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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第3章 ゲルニア国攻防戦 その3


「ちくしょう!」
 ウィスケルの声が響いた。
 城内。
 エグリアース、ウィスケル、オキュラスの3人は王の間へと向かっていた。
 ウィスケルは途中に倒れ息絶えている仲間達を見ながら、思わず声が出た。
 城内のほとんどの壁が崩れ、兵士達の鎧は全てといっていいほど、破壊されていた。それは鎧だけではなく、中の人間も含めてだった。手足や首が異様な角度に曲がって、叩きつけられたのか、崩れた壁の中にめり込んでいる。
「なんて破壊力だ」
 エグリアースが冷静に言った。それから。
「王は無事だろうか」と一言付け加えた。
 その独り言にオキュラスが口を挟んだ。
「大丈夫ですよ、きっと、スライ将軍がなんとかしてくれてます」
 根拠もない楽観的な言葉だが、今、頼れる希望の言葉は、これしかなかった。
 ウィスケルとエグリアースは顔を見合わせ、「そうだな」と呟いた。
 しかし、現実はそう甘くない。
 王を守るべき希望の将軍は、既に、圧倒的な力の差をもって、叩き潰されたばかりなのだ。
 セラミス王への障害はもうなにもない。
 結局、オキュラスの言葉は、根拠のない楽観的な言葉に間違いはなかった。


「なんでよっ!なんでなのよ!」
 城下町入口。ハッシュ対ダヴァニータ。
 ダヴァニータは怒りと悔しさで、叫ばずにはいられなかった。ハッシュが気を取られている間に、絶望獣ジャムを召喚し、後ろから襲わせるという作戦だった。成功したと思っていた。
 ハッシュは全く焦らず、素早く一閃。ジャムをあっという間に倒した。それは先のグロン村での繰り返しのように見えた。
 同じことを何度か続けたが、いずれも結果は変わらず、ジャム達はハッシュに傷をつけることもできずに、屍となっていった。
「無駄だ。そんなものは俺には通用しない」
「…お・おのれ。虫唾が走るこんな国でぇ」
 対応する術も見つからず、ダヴァニータにはもう打つ手がなくなっていた。
 彼女の脳裏に浮かんだ次なる手は。『逃亡』それしか思いつかなかった。
 目の前に、もう一度ジャムを召喚させた。ジャムを盾に逃げるつもりなのだ。
「ちっ」
 舌打ちをしたハッシュは、ジャムの相手をしている内に、ダヴァニータは逃げ切ってしまうことを確信した。
 追う者の前に障害が現われ、逃げることだけに集中した者とでは、追いつきたくても追いつけない。
 ジャムを全て倒しきった時には、ダヴァニータは、もうこの場にはいなかった。
「ボズ、君はそのまま動くんじゃないぞ」
 どこにいるのかもわからないが、馬に乗りながらハッシュは大きな声で叫んだ。そして、そのまま町の中へ向かっていった。


 静かになった、町の中では、1人の大人と、1人の子供が、向き合っていた。
 ファミリストン将軍とパール3兄弟のステュー。
 普通に見れば、親子のように見えるが、実際は違う。この2人は生きるか死ぬかの戦いを繰り広げているのだ。
 形勢は、ステューが優勢。ファミリストンは目で確認できない程の速さで攻撃され、倒れる寸前をなんとか持ちこたえてはいるが、意識は朦朧として、立ってるのもままならない。
「殺してやる!こんな国の人間なんて殺してやる!」
 ステューには右腕がない。少し前にファミリストンの全神経を賭けた一振りで、斬り飛ばされたからだ。
 そこにファミリストンの誤算があった。彼は、その一振りでステューの命を断つつもりだったのだが、ステューの予想外の防御力のため、右腕1本だけしか仕留められなかった。
 逆に怒りを倍増したステューは自身の能力である、『目にも止まらぬ素早さ』を武器として、ファミリストンに襲い掛かった。
 結果、ファミリストンの鎧は斬り刻まれ、肉まで達したその傷からは血が溢れ、絶対絶命の危機を迎えた。
「ぐっ」
 必死で抵抗を試みようとするが、力が上手く入らない。近づいてくるステューを退けることができないまま、なす術もなく立ち尽くす。
「もういいよ、死ねよ、てめー」
 乱暴にステューは言った。…が。一瞬目眩がした。風景が違う形に歪んだ。目の前にいるファミリストンの姿も歪む。
 血を流しすぎた。腕をバッサリと斬られ何の処置もしていない。いわば垂れ流しの状態で、更に勢い良く動きまくったのも原因だろう。
 『斬られた』というだけならば、ファミリストンの方が酷い。しかし、傷そのものは深くはない。傷が多いためのダメージなのだ。
 ふらついたステューをファミリストンは逃がさなかった。
「一刀両断!」
 ファミリストンは最後の力を振り絞って、剣を振り下ろした。
「うっうわあ」
 ステューが目眩から気づいた時には、ファミリストンの剣が間近に迫っていた。ステューは自分の能力を使うしかなかった。
 かろうじて、避けたステューはその場に倒れ込んだ。出血と極度の身体能力の負担で意識が遠のいていく。
「くそお…」
 ステューは目を閉じ、そのまま深い眠りへと誘われた。
 同時に、ファミリストンも崩れ落ちた。国の、町の、村の、仇を目の前にして動かすこともできない身体に叱咤を思いながら、彼もまた目をゆっくりと閉じて眠りに落ちた。


「パール3兄弟…パール族か…」
「ほう…俺達のことは充分に知っているようだな」
 王の間。
 ドゥージは国の戦士達を全く寄せ付けない実力であっという間にここまできた。目的は、国の滅亡。つまりは、セラミス王の死。
 宰相のハミルは王を守ろうと気持ちは先行しているが、足が動かない。王の傍へ近づけない。
 ドゥージはセラミス王を睨んだ。
「お前のしたことの罪を償ってもらうぞ」
 寝たままのセラミスは、少しも動じることなく、溜息をついた。
「どこまで知っているのだ。パール族の者よ」
「全てを」
「我が国の兵士、国民達は、何も知らないこと。国民を襲うのはおかしいではないか」
「そうだとしても、それを信じる根拠はない。セラミス王、お前を殺すことは、この国をも殺すことと同じだからだ」
 ドゥージはハミルへ視線を流す。ハミルは震えながら、目を逸らした。
 セラミスは話を続ける。
「誰の差し金だ。パールの者であれば、やはりニゴラス国か・・」
「ニゴラス国は関係ない。誰の差し金でもない。我々パール族の一存だ」
「そうか…」と、王が笑顔を見せた。
 それを見て、ドゥージの身体が震える。怒りを我慢しているようだった。
「ここにくるまで、ゲルニア国の戦士達は勇敢に、お前への忠誠心のため、国のため、尊敬に値するくらい俺に挑んできた。本当のことを知ったらどう思うだろうな。英雄だったお前が『昔ニゴラス国を追放された真実』を知ったら」
 セラミス王は、ふう、と息を吐いた。
「知ることはない。なぜなら、パールの者よ、お主はここで死ぬのだから」
「何を言ってる、この老いぼれが」
 ドゥージは我慢できなくなり、刃の右腕で斬りかかろうとした。
 その時。
 宰相ハミルが叫び、のたうち始めた。
「これが、長年の研究の、集大成だ」
 セラミス王は言った。英雄などと呼ばれていた力溢れる瞳ではなく、狂気に満ちた瞳だった。
 宰相ハミルの姿が変化していく。
 見覚えのある姿。見覚えのある変化。見覚えのある禍々しい異形の怪物。
 そして。
 キシャアアアアアアアアア。
 聞き覚えのある声。 
「ぜ…絶望獣!?」
 宰相ハミルは絶望獣へと変貌していった。


つづく。












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