第1部 第5章 その国、静かに滅びる その2
ドゥージは自分の目を疑った。突然現われた白い髪の男。手には遥かに大きい剣を持っていた。その男が、あの圧倒的な力の絶望獣ハミルの腕をいとも簡単に斬り裂いたのだ。
「な・・何者だ」
ドゥージは思わず口から言葉を出した。それと同時に同じように思わず言葉を出した者がいる。
「ぬう・・あのハミルを」
セラミスだった。セラミス自身もこんなことは予想外のようで明らかに焦りを感じられた。
今だ。ドゥージは思う。今が最大のチャンスだ。セラミスは無防備の状態で、守るべきハミルは応戦中。ドゥージが動けないと安心しきっている今が最後にして最高の勝機。
セラミスは知らないのだろう。ドゥージには魔法の能力があることを。
(ほんの少しでもいい。手よ、腕よ、動いてくれ。あの邪悪な王を死へ誘う最後の攻撃をさせてくれ)
ドゥージの悲痛の思いと共に、激痛に耐えながらゆっくりと手を動かす。セラミスに気づかれては駄目だ。なにもかもが終わる。きっとセラミスは遠くへ逃げ去り、もう2度とドゥージの傍へは近寄らないだろう。油断している今だからこそ、狙うことができる。
ググッ。
腕に力がこもる。徐々に射程内へ入っていく。
(今だ!)
勝利への、復讐への最後の魔法。ドゥージの手から放たれる。
その瞬間。
セラミスの目が静かに動く。その先はドゥージ。
「ふん、しつこいのう、パール族よ」
「・・・・なっ」
セラミスは老体の割には素早い動きでドゥージの顔面を蹴り上げ、魔法が放たれるであろう手を踏みつけた。
「ぐあっ」
ミシッと嫌な音が聞こえる。骨にヒビがいったようだ。
「あえて泳がせたが、やはり、仕掛けてきたか。お主らはそう簡単に諦めるわけがないよのぅ」
セラミスの笑顔が今までで一番醜く歪んだ。
「ぐ・・セラミスッ!」
怒りが無限に溢れ出る。悔しさがオーラとなって身体の中から発現する。
「その表情だと・・もう何もないようだな」
セラミスは決して油断はしていなかった。事実、神経を研ぎ澄ましていた結果、ドゥージの動きにも対応できたのだ。この用心深さが、若き日ニゴラス国で起きた「ドリムオン作戦」でも生き残った理由かもしれない。
だが。
ドゥージの攻撃を封じ。
ドゥージの打つ手なしの顔を見て。
慢心したのか。
それが・・・・・油断だった。
「うわああああ」
子供の大きな声と一緒に、片腕の子供が飛び出してきた。
「ステュー!」
ドゥージが叫んだ。
「ぬおっ」
セラミスは完全に虚を突かれた。まさかいるわけがないと確信していたところへいきなりの出現。セラミスの冷静な判断と思考回路は乱れた。
ステューの腕は刃と変化している。
セラミスは間一髪かわせると判断し、最小限の動作で身をよじる。しかし、セラミスの思い描いた動作と異なる。動作が遅れた。
愕然とするセラミスの脚を、ドゥージがしっかり抑えていた。ドゥージが密かに笑みを見せる。
「きっ貴様ぁあぁあぁぁぁぁぁ」
セラミスが吼えた。
ズン。
ステューの刃は。
セラミスの身体を貫いた。
「がふっ」
口から大量の血を吐き、セラミスは倒れた。
一緒に倒れこんだステューはすぐに立ち上がり、トドメの一撃をセラミスに叩き込む。刃は再度セラミスの身体を貫く。
返り血を浴び、肩で息をしながらステューはその場に立ち尽くした。
「お・・お前・・その腕」
片腕がないことに気づいたドゥージが驚きのあまり言った。
「あ、ドゥージ兄ちゃん。やったよ。俺」
気にすることなくステューは笑った。今はそれよりも一族の敵を殺すことができて嬉しいのだろう。
つられてドゥージも笑いかけた。
キシャアアアアアア。
絶望獣の雄叫び。
ハッシュとハミルの死闘が熱を帯びてきたのか、これまで聞いたどの雄叫びよりも鋭かった。
ドゥージとステューはハッシュの方へ目を向けた。
・・・が。
ドドン。
変な音が響いたかと思うと、ステューの身体が吹っ飛んだ。
「・・・えっ」
そのままステューは大木に叩きつけられた。
「・・・・・あ」
ドゥージは心の底から震えた。
聞いた雄叫びは、ハミルの雄叫びではなかった。
「礼を言うぞ・・パールの者よ」
その雄叫びの真の主は。
「我も最高の力を手に入れた」
セラミスの雄叫びだった。
つづく。
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