第1部 第3章 ゲルニア国攻防戦 その2
ティファレン城。城内。
スライ将軍の快心の一撃がドゥージに炸裂する・・・はずだった。
「…馬鹿なっ」
ドゥージの身体は傷一つなかった。確かに斬られた・斬ったのだが、動じることもなく、ドゥージは「ふん」と鼻で笑った。
「そんなものか・とんだ買い被りだったな」
「き…斬った…はずなのに」
信じられないとスライは青ざめた。剣は物を斬ることができる。単純な常識だ。それを頭から覆ることが目の前で起きているのだ。
「俺の身体は生来より、鉄の如く硬き身体。どんな剣をもってしても、斬ることは出来ぬ。それが俺の能力」
「て・鉄の身体だと」
だから、この大男は武器も持たずに構えることもしなかったのだ。斬られることがないからだ。
「俺の能力に、『コレ』が加わればどうなるか…」
ドゥージの右腕が刃に変わる…。鉄の刃。一体どれだけの破壊力があるというのだろうか。
「…っ」
スライは一旦構えたが、すぐに剣を引いた。
「ほう…」
ドゥージが感心したように言った。
諦めではない。防御が機能しないことを悟ったのだ。悟った上で、別の方法を考える。意固地に勝ち目のないやり方で戦っても意味がない。ならば、現状を認めつつ、最善の道を探すしかない。
しかし、そう簡単に良い方法など思いつくわけがない。スライの頬を汗が流れる。
ドゥージは攻撃の構えに入った。
「ゆくぞ、ゲルニアの戦士よ」
スライは思う。マトモに受けては駄目だ。避けることが大前提だ。
巨体に似合わない速さでドゥージが動いた。
重い一振りが、スライに襲い掛かる。想像以上の速さで避けることが間に合わない。受けざるを得ない。スライは、身を限界まで避けながら剣で防御する。
初めて受ける衝撃。身体に伝わる落雷ような痺れ。スライの身体は王の間の扉まで吹っ飛んだ。同時に剣が折れた。
「どうした。スライ。何があった」
扉の向こうから、宰相のハミルが叫んだ。
「…っ」
衝撃のため、声が出ない。王の安全を確保しなければならない。ハミル宰相に逃げることを伝えたいが、言葉が出ない。
「おい、スライ。答えぬか。ファミリストンはどうした」
病弱な王の妨げにならないように、王の間はなるべく騒音が聞こえないような作りになっている。そのため、町の悲鳴や、城内の出来事は知るよしもないだろう。
目の前には、ドゥージが迫ってきた。
「くぐっ・ここまで力の差があるのか…」
「その先か…セラミス王は」
スライは折れた剣を取り、両手で持つ。目を閉じ、集中する。一か八かの賭けに出た。これからやることは実戦したことがない。成功するのかどうかはスライ本人にもわからないことだった。
ドゥージは溜息をついた。
「もうやめておけ、何をやっても無駄だ」
「そ・そうはいかん。同じ死ぬのなら、やるだけのことはやって死ぬ」
「そうか…見事だな、ゲルニアの戦士よ」
ドゥージは、止めとばかりに更に近づく。
「貴様らの情報にはなかったのか?我が王はニゴラス国出身だということを」
突然のスライの問いかけに、ドゥージの足が止まる。
「当然だ、それくらいは知っている」
「ならば、ニゴラス国は魔法の国だということも?」
「当たり前だ」
スライは不敵に笑いながら喋る。
「鉄をも溶かす、灼熱の魔法があることも?」
「何が言いたい」
「その魔法を俺が取得していたとしたら?この剣にその魔法を宿し、貴様を斬ることができるとしたら?」
折れた剣が赤く、更に赤く、熱く、輝いた。スライは、灼熱の魔法を訓練し、剣との融合を密かに研究していたのだ。それは、ロクシーヌ国が戦っているやり方と同じであった。それはファミリストンも知らないことだった。
ロクシーヌ国は、剣と魔法の人々が住む国。他の国との違いは、崇める神が違うのだ。太陽神アルニヴァースではなく、絶望神メンデルゴスを崇めている、いわば異教徒の国である。ロクシーヌ国の強さは、今、まさに、スライがやってる剣と魔法の融合。その力で数々の戦争に打ち勝ち、敵を退けてきた。
スライもまたこの方法を、初めて試すことになる。
さすがにドゥージも驚いた。こんな小さな国に、そこまで出来る人間がいるなんて思いもよらなかった。襲撃した時、兵達のあまりの弱さに情けなさを感じていたからだ。
「くらえ!灼熱剣を!」
スライが叫んだ。
だが、その声に被せる様に、ドゥージは言った。
「いや、無理だな」
ドゥージは左腕をかざした。すると、一瞬でスライの剣に宿っている魔法が消えた。
「…え?」
呆気にとられるスライ。
「魔法を使えるのはお前だけではないぞ。そんな簡単に取得できるものじゃあない。未熟だからこそ、俺の風の魔法によって、簡単にかき消される程度の威力なのだ。それでは俺を倒すことはできん。魔法を使えるということには驚いたがな」
圧倒的な差。これが、世界との差。小さな国で満足していた差。上には上がいるという図式。身を持って知ることになったスライの心境はどうなのか。
「お前はよくやった。さあ、もう眠るがいい」
ドゥージの最後の一撃。
スライは再度吹き飛び、その身体は扉に叩きつけられた。扉は壊れ、部屋の中が露わになった。
「初めまして…だな…」
部屋の中には、怯えたハミル宰相、奥には老人が寝ていた。その老人こそ、ゲルニア国セラミス王。
ドゥージは、老いてなお衰えないその力溢れる王の瞳を静かに見据えた。
つづく。 |