第1部 第5章 その国、静かに滅びる その1
剣の国アーガス。
剣士になる運命を思い描き、この国の男達は戦士を目指す。
ハッシュもまたその中の1人だった。
全ての者が戦士になれるわけではない。実力が追いつかない者、怪我や病気をする者、様々な理由で断念をする者も出てくる。
ハッシュは『断念した者』だった。
それは怪我や病気ではない。まして、実力でもない。真の理由は、差別であった。
産まれながらの白い髪。ハッシュに何の責任はない。だが世間は違う。気味悪がられ、誰も歩み寄ってこない。当然戦士への道など定めてくれなかった。そして、遂には、親からも見放された。
絶望の淵で、希望もないまま徘徊していたところに、手を差し延べた老人。それがハッシュの師匠であるクラシェイカだった。
クラシェイカはかつてアーガス国の戦士で、『アーガスにクラシェイカあり』とまで伝えられた大剣豪である。今は隠居生活をしていた。
そんなクラシェイカが、生涯初めて弟子をとったと噂される。しかも、その弟子はあの白髪の男。世間の批判を浴びせられたが、クラシェイカは全く気にすることもなく、ハッシュに自分の全ての剣を教える。
数年後。
クラシェイカはハッシュに伝えた。絶望神がこの世に蘇ること。同時に蘇る太陽神を守る戦士を集めなければならないこと。
その1人が遠き島ゲルニア国にいること。
ハッシュはクラシェイカの命を受け、この島に来た。
ファミリストンという人物と出会った。彼がその戦士だと思った。彼を救うため、連れて行くため、戦わねばならない。
絶望の獣と。ファミリストンの主君である邪悪な王と。
ハッシュの大きな剣は、ゲルニア国民の無念を乗せ、竜巻のように迫りくる絶望獣を薙ぎ倒した。
「す・・すごいな・・」
オキュラスが感心するように言った。ハッシュの戦いぶりを見るのは初めてだったにも関わらず、ハッシュの姿が見えた時の安心感。オキュラスはハッシュのことを不思議な男だと思った。
エグリアースも驚いた。戦いぶりにではない。ハッシュの持つ剣のことだ。扱う人間よりも遥かに大きな剣をいとも簡単に振っている。あの細身の身体からあれほどの力が出るなんて。
一振りでほとんどのジャムを斬り倒し、運良くかわせた、いや、当たらなかった残りのジャムも二振り目で絶命した。
「大丈夫か」
ハッシュは2人に声をかけた。
ポカンと口を開けていたオキュラスが我に返る。
「あ・ああ。ありがとう」
子供のように、純粋に言葉が出た。打算もなにもない、本音だった。
「この先か?」
ハッシュは頂上の方向を見る。
「そうだ」
エグリアースが立ち上がりながら言った。ついてくるなと言っても聞く様子ではない。
「行こう」
ハッシュはそう言って走り出しだ。
その速さに2人はついていくのがやっとだと思った。
「はあ、はあ、はあ」
息が切れる音。ドゥージは絶望獣ハミルの攻撃によって身体中を痛めていた。
身内を殺された怒りのため、冷静な判断が出来なくなったところを付け込まれ、ドゥージの攻撃はことごとく潰された。ようやく若干ながらも冷静さを取り戻りかけたが、その時には既に蓄積された痛手は大きかった。
「くっくっ、もう終わりか?パールの者よ」
セラミスが満面の笑みで言う。
「ふん、こんなことで俺がやられるわけなかろう」
それがドゥージの精一杯の強がりだということはセラミスにはわかっている。ドゥージには立ち上がることも出来ないということを。
「では・・トドメといこうかの・・・」
セラミスがハミルに攻撃を促そうとしたが、動きが止まる。
「くっくっくっ、しつこいのう・・・まだ・・ネズミがおったのか」
ドゥージは振り向いた。置き去りにした、エグリアースとオキュラスの2人だと思った。相手になるわけがない。それほどまでに、この絶望獣の力は大きく脅威的だ。
だが。
そこにいるのは、あの2人ではなかった。
白い髪・・・。ドゥージはダヴァニータが言っていたことを思い出す。
信じられないような大きな剣。
白き髪の戦士ハッシュが駆け上がってきた
「美しい・・・白い髪だ・・・」
セラミスは嬉しそうに言った。
ドゥージはハッシュを見る。確かに美しく白い髪。それに気をとられているセラミスに一撃を食らわせたいが、思うように身体が動かない。
「くそ」
ドゥージは動かない自分の身体に叱咤する。
「いけ、ハミル」
セラミスはハッシュを指差した。
キシャアアアアア。
絶望獣ハミルは雄叫びを上げ、ハッシュ目がけて飛び掛った。
エグリアースとオキュラスが続いて上がってきた時に見えた光景は信じがたいものだった。
あの圧倒的な力を持った絶望獣。
城の全兵士が敵わなかったパール族。スライ将軍が敵わなかったパール族のドゥージ。そのドゥージを地面に叩き倒す絶望獣ハミル。
ハミルの力は常識を超えた力のはずである。
しかし、2人が見た光景は。
若き戦士ハッシュ。
白い髪の戦士ハッシュ。
大剣を扱うハッシュによって。
ハミルの腕が斬り飛ばされている光景であった。
グシャアアアアア。
ハミルの悲鳴のような雄叫びが響く。
「・・・な・なんて・・・」
オキュラスが呆然と言った。その後の言葉が続かない。
「・・・奴だ」
エグリアースがその続きを付け足した。
つづく
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