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七英雄物語
作:七英雄



第1部 第3章 ゲルニア国攻防戦 その1


 ガルド歴823年。
 ゲルニア国、国王セラミスは、バロゲニアガルドの本島にある魔法の国ニゴラスで産まれた。貴族でもなく、ごく普通の家庭で育った彼は、15歳になるまでは、どこにでもいる平凡な男だった。
 そんなある日、ニゴラス国が、交戦中のロクシーヌ国に攻め入られる出来事があった。ガルド暦838年のことである。歴史に残る「ドリムオン作戦」勃発。ニゴラス国は致命的な壊滅まではいかなかったが、かなりの深手を追うことになる。
 その戦禍で、家族を亡くしたセラミスは、世の中に絶望し、「何か」に目覚める。
 セラミスはある実験を始めた。それは国を想うための行動であったが、認めてもらうことはなかった。
 ガルド歴853年。
 それが原因で、セラミスはニゴラス国を追放されてしまう。
 行く当てもなく、流れ着いた島が、現在のゲルニア国である。
 何年か後、国として立ち上げることになるのだが、ニゴラス国から見れば、非国民の国を認めるということが納得いかない。
 しかし、認めざるを得ない。それだけの理由がゲルニア国に、セラミス王にあるのだが、誰も追及できないまま、月日は流れる。
 そして、現在。
 今、始まって以来の危険な状況に陥っている。強力な敵の存在。
 王の過去も知らない若き戦士達は国を守るためにその身を削って戦う。ただ、今は目の前の敵を倒すことだけを心に誓って。


 ティファレン城下町入口近く、ハッシュとダヴァニータが攻防を繰り広げていた。ダヴァニータはうっとりと恍惚の表情でハッシュを見つめた。
「いいわぁ…アンタ…ぞくぞくしちゃう…」
 何も言わず、ハッシュは剣を向けたまま睨む。
「その眼差しも…うふふ…素敵だわ。早くアンタを切り刻みたい」
 誰の目にもわかるようにハッシュはかなりの剣士である。動き、状況判断、力、技、全てにおいて、ダヴァニータの上をいっている。
 そもそもダヴァニータは女である。普通の男と比べれば、実戦経験も含めて負けることはないだろうが、ある程度の実力のある男であれば話は別だ。戦いは長引けば長引く程、体力にも差が出てくる。戦闘という面では、ダヴァニータは不利の立場のはずだ。
 しかし、それを補い、更には圧倒的な力の差を見せ付けるために、身に付けたのが、絶望獣ジャムの召喚術だ。
 何の前触れもなく、ダヴァニータは飛んだ。ハッシュが見上げる。空中に上がると、身体の方向を変えることができないため、狙いをつけられやすい。それでも、あえて、飛んだ。そんなこともわからない女ではないはずだと、ハッシュは警戒した。
 ダヴァニータは、ぺっ、と唾を吐いた。あまりのことに、ハッシュも驚き、その唾液を避ける。唾液はそのまま地面に落ちた。同時にダヴァニータは呪文を唱えた。
 地面から、何十体もの怪物ジャムが這い出した。
「さあ、あたしの可愛いジャムちゃん、そこの白い髪の男を殺してしまいっ」
 キシャアアアアアア。
 複数のジャムがハッシュに襲い掛かった。


 ティファレン城。城下町内。
 数多くの仲間達、数多くの町の人々の、屍を背に受け、国の誇る将軍、ファミリストンは剣を構えて微動だにせず立っていた。
 その鋭い眼光は、僅か6歳くらいの男の子、ステューに向けられている。
 町をここまで壊滅状態に陥れた張本人、子供だがその力や冷酷さは、他のどの大人よりも抜き出ている。
「ねえ、おじちゃん。どうしたの。こないの?」
 ファミリストンは、笑顔で言うステューの言葉を無視する。挑発的な言動はこちらの思考を狂わせるためにやっているのだと思った。
「ねえ、ねえ、聞いてるの?」
 なおもしつこくステューは言ってくるが、ファミリストンは一向に耳を貸さない。
「ちぇ、つまないの。面白くないから、もうおじちゃん、死んじゃってよ」
 ステューは刃に変わった腕を振りながら、ファミリストンへ向かった。
 そこに、ステューの油断があった。子供の遊び感覚だったのだろうが、迂闊にもステューは飛び込んでいったのだ。全神経を高めて、一振りだけに賭けていた、ファミリストンの懐へ。
 ステューの身体に今までない感情が走る。寒気。悪寒。それは、恐怖。ファミリストンの獲物を狙う視線と目が合った。
「おおっ」
 ファミリストンは発した声と一緒に剣を振りぬいた。
 必死で受けようと刃をかざしたステューの右腕が吹き飛んだ。
「ぎゃあああああ」
 刃が元の姿である腕に戻り、そのまま地面にドスンと落ちた。
 ファミリストンは肩で息をしながら、うずくまっているステューを見た。誤算があった。先程の一振りは、ステューの首を、命を狙っていた一振りだった。それはどんな物で防いでこようが、まとめて斬るはずだった。
 だが、結果は右腕のみ。『右腕しか』仕留められなかった。
神経を集中させすぎて、ファミリストンは今にも崩れ落ちそうな身体をなんとか持ちこたえさせる。
「うっ、うっ、うっ」
 ステューの泣き声が洩れる。この悪魔の子供には、まだもう片方の腕がある。ゆっくりと左腕が刃へと変化していく。
「よくも…僕の…腕を…」
 ステューは立ち上がった。顔を真っ赤に興奮させて、目には涙を溜めて、ファミリストンに怨恨の目を向ける。
「こっ…殺す…殺してやる。殺してやるぅ!」
 ステューは雄叫びをあげた。
そして。
 消えた。
「なっ」
 ファミリストンが唖然とする。ステューの能力を彼は知らなかった。動きがあまりにも速いため、消えたように見えるという異常な脚力の持ち主だったことを。
 恐らくファミリストンほどの戦士であれば、すぐにステューの能力を理解するだろう。
 それには、まず、最初の一撃をかわしてからの話になる。
 ヒュッ。
 風が吹いた。瞬間。ファミリストンの両足太ももから鮮やかな血が舞った。
「ぐっ」
 今度は右腕が、左腕が、斬られていく。傷は深くはないが、間違いなくファミリストンの力を削ぐには十分な攻撃だった。
 斬られてから、剣を振っても遅すぎる。能力は理解した。だが。あまりの速さに目がついてこれないのだ。
 ファミリストンが地面へ倒れそうになるのを、太陽は静かに見下ろしていた。


 ティファレン城。城内。王の間手前。
 パール3兄弟の1人のドゥージと、ゲルニア国将軍スライは、お互いの出方を探りすぎているのか、全く動かない。
 少し緊張している面持ちのスライに対して、ドゥージは余裕のある表情をしている。
 その場から動いていないように思えるが、ジリジリと2人は間合いを詰めていった。
「…」
「…」
 沈黙の時間。
 ほんの数秒の時間が、永遠にも思える。
 吹き込んだ風と一緒に木の葉が踊る。丁度ドゥージの目の前に被った。
 その隙を逃さずに、スライが飛ぶように突っ込んでいった。


つづく。












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