〜ひとりの英雄〜
ターレスは最後にレナの父の死に触れる。
そこには大きな狂気が潜んでいた。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
(そうと決まればゆっくりとはしていられない。 早くカロスを探し出さなくては)
早々に立ち去ろうとするレナを、ターレスは呼び止めた。
「待ちなさいレナ。 焦らなくてもカロスの場所は分かっている。 モスコホリの奥地にレアの泉が湧いた。 お前なら直ぐ辿れるだろう」
それを聞いたレナは、再び頭を抑え、唸るように声を漏らした。
〝レナ〟は〝レア〟も苦手であった。
女神レアは、レナにとっての師匠であったが、自ら望んだ師事ではなく、また、女神にとっても押し付けられた教育でしかなかった為、二人の間にはくっきりと亀裂が走っていた。
中でも、レナにとって決して許す事が出来ぬ過去があった。
レナの名前は元々“レオナ”であったが、ケンタウルスの小娘が獅子を司るなどおこがましいと、無理矢理レナに改名させられたのである。
体裁が悪いことに、女神レアは地上界に於いて最上位の女神であり、森中の生き物や流石のレナ自身にも、この横暴たる改名に抗う術を持たなかった。
両親を想い慕うレナにとって、それは親子の絆を断ち切るに等しき蛮行であり、心の中に憎しみが芽生えるのは、実に自然な流れであった。
「私これから女神レアとカロスに会って、その後ケイロンの所へ行くの?」
レナは打ちひしがれたが、「そんな事はどうでも良い」とあしらわれた。
「場面を弁えるのだレナよ、今そんな事を気にしている場合か」
「そんな事と言いましても……」
苦手なものは苦手なんだものと出かける言葉を飲み込み「そうね、ごめんなさい」と諦めを付けた。
「もうひとつ言わなければならないのは、お前の父の事だ」
萎れていたレナの身体はスッと伸び、怖々とターレスを見つめた。
「お前がどうしてもケイロンに会わねばならぬ時が来た場合は、教えるようにと頼まれていたんだよ。 おおよそヤツも、殺されたくはないのであろう」
ターレスは戯けて見せたが「どんな理由であれ、彼への憎しみは消えないわ」とレナは冷たく返した。
「良いかレナ、落ち着いて聞きなさい。 お前の父である『ネッソス』。 彼を殺めたケイロンの弟子、その者の名は『アルカイオス』だよ」
レナはその名を聞き、衝撃に打ちのめされた。
この地上界に、アルカイオスの名を知らぬ者など存在しなかった。
それは歴史上二度と現れる事はないであろう大英雄の名であり、そして父ネッソスの無二の親友であったと言い伝えられていた。
「そんな……」とレナは打ちひしがれた。
「何故そんな……ケイロンのでまかせよ!」
語尾を荒げるレナに、ターレスは冷静に答えた。
「流石のヤツもそんな下らない嘘をつくほど堕ちてはおらんよ。 それぐらいはお前も分かっているだろう?」
レナに逃げ道は無かった。
ターレスは結論に向けて語り始めた。
「ケイロンの過ちは、アルカイオスの余りにも素晴らしい才能に目が眩み、その内に秘められた狂気を見抜けなかった事だ。 そして、死んだとされているアルカイオスだが、ヤツはまだ“生きて”おる」
レナは今何が起こっているのか、分からなくなってきた。
目の前で語られる真実が余りにも、自分の中の知識と解離していた。
「アルカイオスは、ヒドラの毒に侵されて死んだ……」
「ああ、それは事実だ。 ヤツはあの時確かに死んだ。 しかしその後、神の座に上ったのだ。 名前を変えてな。 もう分かったであろうレナ。 歴史上あんなに突如として、神の座に現れた者は他にいない」
確かにレナの頭にはひとつの名前が浮かんだ。
レナがどんなにその名を心の中で拒んでも、当てはまり過ぎる辻褄がそれを許さなかった。
そして、英雄を司る神であるその名を呼んだ。
「ヘラクレス」
ターレスはゆっくりと頷いた。
レナレアレナレア書いてて頭がおかしく成りそうでした。
そしてやっぱりヘラクレス出てきましたね。
実際のギリシャ神話でも、ヘラクレスはその狂気っぷり(実際には操られている)をいかんなく発揮してるので、調べてみてね。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、レナの父を殺めた者)
・ネッソス(レナの父)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元精霊の魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)