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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第1章 白髪の男 その1


 孤独の島ゲルニア。世界8国の中で、最も小さい国として知られる。島を国としている所は他にバリュアス、ドルゴルドの2国があり、本島の国々との外交関係を築いている中、ゲルニアだけが置き去りにされているかのような扱いを受けている。
 それは、ゲルニア国が望んでいる形ではなかったが、島の位置関係のせいでもある。北の最果てに位置するこの国は極寒の島で、滅多に本島の者が島へ来るということがないのが理由の一つで、逆に島からわざわざ本島へ行く者もいない。外交はもちろんのこと、移動するのにも一苦労なのだ。
 理由はそれだけではなかったが、主としては島から出ることが出来ない寒さの環境のせいである。そのため「不出の島」と呼ばれている。
 5年に1度行う世界8国の代表全てが集る会議、「世界ガルド会議」が唯一情報交換できる場となっていた。丁度今年はその会議が行われる年である。
 そんな孤独の島にある国なのだから、外から異国の者が突然来ると、物珍しさと、怯え、戸惑い、恐怖、警戒で全土に緊張が走る。
 そこには歓迎という言葉はない。それほど異国の者が来るということは重大なことなのだ。

 
 ガルド暦910年。
 遠き他国では春の訪れと共に暖かい風を感じ始めている頃であるが、ここゲルニアでは気温は多少上がってはいても、実際は1年中凍えるような寒さを耐えねばならない。
 世界ガルド会議があと数ヵ月後だが、人々は変わらずいつも通りの生活を続けていた。
 島の外れにあるグロン村。
 7歳のボズは母親に頼まれて、ガイという魚を捕りに、作ったばかりの防寒服で身体を包み、海へ向かっていた。
 極寒のこの地でガイという魚は栄養もあり、どんな味付けにでも対応できる便利な生き物で、ゲルニア国民の主食となっていた。
 動きも遅く、やり方さえ覚えてれば誰にでも捕ることが出来る、実に都合のいい魚であった。
 国が今まで維持できたのは、このガイのおかげでもある。従って、賢い者はガイの養殖を商売としている者もいた。
 ボズにとって、ガイ捕りはいつもの日課で、ごく当たり前の仕事であった。村の子供達はまずガイ捕りから覚えていく。
 去年から始めたガイ捕り。ボズは1年の経験で、自分なりに絶好の場所を見つけていた。複数の家族が食べていけるだけのガイがその場所にはあった。
 友達のコウミは必要以上に捕ることで、皆からの不満を買っていた。この前は20匹捕ったと自慢されて悔しかったことをボズは思い出した。
 張り合うわけではないが、コウミよりも捕るのが下手だと思われるが嫌だった。 今日は親に怒られでも30匹を目標に捕ることを心に誓った。


 目的の場所に辿り着いた時、見慣れたいつもの景色に別の物体が混ざっているのを悟った。
 何百回も見た景色である。今まで何も変わることのなかった場所。明らかに何かが見える。ボズの目にはそれは人に見えた。
 人がこの島に流されてくることなど前代未聞だ。ボズは大人を呼ぶことよりも真っ先にどんな人間が流されてきたのかという好奇心が頭に浮かんだ。ガイ捕りどころではない。
 恐る恐る近づいていく。近づくにつれ、その人間の姿がはっきりと見てきた。
 うつ伏せの状態で岩に引っかかっている。身体つきを見るからして、間違いなく男だとボズは判断した。
 目的地は元々この島だったのか、防寒服は着込んでいたが、簡単に思っていたのだろう、他では通用する防寒服も、ここではまだまだ薄い部類に入る。
 ボズの中に少し疑問が芽生えた。最初の判断では男の身体は服の下に隠れているとはいえ、若々しい肉体に見えたのが、実際近づいてみると肩まであるその長い髪の色は白かった。こんな身体をした老人がいるのかとボズは動揺した。
 なぜ、こんな所に流れ着いたのだろうか、ボズは辺りを見回したが、船などの残骸は見えなかった。
 近づいたはいいが、一人ではとても動かすことが出来ないことに今頃気づいて、ボズは慌てて村へと引き返していった。


 グロン村は騒然となった。
 それもそのはずである。島に誰かが流されたということ自体今までなかったことだし、更に薄い防寒服を着ていたことで、ゲルニア国の者ではないという事実も判明した。
 ボズの報告を聞き、まずは見て判断することになった。こんな島のこんな村とはいえ、緊急事態が起きた時のためではあるが、武器を用意している。
 数人の大人達は武器を手に取り、海へ向かった。同時に国王へ知らせねばと一人が伝令に走った。
 ボズも道案内としてついていくことになった。友達のコウミがボズの背中を突付く。後ろを振り返るとコウミの他に村の子供達が何人かいた。
「お前本当に見たのかよ」
 コウミが疑わしく言った。
「何だよ、俺が嘘ついているといいたいのか」
 ボズはムッとして言い返した。
「だって、こんな所にだぜ。しかも、船の残骸とかないんだろ。じゃあどうしてここに流れ着くんだ」
「知るかよ、そんなこと」
コウミは嫉妬しているのだとボズは思った。きっと自分が発見者なら嬉々として自慢するのだろう。
「おい、ボズ、早くしろ」
 大人の呼び声にボズは大きな声で返事をし、コウミ達をその場に残して、海へ案内した。


 海へ着いた大人達は、武器が全く必要ないことを認識した。
 その白髪の男はまさに虫の息だったのである。襲い掛かるなどできるわけがない。
 普段が争いを好まない民のせいか、こんなにも弱っているなら、なんとか助けようという気持ちが全員に伝染し、大人達は白髪の男を村へ運ぼうと皆で協力し始めた。
 男が抱き起こされた時、ボズは驚いた。老人だと思っていたその顔は立派な青年の顔立ちだったのだ。
 村にもいる若い男と同じであった。よく見れば、その白い髪も透けるように美しく、若々しかった。
 こういう人種が遠い大陸にいるのだと、ボズは自分を勝手に納得させた。


つづく。












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