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異界の帝国  作者: 赤木
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第十五話

なんかグダグダですが。

バルアス共和国

首都タレス上空



カルロス・デラーク少佐は確信していた。これから迎え撃つ正体不明の飛行物体……それがニホン軍の戦闘機であると。


「デラーク少佐、君の目で確かめてきてくれ。本当にTAー87を超える戦闘機が存在するのかを」


「はっ! 共和国の空は我々が守ります」


無線が切れる……改良型の無線は司令部からの声も明瞭にデラークに届けていた。


高度1万メートル、地上とは比べ物にならない低温……電熱服に身を包んではいるが寒いことに変わりはない。


「ニホンの戦闘機はここより高いところを我々の戦闘機より速く飛べるのか……」


初めて遭遇したときからTAー87では対抗できないと感じていたが、実際に戦ってみないとわからない。


「こいつがどこまで通用するか試してみるか」


「首都早期警戒隊より通信! 敵機からミサイルが発射された模様!」


「くそっ! まさか艦隊を狙ってきたのか。戦闘機にミサイルが装備されているとは……」



タレスより120kmほどの場所で対艦ミサイル……06式空対艦誘導弾を発射した烈風各機は、着実に迫りつつあるバルアス軍の戦闘機を捕捉していた。

06式空対艦誘導弾はあらかじめ設定された目標へ向けて飛翔する。その数120発……それは前世界にかつて存在したソビエト連邦海軍が、日米の空母機動部隊を確実に殲滅するために考案した飽和攻撃を連想させる。


松尾は機体が軽くなったのを感じた。重量500kg以上の対艦ミサイルを4発ぶら下げていたが全弾を発射したことにより、とてつもなく身軽になったと思えてくる。

しかし、烈風にはまだ対空ミサイルも残っている。


胴体下部に射程の長い5式空対空誘導弾が4発、両翼端には赤外線プラス画像誘導の15式短距離空対空誘導弾が2発。対空戦闘をするには十分過ぎる装備である。


松尾は兵装スイッチを5式空対空誘導弾の発射モードに切り替える。HUDに緑色のシーカーが広がる……緑色の四角形は、まだ見えない敵機を捕捉するたびに増えていく。


データリンクによる、目標の振り分けが完了するのにそれほど時間は掛からなかった。

5式誘導弾は4目標に対して同時にロックオンが可能であり、1回の攻撃で全弾を敵機に向けて発射可能である。


一昔前のミサイルであれば誘導波を照射し続けなければならない面倒な物であったが、このミサイルは所謂撃ちっぱなしミサイルのため、発射後誘導波の照射は不要である。


緑色のシーカーは敵機をロックオンしたことを示す電子音と共に、赤色へと変わった。


「全弾発射!!」


松尾は勢いよく発射ボタンを押し込む……胴体下を離れた5式誘導弾は一旦後方へ置いていかれるが、次の瞬間推進剤に点火したそれは驚異的な速度で烈風を追い越す。

赤城隊と加賀隊は既に母艦への帰投を始めていたため、松尾ら飛龍隊の各機が敵航空機の足止めを任されるかたちとなった。敵機の数はおよそ60機、5式誘導弾が全て命中したとしても20機が残ってしまう。


「ちょうどいい、バルアス軍の戦闘機を間近で見ておくか」


「隊長本気ですか? さっさと飛龍に帰ってお風呂でも……」


河野大尉が帰投を提案するが、それは松尾によって遮られる。


「まぁまぁ落ち着け。敵をこの目で見ておくことに損はないだろう」


「はぁ、たしかにそうですが」


「せっかくのダンスパーティのお誘いだ。これは断れない」


松尾はふざけた口調で冗談を言って見せた。


「隊長が招待されたなら我々も付き添わなければいけませんな」


河野もそれに同調してしまう。



それは一瞬であった……

「前方より高速飛翔体接近!!」


カルロス・デラーク少佐は前衛の部下からの無線通信で前方を凝視した。それは戦闘機より速く飛行し、こちらへ向けて一直線に突っ込んでくる。


「いかん! 退避……」


言い終わるより早くそれらは前衛の機に次々と命中し始めた。


「くそっ!」


デラークはその光景を呆然と眺めることしかできない……一気に40機のTAー87が叩き落とされた。


「少佐殿! 反撃しましょう! このままでは帰れません」


部下の悲痛な叫びが聞こえてくる……どれほど時間が過ぎただろう。

しばし呆然としていたデラークは時計を見るが、僅か1分程しか経過していない。

ニホン軍の戦闘機は目に見えない場所から攻撃ができる。デラークはそれを考えただけで、TAー87では絶対に超えられない隔絶した性能差を感じずにはいられなかった。

「少佐殿! 聞いておられるのか!」


無線機からの部下の声でデラークは決断する。


「全機突撃するぞ! 1発でも多く30mm弾をお見舞いしてやれ!」


「了解!」




「5式誘導弾全弾命中しました」


河野が淡々とした口調で松尾に報告する。


「やはり防御策はもっていないか……」


「奴らまだ諦めてないようです。20機が接近中」


「さすがはダンスパーティの主催者だ。おもてなしに期待したいところだ」


河野は思う……この中佐殿は最初から敵との超接近戦を望んでいたのだと。


「隊長、まだ15式が残ってますが」


「そう早まるな。使い道はいくらでもある。今は温存だ」


「自分が思うに……温存すべきだったのは高価な5式かと」


「まぁそう言うな。これでこちらが有利である可能性が高いことがわかったからな」


「たしかに、我が海軍航空隊の空戦技量はルフトバッフェにも勝るとか言われてますが」


「我々の真骨頂は格闘戦だろ? まぁレシプロ機に比べりゃ小回りも利かんし図体もデカイ。だがジェット戦闘機のこの時代でも格闘戦の訓練を続けてきたんだ。訓練の成果を見せてやろうじゃないか」


「了解!」




「見えた、ニホン軍機だ!」


デラークはニホンの戦闘機の姿を視界に捉えた。両者は急速に距離を詰めていく。

だが、ニホン軍機の集団は唐突に散開する……


「俺にケツを見せたらどうなるか教えてやる!」


デラークは散開したうちの1機に狙いを定める


「これは!?」


接近して初めてその威容に気付く……濃い青色の塗装、TAー87より面積の大きな主翼、二枚の垂直尾翼、尖った機首……何よりもその大きさに驚いてしまう。


「だが図体だけでかくても空戦でケツを取ればこっちのもんだ!」


デラークは慌てて回避行動をとる敵機に(少なくともそう見えた)急速に距離を詰めていく。


「その図体じゃ素早い動きができないか? すぐに落と……」


最後まで言えなかった。いや、言葉を発することもできない程の光景を見た気がした……




「なめてもらっちゃ困るな」


河野は後方より迫り来るバルアス軍機を、上昇に転じながら烈風の驚異的な加速で一気に振り切る。

急角度での上昇にも関わらず、2基の三菱重工製ジェットエンジン『JT05M』は圧倒的な推力で重い機体を高空へ押し上げる。


「この加速がたまらん。さて、ついてきてるか?」


後ろを振り返り、敵の姿を探す……そこには、遥か後方から必死に追従しようともがく敵機がいた。


「まるでメッサーシュミットのMe262だな」


河野はバルアス軍の戦闘機を見て、もはや博物館でしか見ることのできない機体を思い浮かべる。


「うむ、やっぱりそう見えてしまう。おっ? 反転するか……」


敵機は上昇についていけず諦めたのか、反転して離れていく。




「ニホン軍はあんな化け物を!? とんでもない上昇力とスピードじゃねぇか」


ニホン軍機は急角度の上昇を苦にすることなく、信じられないスピードを発揮していた……そしてTAー87では対抗できないと判断し、デラークは愛機を反転させることしかできない。


「機体もそうだが、俺の体もついていけない……何かが根本的に違う!」


「隊長! 助けてください!」


「どうしたんだ!?」


「ケツにつかれてます!」


周囲を見回すと、1機のTAー87が例のニホン軍機に追い回されていた……その主翼の付け根が煌めいたかと思うと、曳光弾がTAー87の胴体に突き刺さっていく。

攻撃を受けた味方機は胴体から火を吹き機体の破片をばらまきながら下界へと落ちてゆく。


「マルクス!」


しばしの間撃墜された味方を見ていたため、後方から迫り来る脅威に反応するのが遅れてしまう。


――ガンガンガンガンッ――


その音で現実に引き戻されるが、もはや手遅れであった。後ろを振り返ると上昇していた筈の敵機が、その主翼の付け根に装備された機関砲を射撃する姿が目に映る。


気付けば機体の自由が利かない……


「くそっ! 操縦系統がやられたか!」


もう一度後ろを振り返ると、ニホン軍機は自分に興味をなくしたのか離れていくところだった。


「脱出してください隊長!」


「そうだな、この機体じゃタレスまで帰れそうにない」


周囲の敵機は完全に興味を無くしたらしく、南の方へ飛び去っていく。


「帰ったか……」


デラークはそう言うと射出レバーを引く……キャノピーが吹き飛び、圧縮空気により座席ごと射出される。


「くっ!」


――海上か、救助はいつ来るんだろうか――


そんな思いを抱きながらデラークはパラシュートで降下していく。

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