上までへと、ファミリストンは脚を進めた。


「伝説の剣士クラシェイカか。そうかお前はその弟子か」
 セラミスが意外そうに言った。
 弟子をとらないことで昔から有名だったクラシェイカが今になってようやく弟子をとる。そのことがどういうことか。ハッシュの潜在能力がどれだけの力を秘めているのか容易に理解できる。
 かつて剣のアーガス国にクラシェイカありとまで言われた剣士。国の窮地を何度も救った英雄。その伝説のクラシェイカに認められるのは偉大なことなのだ。
 一筋縄ではいかない。セラミスは思う。いとも簡単に自分が倒されるかもしれない。不安までが脳裏を過ぎる。それくらいクラシェイカの名前はバロゲニアガルドの世界に轟いている。
 ハッシュの力を改める必要はない。あの絶望獣ハミルが一刀両断されたことが揺るぎない事実。実力は本物だ。
 ハッシュはセラミスに向かって歩き出した。
 セラミスは身構える。最も自信のある攻撃を、最大の攻撃を繰り出そうとしている。小細工の様子見などは必要ない。一撃で倒せる攻撃で挑まないと倒すことができない。セラミスは腕に力を込める。更に魔法を腕にかよわせる。これで威力は倍になった。
 ハッシュの足は止まらず、間合いがどんどん縮まっていった。迷いのない足。大剣を片手に向かってくる。
 セラミスの緊張は高まる。外れたら、それは死を意味する。失敗は許されない。
 あと少し。あともう少しで攻撃可能な位置だ。
 唯一、セラミスが勝っていた部分。絶望獣となったセラミスの腕とハッシュの大剣では、僅かにセラミスの腕の長さが勝っていた。
 ハッシュの踏み込みよりも早く仕掛けることが出来る。
 ザンッ。
 ハッシュの身体がセラミスの射程距離に入った。
 今だ。
 絶望獣セラミスの大きく太い腕が魔法の勢いに乗って繰り出された。ハッシュ目掛けて襲い掛かる。ハッシュがこの攻撃を気づかないはずはない。それを見越しての攻撃。ハッシュの予想を反して、きっと深手を負わせることができるだろうとセラミスは思った。
 だが。
 セラミスのその思いは簡単に破綻する。
 ハッシュは全く動じることなくセラミスの攻撃をあっさりと剣で受け止めた。
 セラミスは悟る。いくら大いなる力を手に入れようと、平和な国での暮らしと、実戦も訓練もなく、ただ実験だけに没頭する。それだけでは真の強さなどは得ることができない。日々の信念と努力で培った力こそが本当の強さなのだ。
 ハッシュの白き髪が軽く揺れ、セラミスを見つめる瞳が光る。
 危険を察知したセラミスは身を翻したが、一瞬遅かった。
 勢いよく振り下ろされた大きな剣が、セラミスの強靭な身体を斬り裂いた。
「ぐぎゃああああああ!」
 セラミスの悲鳴が木霊する。


「や、やった」
 必死で起き上がろうとするオキュラスはその光景を見て言った。
「エグリアースさん、あいつ、やりやがった」
 オキュラスはエグリアースを振り返る。
「…ああ」
 その瞬間をエグリアースは見ていない。だが、感覚でわかるのだろう。笑みを見せていた。


「ついに」
 ドゥージは悲鳴をあげるセラミスを見て心躍った。
 念願だったセラミスの死。それがついに目の前に。
 もはや「パール族の手で」ということはどうでもよくなっていた。
 誰でもいい、あの悪魔を、地獄へ落とすことができるのであれば。
 一族の仇。今ここに果たしたことを先祖へ報告する。白き髪の英雄によって。
 ステューを見る。ボズがしっかりと抱きかかえ守っていた。
 ドゥージは僅かに口元を緩めた。
 そして、ゆっくりと目を閉じた。
 2度と開かれることのない目を。


「我は王ぞ!絶対的なる、栄光的なる、永遠の王ぞ!」
 絶望獣セラミスは叫び、なんとか逃げようと、その場から飛んだ。
 だが傷を負ったその身体は大して進むことも許されず、失速して落ちた。
「我は生きなければ、生きなければ」
 それでも離れようともがき始めた。
 セラミスの前に足が見えた。思わず見上げる。
「おおっ!来てくれたのか、我が従順なる将軍、ファミリストンよ!」
「王…」
 セラミスの目の前にいた者は、ようやく頂上に辿り着いたファミリストンだった。
「ファミリストン将軍!」
 オキュラスが遠くから言った。
「さあ、ファミリストン、我を助けろ。あやつらを倒すのじゃ」
 セラミスはハッシュ達を指差しながら、ファミリストンの足にすがり付いた。
 ファミリストンは微動だにせず、そのセラミスの姿を見ていた。何を思っているのだろうか。人間を捨て、変わり果てた獣の姿。父のように尊敬する王だったはずが、生きるために利用できるものは全て利用するという誇りも何もかもを捨てきった執着。ファミリストンの手が微かに震えていた。
 ハッシュは構えを解き、大剣を背中に戻した。もう後はファミリストンに任せるという意思表示だった。
「何をしておる、ファミリストン!はやく!はやくせんかぁ!」
 セラミスの声はもっと大きく、ファミリストンの脳裏に達する。
 ファミリストンはゆっくりと剣を抜いた。
「なっ!将軍!」
 驚くのはオキュラス。まさか、王を守るために自分達と戦うつもりなのだろうか。
「そうだ、それでよい」
 セラミスは不敵に笑った。
 ハッシュはセラミスに背を向け、ボズの方へと歩き出した。
「むっ、逃げる気か。そうはいかんぞ。さあいけ!ファミリストンよ」
 セラミスはハッシュを指差して言った。
 ファミリストンは剣を振り上げた。
 セラミスの方へ。
「な、な、な。ファミリストン?何をしておる」
「王よ。我が主『だった』王よ。次に生まれ変わる時は、憎しみのない世に生まれて下さい」
「ファ、ファ、ファ」
 剣を振り下ろした。
「ファミリスト〜ン!!!!」
 剣はセラミスの頭部へ下ろされた。
 鮮血が舞う。
 セラミスは、ファミリストンの足にしがみ付いたまま、絶命した。
 ゲルニア国に滅亡を知らせる風が静かに吹いた。


つづく












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