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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第5章 その国、静かに滅びる その3


 数々の実験の中で、セラミスが見出した最後の方法。自分自身の半永久的な命と最強の力を手に入れるには、自分が絶望獣になるしかない。
 一度「死」を受け入れての融合。人間としての意識。
 他の実験で人間としての意識を持たれて怪物になってしまうと、いつ逆に襲われるかわからない。
 最高の怪物として、そうなるのは自分しかないと決めていた。
 セラミスは人間の姿を捨て、怪物という道を選んだ。


「冗談だろ、おい」
 オキュラスが困惑した声を出す。
 目の前で起きていることは現実なのか。ハッシュと絶望獣ハミルとの戦いではない。その奥で起きていることだった。
 パール族ドゥージとセラミス王の戦い。見る限りは、同じパール族のステューの登場でセラミス王が倒されたかに見えた。
 なんとその後、セラミス王が立ち上がった。ステューを軽々と吹き飛ばして。
 その姿。セラミス王が異形の怪物。絶望獣へと変化していた姿だった。
「セラミス・・・王が・・そんな」
 落胆するオキュラス。どこかでまだ王のことを信じていたのかもしれない。全ては何かの間違いだったと。そんな薄い希望は脆くも崩された。王自身の悪魔の姿によって。
 力を使い果たしたのか、動けないドゥージを怪物となったセラミスは何度も踏みつけた。
 同時にオキュラスの横を走りぬく者。
 エグリアースだった。
「エグリアースさん?」
 オキュラスも慌てて後に続く。
「まさかエグリアースさん、あいつらを助けるつもりじゃあ」
 オキュラスの問いにエグリアースは答えない。それは、その問いの正解を意味していた。
「なんでっ、あんな奴らを、あいつらは国をこんな状態にした奴らなんですよ」
「・・・・・わかってるさ」
「だったらなんで」
「それでも、俺は、あんな嬲り殺しを見逃すことはできない」
「・・・・っ」
 一生傷になることがある。忘れられない恨みもある。許すことは出来ない。
 だが。もしかしたら。
 いつか。傷が癒える時がくるかもしれない。恨みさえも忘れるかもしれない。許すことが出来るのかもしれない。
 それは誰もわからない。本人さえもわからない。何がきっかけでそうなるのかさえも。
 けれど。今は。この今だけは。
 あの暴挙を。あの邪悪を。あの『昔の』我が王を。
 止めることが。倒すことが。全てなのだ。
 エグリアースは、難しく、深く考えるのをやめた。
 今やるべき、思うべきことを、思うままにやるだけだ。
 それは、パール族の命を奪うことではなく、見捨てることではなく、救うことなのだ。
 本能が救えと言っている。ならばその本能に従おう。単純なことだ。
「嫌ならくるな」
 冷たくエグリアースは言い放った。
 オキュラスは軽く舌打ちした。
「そんな言い方ないじゃないですかっ。わかりましたよ。・・・くそっ。わかりましたってば!」
 オキュラスは後に続きながら何度も繰り返した。


「くくく・・。気持ちいいのぅ。弱者を踏み潰すのは」
 セラミスは蟻を踏むようにドゥージの身体を踏みつけた。踏むたびにドゥージの苦しそうな声が吐き出される。
 ドゥージは能力を出す力もない。身体を鉄にする力も、腕を刃に変化させることも、魔法をつかうことも。
 ダヴァニータが倒された姿を見て頭に血が上った時点で負けが決定していたのかもしれない。
 意識を失いかける中、焦点の合わないぼやけた目の中に2人の兵士が映る。
「ゲルニアの・・・戦士・・か」
 エグリアースとオキュラスの2人だった。
「馬鹿な、ムザムザ殺されにきたのか」
 言葉にして口に出そうとしたが、声が出ない。ただ見ているしかなかった。
「ほほう、くるか、我が国の兵ども」
 セラミスが嬉しそうに言う。後からでも十分に殺せるのか、ドゥージへの執拗な攻撃は一旦止まる。
 今になってようやく身体の奥が冷えていくのを感じた。ドゥージは冷静さを取り戻しつつあった。
 ドゥージがまずやるべきこと。ステューの安全の確認と逃げ場所を探すこと。
 ステューを見る。ピクリとも動かない。息をしているようにも見えない。だが、僅かだがステューの身体が少し動いた。
「生きていたか」
 続いてダヴァニータを見る。動かない。ダヴァニータは完全に息絶えていた。
「・・くっ」
 悲しんでいる暇はない。ステューだけでもなんとかしなければ。頭はそう思うのだが身体がついてこない。どんなに動かそうと努力してもドゥージは動かす力が残っていないことを悟った。
 突如勢いよくステューの身体が引きずられた。ドゥージは驚いて目をこらした。
 1人の子供がステューを林の中へ入れようと引きずっている。こんな危険な場所に子供がいる。恐らくはゲルニア国の子供。何の能力もない普通の子供。ステューを安全な場所へと必死で移動させようとしている。
 こんな酷いことをした我らを。憎いはずだ。なのに。なぜ助けるのだ。
 ドゥージの瞳が涙で滲む。
 その男の子供、ボズを見ながら、ドゥージは心の中で「頼む」と呟いた。


「だっ駄目だ」
 オキュラスは絶望獣セラミスとの力の差を体感した。どんな攻撃も弾き返される。傷もつけられないのではもうどうすることもできない。
 敏捷性もセラミスの方が上だ。セラミスの鋭く太い腕がオキュラスを襲う。
 剣で防御をしたが、効かず、オキュラスは飛ばされた。
「ぐああ」
「オキュラス!」
 エグリアースがオキュラスを見た。命には別状はなさそうだったが、すぐには動けそうにない。
「くっ」
 エグリアースは構えるが、太刀打ち出来ない。それほどまでの恐怖。死を覚悟せざるを得ない。
 セラミスの動きが止まる。何かの気配に気づいたのか、唐突に後ろを振り返った。
「!!」
 エグリアースは驚愕した。
「あっ」
 ボズが、ステューを引っ張っていたのだ。なんとかステューを安全な場所へ隠そうとしていたのだ。
「ボ・ボズ!なんでこんな所に!」
「ほう・・これは、これは」
 セラミスはニヤける。
 動くこともできないドゥージは絶望的な表情をしていた。
「逃げろ!ボズ!逃げるんだ!」
 エグリアースは叫びながら斬りかかる。だが、傷がつくことなど皆無に等しい。
「逃げるんだ!」
「だ・だってこいつ・・このままだと」
「いいから逃げろ!」
 叫び続けるエグリアースにセラミスの蹴りがはいった。
「がふっ」
「うるさいぞ、ゴミめ」
 エグリアースはその場に倒れこんだ。
「エグリアースさん!」
 ボズが泣きそうな声を出す。
「くっくっく。残念だったのう」
「うう・・お前なんか・・王様じゃない!」
「いや、我は王だ。このゲルニア国のな」
 ボズは歯を食いしばり、精一杯に叫んだ。
「お前が王様の国なんて!そんな国いるもんかぁ!」
 ギシャガアアアアアアア。
 ボズの叫びと同時に絶望獣ハミルの断末魔のような声があがった。
 セラミスが咄嗟に見る。
 絶望獣ハミルの身体は真っ二つになっていた。
「・・・っ。なんだと・・。ハミル!」
 断末魔のようなではなく、まさに断末魔の叫びだった。
 屍となったハミルの横で悠々と大剣を片手に佇んでいるハッシュがいた。
「ハッシュさん!」
 希望に満ちたボズの声。
「貴様・・・一体」
「俺は、アーガス国の戦士、ハッシュ。伝説剣士クラシェイカの弟子だ。ファミリストンを仲間にするため、悪しき呪縛であるセラミス王を討ちにこの場所へきた」
「クラ・・シェイカだと?」
「そして・・・俺は・・」
 ハッシュは大きく息を吸い、確固たる決意を含め、島中に響く声で高らかに言った。
「英雄だ!」


つづく。












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