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異界の帝国  作者: 赤木
12/69

第十二話

またまた遅くなりました。

 7月16日

 13時00分



 ――日本海で操業中の漁船撃沈される――


 このニュースは瞬く間に帝国全土を駆け巡り、国民に少なからぬ衝撃を与える。


 出港から既に二時間……霧島は日本海の荒波の中を航行していた。

 転移後の日本海は以前にも増して荒れやすく、航海には注意が必要であるが、霧島は波に揉まれながらも余裕といった感じで突き進む。


 艦長の山田は波しぶきのかかる艦橋から海を眺めていた。

 「今夜あたり大荒れしそうだな。敵さんも気の毒だ」


 「その通りですよ。バルアス共和国近海は穏やかな海だとか」


 「我が海軍の艦艇は対策を徹底しているからな。この程度の波浪は怖くない」


 「対策を施していない軍艦がどれほど耐えられるか見物ですな」


 「あぁ。しばらく様子を見るか」


 

 日本海

 竹島沖


 駆逐艦ローダーは強風と波浪によって大きく揺さ振られていた。


 「なんだこの海は……こんなに荒れるとは聞いてないぞ!」


 ポリマー少佐はバルアスの穏やかな海がどこまでも広がっているものと信じていた。

 しかしここは想像以上に荒々しく獰猛な波が襲い掛かってくる……つい一時間前まで静かだった海が急に姿を変えたのだ。


 「まだ作戦は始まったばかりだ。いずれこの波もおさまるだろう。しばらくの辛抱だ」


 「艦長……どうも船酔いになったみたいで」


 「情けないな副長。海の男たるものが船酔いとは……しばらく休んでくるといい」


 「しかし、この艦のどこへ行っても相変わらずな揺れでして……結局ここに戻ってきました」


 「そうか。おさまるまで耐えるしかないな」


 「やや揺れが大きくなったような……艦長、まずくないですか? このままだと危険かと」


 「たしかにな……海に出て三十年、こんな荒れた海は今まで見たことがない」


 ポリマー少佐は荒れる海を見て心配そうに呟く……彼は海の男として、自然界からの警告を確実に感じ取っていた。

 空はどす黒い雲に覆われ、今にもローダーを飲み込もうとしているかのようだ。


 「副長、乗員を警戒配置に。非番の者も例外ではない」


 「はっ!」

 

 その時、一際大きな波がローダーに襲い掛かった。上下左右に揺さ振られ、艦内の人間は床や壁に叩きつけられる……艦の各所からは大きな軋みが聞こえ、リベットに打ち付けられた鋲が緩む。


 「ばかなっ……」

 やっとの思いで立ち上がったポリマー少佐は、艦橋から見える光景に絶句した。

 ローダーの艦首は、主砲の辺りから完全に切断され、どこかへ消え失せていたのだ。

 

 「なんということだ……これでは作戦遂行は不可能だ。帰投すら難しいかもしれん」


 「艦長! 機関室への浸水により機関停止……航行不能です!」


 「くそっ! 敵に狙ってくれと言ってるようなもんじゃないか! なんとかならないのか?」


 「無理です艦長。たとえ動けたとしても後進するしかありません」


 「そうか……仕方ない。しばらく漂流するしかないようだな」


 ローダーは漂流状態のまま夜を過ごすことになるが、この時点では差し迫る脅威に誰も気付くことはなかった。



 7月16日

 20時20分

 日本海

 竹島沖


 「敵駆逐艦の様子はどうだ?」


 「現在も航行不能のようです。ダメージが思った以上に深刻なんでしょう」


 「そろそろ準備に取り掛かるとしよう。大尉、部隊を作戦室に」


 「はっ」


 ここは攻撃型原子力潜水艦伊601の艦内である。漁船が沈められた際には比較的近くで潜航訓練を行っていたが、霧島からの通信を傍受し現場へ急行してきたのだ。


 「霧島じゃ大きすぎて相手に気付かれるからな。それにしても……本当に気付いてないのか」 


 「劣悪なソナーか、対潜装備を持っていないか……まぁ持っていても見つからないでしょう」


 副長が自身ありげに言うのには根拠があった。

 伊600型潜水艦は徹底した防音、防振対策が施されており、水中を30ノットで航行しても探知することができないと言われている。

 実際、アメリカ海軍との演習では幾度となく空母機動部隊を「壊滅」させていた。


 「領海侵犯は撃沈に値する。が、司令部から拘束せよとの命令だ」


 「大島大尉以下十名、いつでもいけます」


 「よしっ、では頼んだぞ」



 深夜、ローダーに近づく影があった……

 黒いウェットスーツを着た影は艦首付近の水中から接近し、待機している。切断された艦首付近には浸水した区画があり、そこから侵入できると判断したのだ。


 「大尉、浸水した通路から艦内に入れそうです。扉がありますが簡単に開けられる物です」


 「じゃあお邪魔するか。三人は艦尾から行け。気付かれるなよ」


 大島は部下に指示を出した後、駆逐艦の通路に足を踏み入れる。そこで防水袋から消音器が装着された95式短小銃を取出し、簡単なチェックを行う。

 部下も同じように装備を取出しチェックしていく……


 「前進」

 

 潜入部隊はゆっくりと艦内へ向かい進み始めた。



 「艦長、乗組員に疲れが出ているようです。少し休ませるべきかと」


 「うむ……では休ませよう」


 「はっ、ありがとうございます」


 「大変です! 侵入者が!」


 「なに!? どこに侵入された」


 報告に来た乗組員に問いただすが、何かがおかしい……突如その背後から黒づくめの武装集団が飛び出してきた。

 

 「何者だ!?」


 「あなたが艦長か? 大日本帝国海軍臨検部隊だ。この艦は我々が制圧した」


 ポリマー少佐は拳銃を取り出そうとするが、黒づくめの男の正確な射撃で拳銃を弾き飛ばされてしまった。周囲を見回すと艦橋要員は皆取り押さえられ、もはや抵抗することは不可能な状態である。


 「私をどうするつもりだ?」


 「拘束する。その後のことは我々の知るところではない」


 「乗員の身の安全は保障してくれるのだな?」


 「ご心配なく。殺してはいない、寝かせているだけです」


 「わかった。では拘束するがいい。しかし周りに船もないのにどうやって来たんだ」


 「すぐにお分りいただけます。」


 そう言うと黒づくめの男は小型のマイクのような物に向かって、何かを喋り始めた。


 「迎えが来ます。外へ出ましょう」


 ポリマーは黒づくめの男が発した言葉を理解できなかったが、甲板から海を見て驚愕することになる。

 甲板に出てしばらくすると、突如海面が盛り上がり、黒い何かが姿を現した。

 

 「あれは!?」


 ポリマー少佐はローダーよりも長く、丸みを持ったそれがどいうものなのか分からなかった。見た感じでは武装もなく、出っ張っているものは艦橋と思われる場所だけで、ますます何の為にあるのか分からなくなってしまう。


 「あれはなんだ?」


 「潜水艦です。では行きましょうか」


 駆逐艦ローダーは漁船を1隻沈めたのみで、後日帝国海軍の標的艦として日本海に没することになる。

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