第1部 第4章 希望と絶望の刃 その4
グロン村が滅ぼされた悪夢の夜から半日が過ぎようとしていた。
ゲルニア国の人間はパール族によって殺された。
今、この島には、セラミス王、絶望獣になったハミル。パール3兄弟のドゥージ、ダヴァニータ、ステュー。ゲルニアの戦士、ファミリストン、エグリアース、オキュラス。グロン村の生き残りボズとアリシェ。そして、異国の白髪の男、ハッシュの11人しかいない。
それも、これから始まるゲルニア国最後の戦いで、この地に立っているのは何人になってるのだろうか。
アル山の頂上に向けて、ドゥージは歩いていた。運が良いことに、道がしっかりと示している。今のところは、道に迷うことはない。
このまま、簡単に頂上までは行かせてはくれないだろうと、ドゥージは思う。何かしかけてくるはずだ。
そう思ったと同時に聞き慣れた叫び声。
キシャアアアアア。
「ふん、やはりそうか」
ドゥージの予想していた通りだった。セラミスは必ず、絶望獣ジャムを召喚して襲わせてくるだろうと。
地響きが鳴り、だんだんと近づいてくる。相当な数のジャムが向かってきている。
ドゥージの両腕が刃に変わる。
気持ちを落ち着かせるために、すぅーと息を吸って、ゆっくりと吐く。
「ゆくぞ、セラミス」
ドゥージは、走り出し、襲いくる怪物の中に突入していった。
「今の声は」
少し遅れて、同じく頂上へ向かっているエグリアースとオキュラス。絶望獣ジャムの叫び声に反応した。
「忘れるものか、あの怪物だ」
エグリアースが言った。
「すぐ近くですね」
オキュラスも頷きながら答える。
絶望獣を扱えるのは、パール族だけではない。セラミス王も扱えるのだ。2人は、どっちの獣なのか、わからなかった。
ただ、言えることは、パール族かセラミス王が近くにいるということだった。
「いくぞ」
エグリアースは剣を抜く。
「はい」
オキュラスも辺りを警戒しながら、声の方向へと走り出した。
ハッシュとファミリストンも、アル山へ向かって、歩いていた。早く進むように急いではいるが、ファミリストンの足取りはまだ重い。自然と動きは遅くなる。
「すまんな」
ファミリストンは申し訳ないように言った。
「仕方ない。応急処置とはいえ、すぐには動くことは出来ないさ。俺は医者でもないしな」
ハッシュは気にすることもなく言った。
アル山へ登る途中の道で、島の全体ではないが、ある一部分の海岸が見える位置がある。
ハッシュは何気なくその方を見た。動きが止まる。
「どうした?」
気づいたファミリストンが話しかけた。
「俺は、ここにくるのに、舟で向かっていたんだ」
ハッシュが急に喋りだした。
「そこで、まあ、舟がひっくり返って・・・運良く目的地に流れ着いたんだ」
「本島からそんなものでくるなんて無茶だな。その舟も小さいものだろ?ある程度大きなものじゃないと、ここまではこれないぞ」
ファミリストンも思わず答えたが、なぜいきなりそんな話をするのか理解できなかった。
「その時の舟があそこに流れ着いてる」
ハッシュは指をさした。
ファミリストンも指の先を見る。確かにその方向には、小さなボロボロになった舟が一隻見える。しかも本当に1〜2人乗り舟だ。あんな舟でここまでくるつもりだったなんて、ファミリストンは呆れた。
「ああ、確かにな。それがどうかしたか?」
「俺の武器も一緒に流れているかもしれない」
「なに?武器?お前・・専用の武器なんてあるのか?」
「俺は剣士だ。やはり自分の手にしっくりくる物じゃないとな。あるかどうかわからないが、取りに行ってくる」
ハッシュの言ってることも一理ある。これから命を懸けた戦いの中で自分の武器は重要だ。今まで使い慣れた武器を持つことは大事なことだ。
「わかった、俺は先に行っている。早く取りにいってこい」
「すまん」
ハッシュは海岸へと向かった。
ファミリストンは1人で歩き出した。だが、早く進むことはできない。ハッシュが戻ってくるまでに、きっと進んでいないのだろう。ファミリストンは今の自分の状態を悔しく思った。
「肉が裂き、剣を振るう音が聞こえる。始まったか」
目を閉じたままでセラミスが呟いた。
パール族のドゥージと召喚したばかりの絶望獣との戦い。風が運ぶ僅かな気配を感じとっているのだろうか。
セラミスの眉がピクリと動く。
「ほう・・・。誰よりも早く・・ここに辿り着いた者がいるのか」
セラミスが目を開けた。
絶望獣ハミルが唸る。
ザザッ・・。風が吹く。森の木々が揺れる。葉が飛び交い、ほんの一瞬セラミス達の前に舞う。
その隙を待っていたかのように、飛び出した影。
「セラミス!覚悟!」
飛び出して来たのはパール族ダヴァニータだった。刃に変化した腕が、セラミスに向けて振り下ろされた。
つづく。
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