紫陽花の秘密
紫煙を燻らす貴方の指先が、とても綺麗で好きでした。
覚えていますか? 私の事を。
幼い貴方の避難場所だった私を。
貴方はあっという間に大きくなって、私では貴方を隠しきれなくなりました。
震える貴方を、私は守れなかったのです。
見付かった貴方が泣きながら私へと伸ばした手を、私は、私は―――――――――――――――――掴めなくて……。
暫くして戻ってきた貴方の頬は赤く、体はボロボロでしたね。
けれどそれ以上に、貴方が引き摺ってきたモノは赤かった。
あの時の貴方の目を、私は一生忘れないでしょう。 例えあの頃の私ではなくなろうとも、私は一生貴方の罪を許し続ける事でしょう。
思い切り吸い込んだ煙りが、貴方の中から出ていく度に、私は私の色を思い出すのです。
綺麗な綺麗な紫色だと、幼い貴方は無邪気に誉めて下さいましたね。
あれから私は私の色を愛するようになったのです。
例え今の私が薄紅色だとしても。
あぁ、また雨です。
貴方の吐き出す煙りは重苦しい悪夢のようで、貴方自身の目にさえ染みて、滲みて。
ケホケホと咳をしながら笑ったものです。
ポタポタ落ちるは雨か涙か。
私の元へとおいでなさい。
貴方と涙を流しましょう。
ゆらゆらと水の合間に流れる煙りは掴めなくて、伝わらなくて。
それでも私は背負いましょう。
貴方の闇を抱き締めて。
貴方の罪を許しましょう。
紫陽花は今日も、赤く紅く咲くのでした。